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【変わる障害者雇用】第5回 就労体験を支える地域の緩やかなネットワーク~ぷれジョブパネル展示会~

2014年12月16日(火)

WebライターのKです。

今回は「子どもたちの就労体験」がテーマです。12月9日~11日、横浜駅に近い神奈川県民センターで行われた「ぷれジョブパネル展示会」(主催:神奈川県)のオープニング・イベントに行ってきました。

地域に溶け込むための就労体験

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「ぷれジョブ」とは、小学5年生から高校3年生までの障害のある児童・生徒が地域で行う就労体験のことです。2003年、岡山県倉敷市の中学校区の課外活動から始まり、全国規模の連絡協議会が発足し、現在16府県に活動の輪が広がっています。

「ぷれジョブ」の仕組みはきわめてシンプル。障害のある生徒などが地元の会社で、週に1日1時間の就労体験を6か月間続けます。そして、一つの会社が終了すると、また別の会社で同じことを繰り返します。その間、ジョブサポーターと呼ばれる地域のボランティアが子どもたちに寄り添いをするというものです。

写真は「ぷれジョブ」を経験した子どもたち。特別支援学校などに通う生徒たちで、「シュレッダーで書類を細切れにするのが楽しかった」と話しました。マイクを握っているのは、今回の展示会を企画した「ぷれジョブ藤沢」の事務局長をしている内海智子さんです。
 


20141216_002_R.JPG「ぷれジョブ」は障害のある子どもたちにとって、貴重な就労体験となるだけではなく、障害のある子どもが地元に溶け込むことで、彼らを支える住民の緩やかなネットワークが生まれることに意義があると言います。

障害のある子どもは、学校時代は家庭と特別支援学校との往復、卒業後は特例子会社や作業所などとの往復だけで、地域との接点を作るのが難しい事情があります。地域の人にとってなじみのあるハンバーガーショップやコンビニなどで、住民が地元の障害のある子どもたちと顔見知りになることで、両者に交流が生まれ、“心のバリアフリー”が促進される効果があります。

写真:オープニング・イベントの会場には、地元の受け入れ企業やボランティアのジョブサポーターが集まりました。



ハードルの低さと効果の大きさが魅力
20141216_003_R.JPG今回の展示会を企画した「ぷれジョブ藤沢」の代表は、元宮城県知事で神奈川大学教授の浅野史郎さん。浅野さんは、「ぷれジョブ」の意義を「地域の非専門家(アマチュア)を半専門家(セミプロ)にすること」と一言で表現しました。福祉の専門家を組織したり、行政の制度を利用する活動は、どうしてもハードルが高くなります。ところが、1週間に1日1時間だけという「ぷれジョブ」の活動は、受け入れ企業にも、ボランティア住民にも負担は少なく、費用も発生しません。そして、6か月間ジョブパートナーを務めた住民は、障害のある子どもたちへの理解を深めてくれます。そのハードルの低さと効果の大きさが「ぷれジョブ」の魅力だと言います。

浅野史郎さんは、慶應義塾大学の藤沢キャンパスで教員をしていたときに、全国ぷれジョブ連絡協議会の代表世話人の西幸代さんから声をかけられ、その趣旨に賛同し、それ以来、藤沢地区の代表を務めています。障害者福祉をライフワークにしながらも、行政の中枢での仕事が多かった浅野さんにとって、「ぷれジョブ」のような現場の仕事は新鮮さを感じるそうです。現在の課題は、ジョブパートナーが不足していること。会場の参加者にぜひ手を上げてほしいと、訴えていました。



ボランティアの報酬は子どもたちの笑顔
20141216_004_R.JPG展示会に来ていた唐松初男さん(66)は、コミュニティ紙に掲載されていた「ぷれジョブ藤沢」の記事を見て、ジョブパートナーに応募しました。そして、知的障害のある子どものマリンスポーツ会社での就労体験に寄り添いました。唐松さんは、以前にも知的障害のある子どもたちの活動を支援するボランティアを経験していますが、「ぷれジョブ」の活動には、その時以上にやりがいを感じたと言います。
6か月間ひとりの子どもさんと付き合うと自然と親しくなれますし、何よりその子が成長していく姿を見ることができます。これは貴重な体験でした。ボランティアですから、もちろん報酬はありませんが、強いて言うなら、その子の忘れられない笑顔が報酬ですね」

写真:藤沢市内の印刷会社、ハンバーガショップ、コンビニ、飲食店、販売会社など15の事業所が受け入れ企業になり、活動の様子がパネルで展示されました



いま障害者雇用の現場では、福祉の専門家や人事担当者による支援だけではなく、「ナチュラル・サポート」と呼ばれる一般社員の日々の支え合いにも力が入れられています。同じように地域においても、一般住民の緩やかな支援のネットワークに期待が集まります。現在障害者に限らず、高齢者や貧困者など地域の支え合いを必要とする人は増え続けています。行政と専門家だけでは、福祉を支えるのは難しい時代になっているのではないでしょうか。

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