Road to Rio vol.64 ボールの配置から"頭脳戦"がわかる...神聖さを感じた「ボッチャ」というスポーツ。
2016年01月15日(金)
- 投稿者:web担当
- カテゴリ:Road to Rio 2016
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白のジャックボールに“より近い”ボールを投げた選手が、勝ち。
ボッチャは至ってシンプルなスポーツですが、それゆえの滋味深さがあります。
たとえばこのボールの配置。ジャックボールの上に青い球が乗っかっています。ボールを弾ませなくては上に乗せることができません。しかし、ボッチャのボール素材は指でつまめて伸びるものから硬いものまであり、テニスのように弾ませることは難しいボールです。
上に乗った時の衝撃が大きければ、白いボールがはじかれ遠ざかってしまう可能性もあります。正確な、そして絶妙の力でボールをコントロール!そうしてやっと「1点」を追加することができる…。
この1枚の写真だけでこんなに想像力を掻き立てられるスポーツは、あるでしょうか?
昨年末の12月26・27日と、グリーンアリーナ神戸で行われた「第17回 日本ボッチャ選手権大会本大会」に行ってきました。脳性まひなどの、重い障害のある人のために考え出されたという競技、ボッチャ。障害者スポーツの取材に行くようになって、“重い”障害のある方々のスポーツへの身体の使い方やメンタルや集中力は、とても興味深いと思っていたので取材が楽しみでした。
ボッチャは、重度の脳性まひ、もしくは同程度の四肢重度機能障害のある選手が、男女の別なく出場できるスポーツです。
障害の程度に応じてBC1~4のクラスに分けられ、全クラス車いすを使用していることが条件になります。最も障害の重いクラスがBC3、続いてBC1、BC2という順で障害が軽くなります。BC1とBC2は脳性まひなどの脳原性の疾患の選手を対象にしています。また、BC4はBC1やBC2と同等の障害がある選手で、頚髄損傷、筋ジストロフィーといった非脳原性の疾患の選手を対象にしています。BC3では疾患の別に関係なく、自身でボールを投げることができない選手が該当するクラスです。
こちらは最も障害の重いBC3クラスの奈良 淳平選手。勾配具(ランプ)に置いたボールをヘッドポインターで押し、転がします。
BC1クラスの合田 眞則選手。ボールを持つことができないため、競技アシスタントに「ボールを渡してください。ボールを丸めてください。」というような指示を出して競技を行います。
会場では、1列6コート×2列、12試合同時に行われていました。
BC1クラスの金城 歩未選手。
試合後、左の遠藤 裕美選手と談笑する金城選手。健闘をたたえ合っている?ほほえましかったです。
こちらはリオパラリンピックで実施されるクラスではないのですが、オープン立位クラスの試合。左は山崎 宗晴選手、右は予選会から突破してきた金井 莉麻選手。彼女はなんと14歳!
青いボールが金井選手。得点で来ているようですね。(試合は5-2で金井選手の勝利)
ずっと見ていても飽きないくらい凄いなあと思ってしまう、「BC3クラス」の試合。選手が競技アシスタントに、勾配具(ランプ)の角度(方向)を伝え、長さを指定し、ボールを置いてもらう。そして、ヘッドポインターや指でボールを押し出すという…どれくらいの強さで“押せば”よりジャックボールに近づくのか、なぜわかるのでしょうか??
試合全体の様子です。コートは12.5m×6m。BC3の競技アシスタントはコートに背中を向け、試合の状況を見ることはできません。また、選手にアドバイスすることは禁じられており、「選手の手足」になることに徹しています。
決勝戦を前に、一般社団法人日本ボッチャ協会理事の若松信司さんにお話をお伺いしました。
決勝の見どころを教えてください。
確実に上がってくるだろうと思っていた選手が上がっているクラスもあれば、新顔が上がってきているクラスもありますので、今回そういうところが面白いです。
確実に上がっているというと?
BC2ですね。(廣瀬 隆喜選手と、杉村 英孝選手)
それぞれのクラスでの選手の攻め方は、どんな感じでしょうか?
ベテラン同士の戦いは、お互いの戦術がわかっていますので、「穴をいかについてくるか」という戦いになると思います。
新しい選手は、各試合の中で(お互いを)探りながらやっていますので、本当に展開が急転したりというようなクラスもあります。
BC3のクラスが「予想外の展開」が多かったように思いました。
BC3は、今までですと、脳性まひの選手が多かったのですが、今回は頚椎損傷…ベスト4のうち3名がそういう選手で、脳性まひの選手が1名となっています。
いろいろなところで、自分たちでできる競技が何かっていうところでやり始めて、そういう人たちがだんだん力を付けてきてきたかな、っていう感じが見受けられます。
BC3の選手層が厚くなったということですか?
そうですね、今回厚くなったと思います。もともと違うクラスだったけれど障害が進んでBC3に行ったという選手も中にはいらっしゃいますし、あと、脳性まひの選手ですとどうしても「視野」視界がだんだん試合が進むにつれ、疲れでブレが出てきたりするのですが、頚椎損傷の方々は、座位をとっているのが大変ではあるけれど、「視野」という面では優位だったり。そういうところを生かして突いてきていると思いますね。
脳性まひの選手でいうと加古選手ですか?
はい、そうですね。今回、調子いいですね。
若松さんがお好きなゲーム展開や「技」はありますか?
ジャックボールに球を転がして近づけるっていうのは平面の戦いなのですが、最近の国際大会に行くとよくあるのが、上からボールを落とすとか、3D。ボールを乗せるとか、2Dから3Dの動きに、立体的な動きになってきているんですよ。
そうですね。バウンドさせて、手前にあるボールのところを超えていくとか、あと、ダイレクトにジャックボールに当てるとか。という展開は国際大会でよく見ます。
あと、世界の中では。転がすボールもカーブするんです!そんなボールもあるんですよ。
なので本当にいろいろ…ただ転がすだけっていうのではなく、投げる・空中での戦いとかが見どころになって面白いかなと思います。
あとやはり、好きな展開としては「弾いて、寄せて、弾いて、寄せて…」っていう正確さで、最終的に1対0とか、1対1で終わるような一戦の方が、醍醐味があるなって思います。
本当に1球1球で展開が変わる…チェスとか将棋みたいな、そういう展開が一番の醍醐味な競技だと思うので。
決勝戦の前にもかかわらず、ありがとうございました!そして私はわくわくしながら決勝会場に戻りました。
青い柵の手前にいる多くはメディアです。反対側にもたくさんいました。
ピンクのベストの方の奥にいるのは山田キャスターです。
オープン座位のクラス。辻村 吉昭選手(左)と、嶋谷 長治選手(右)。2対4で嶋谷選手が優勝しました!
オープン立位のクラス。石田 健二選手(左)と、皆森 俊夫選手(右)。0対9で皆森選手が優勝しました!皆森選手は前回準優勝からの優勝でした。
BC4の前回優勝の藤井 金太朗選手。連覇なるか?!
山田キャスターも注目していたBC1クラス・三連覇を目指す藤井 友里子選手(右)。対戦相手は中村 拓海選手(左)です。
藤井選手の素晴らしい投球をご覧ください!
赤いボールは吸い込まれるようにジャックボールの隣に!
こちらはBC2クラス。左が前回大会優勝の廣瀬 隆喜選手。右は第14回、第15回大会で連覇を果たしている杉村 英孝選手。縦6mのコートのめいっぱい端のところにジャックボールがあるエンド(試合)もありました。
杉村選手の投球。(ボールは赤)
廣瀬選手の投球。(ボールは青)
廣瀬選手のボールがジャックボールの上に見事着地!大きな歓声が上がっていました。
個人的にとても注目していたBC3のクラスです。国際大会の経験も豊富で、メダルも獲得経験もある“レジェンド”加古 龍志選手(右)と、大会初出場で決勝に進んだ“新星”高橋 和樹選手(左)との戦いです。
ぴかぴかの鏡のような床にランプが映り、加古選手の“狙い”が見えます。こちらから見てジャックボールの右側を狙っていますね。
ジャックボールを突き、他の青いボールを弾いて一番近くに寄せました。
BC3クラス/3・4位決定戦は背中合わせのコートで試合を行っていました。競技アシスタント(写真上の2人)は自分たちのコートに背中を向けなくてならないこともあり、決勝戦を食い入るようにみつめているのが印象的でした。
“新星”高橋選手の投球。
見えにくいですが、ジャックボールの手前に赤のボールがあり、そこを狙っているようですが…
見事、赤のボールを弾きました。
1試合は4エンド行われます。こちらは最終の第4エンド。ジャックボールとの距離を測っています。
結果は…このあとの「表彰式」で!
表彰式。2日間に渡る熱い戦いが幕を閉じました。
BC1クラス。
優勝は藤井 友里子選手、3連覇(7-2)!おめでとうございました。2位は中村 拓海選手、3位は木谷 隆行選手でした。BC2クラス。
優勝は杉村 英孝選手(3-1)!おめでとうございました。2位は廣瀬 隆喜選手、3位は梅村 祐紀選手でした。BC3クラス。
優勝は高橋 和樹選手、初出場で優勝です(7-1)!おめでとうございました。2位は加古 龍志選手、3位は高阪 大喜選手でした。BC4クラス。
優勝は藤井 金太朗選手が連覇(4-0)!おめでとうございました。2位は木下 章選手、3位は高田 信之選手でした。BC3クラス。左から、加古選手・高橋選手・高阪選手。
初優勝の高橋選手にインタビューしました!
このたびはおめでとうございました!今のお気持ちをお聞かせください。
初出場だったんですけど、いつも練習している人たちが日本のトップの人達なので、出るからには優勝を目指そうと思ってきました。それが実現できたので、また次に向けて、今度は世界を目指して行きたいと思っています。
練習のコツや気をつけていたことはあったのですか?
練習相手をしてもらったのが、今回自分と同じ予選リーグで辞退した山下智子さんという、去年準優勝だった方なんです。自然と山下さんといい勝負をできるようになってきたことで、それが自信になって今回、やりやすい戦いができたと思っています。
勝負強いんですね!
もともと、柔道やっていたんです。
あ!そうなんですか?
ずっと柔道やっていて、一応、全国目指していたりもしたので、そういうところの勝負強さも、もしかしたらあるのかな?と思っています。
世界に向けて邁進していきたいとのことですけれども、2016年の目標などをおしえていただければと思うのですが。
自分がボッチャを始めたきっかけというのが、2020東京パラリンピックが決まって、「東京パラリンピックに出よう」と思ったのが一番なんです。なので、今回初出場ですけど、次は…偉そうかもしれませんが“追われる側”にもなってくるので、まず目標としては「この大会で連覇をする」ということを一番の目標にしたいと思います。最後に、日本ボッチャ協会の若松信司さんに今回の大会の感想を伺いました。
今回の大会はいかがでしたか?
レベルが少しづつ上がってきているなっていうのは実感しましたね。
選手のみなさん、第1投目で白いジャックボールにぴったり寄せてくるじゃないですか。ああいうテクニックはどのように得られているのですか?
練習の時に、合宿でもそうなのですが、1球置いて1球投げる。そしたら一度、リセット。でまた1球投げてそこに投げる。で、リセットという形で、そこにどんどんどんどん。戦術的にやっていくっていう練習よりも、1球まず投げる、そしたらそこに近づける、っていうような練習をしたり。あとは、試合始まる前のウォーミングアップの時に、“どこに投げても”ウォーミングアップは構わないので、自分が1球投げて、次に、相手のジャックボールのところに1球投げると。…そういう感じでいろいろ工夫しながら。ですのでおっしゃるとおりに、1球目というのが凄く重要になってくるんですね。
BC3の試合なんかですと、ジャックボールを投げて、ファーストボールを投げる。それを、相手が弾く。寄せる。弾く。寄せる…っていう繰り返しで、先に見過ごしたほうがっていう感じで、1点、1点、1点、1点っていうタイブレークの試合が何試合かありましたよね。そういうやりとりが一番あるのがBC3。
ですので、いかにミスを少なくするか、ミスをどのようにカバーするかが重要です。ランプは手で投げるよりも“正確”で、照準を合わせられるので。例えば真正面に投げたいときに真正面に合わせれば、真正面に行く。手だと真正面に投げたいと思って合わせても、ぶれてしまう、ということがあります。
気になったクラスの試合はありますか?
全クラス、スキルは上がっているなあと思うんですけど(笑)、あとは経験と、メンタルの強さが左右したっていう感じでしたね。
BC3でいうと、高橋選手が初出場で優勝されましたが、ご覧になっていかがでしたか?
対戦相手の加古選手も、経験も十分にあって、戦術もしっかりしていたんですけれども、その上を行くくらい、練習もしてきていたし。あと、彼の場合は、地域で、同じクラスのBC3の選手が何人もいるチームなので、お互いに切磋琢磨しながらやっているっていうところで、結果が出たのかなと思います。
今後、BC3でいうと、2016年3月に行われる北京の世界大会に出場できそうなところはあるのでしょうか?
ボッチャはランキング制なので、そこに入ってこないと、今のところリオパラリンピック出場は難しい状況ではあるんです。でも今後、リオの後の国際大会や東京に向けて、どんどん伸びてくるのかな、っていう気がします。
リオ大会に行ける可能性のある選手とは?
BC1、BC2の選手です。あと、BC1とBC2の選手3人で行う「チーム戦」があり、そちらで出場できるのではと予想しています。
選手層が厚くなるためにメッセージをいただけたら
ボッチャは重度の障害がある方々ができるスポーツです。なかなか自分が選手対象になっているということに気付かない“選手”も、全国各地にまだまだいると思いますし、他の競技をやっていたけれど、今、ボッチャをやっている選手もたくさんいますので、いろいろ経験していただいて、世界を目指す中に、“ボッチャ”という選択肢も持っていただけたら、と思います。
第17回大会が行われた、グリーンアリーナ神戸。
私は今回、初めてボッチャの試合を見たのですが、冒頭に書いたように「ボールの距離をめぐる攻防戦」に、すぐ夢中になってしまいました。寄せる・弾く・乗せる・遠ざける…ボールとの距離が様々な形となってコート上に表現されていて、コートの「美しい」形を何枚も何枚も写真に撮りました。
あと、言葉を話すことができない選手も、競技アシスタントの方が手や足になり、目線や“言葉”でランプの微妙な位置を調整し、ジャックボールの近くを目指します。その選手たちの頭脳戦…緻密さ・豊かさに本当に感激し、“棋士のスポーツ”を見ているような、神聖な気持ちになりました。
シンプルゆえに奥深い、そして誰もができる「ボッチャ」、スポーツが苦手な私もいずれやろうと思います。今回出場した選手のみなさま、本当にお疲れさまでした。年は明けてしまいましたが、今年も石川県の本大会でお会いしましょう。楽しみです。
◆関連情報
Road to Rio vol.22 「"一球入魂"で勝利をつかめ! ~ボッチャ~」
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