Road to Rio vol.61 ハードのバリアフリー、ソフトのバリアフリー。
2015年12月28日(月)
- 投稿者:web担当
- カテゴリ:Road to Rio 2016
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2020の東京オリンピック・パラリンピック開催が決まり、にわかに注目されている話題の一つが「バリアフリー」。個人的には“ソフト(心)のバリアフリー”がまずありきと考えているので、気にしていない部分と、それでも気にかかる部分と半々の気持ちで揺れています。
(今年、個人的に行った)ロンドンのメトロは深く階段だらけだったけど、困っている人には気軽に声をかけている感じでしたし、ソチパラリンピックの会場では「屈強なヘルパー」さんがどこからともなく現れ、車いすをひょいと担いで行ったとか行かないとか…。※少し脚色しています。
いつでもどこでも何かに頼れる、という安心感が「バリアフリー」の正体なのかもしれません。
ハードのバリアフリーは?という感じかもしれませんが、不思議な安心感がありました。
先日、「みんながつくるバリアフリーマップアプリの発表」という案内をいただき、取材に行きました。リリースにはこのように記載されていました。
“開発するアプリは、障害者に限らず、高齢者、あるいはベビーカーを利用する方が必要としている情報を提供するもので、利用者自身が施設情報を登録、活用していきます”。
プレゼンをしてくださったのは株式会社ミライロの垣内俊哉社長。ご自身も車いすを使用されています。その障害が“最強の武器”と思うくらいとても素晴らしいプレゼンで、本当にびっくりしてしまいました…。
ここからは垣内社長のお話を中心にご紹介。バリアフリーのシチュエーションを、想像していただければと思います。
段差の部分というのはかなり多くの方が求められている情報です…誰だと思いますか?
たとえば、杖をついている方。
たとえば、車いすに乗っている方。
たとえば、ベビーカーを押すお父さんお母さん。…障害者だけに限りません。
実際に会場の階段の前で説明していた垣内社長
段差というのは「0」と「1」では雲泥の差があります。一段なら車いす、ベビーカーなど、「前輪だけ上げて、後ろから押すだけでなんとか移動」できるのです。自分一人で登ることができるかもしれないし、人一人のサポートで移動できるかもしれない。
しかし、二段、三段、階段ともなれば誰かが車いすを担がなければならなかったり、ベビーカーを持ちあげて運ばなければいけなくなります。ということで、「段差が何段あるのか」というのは、本当は大勢の方にとって大切な情報になるのではないでしょうか?このアプリでは「段差が何段あるのか」ということが入力できるようにしました。
アプリの画面
ほかにも、「フラットかどうか」「店内の状況」「広さ」「車いすで十分移動できるのか」など、アイコン上でタップして選択して入力できるようにしています。
また、「静かな場所か、または雑多な場所か」。…例えば知的障害のある方、精神障害のある方、ご本人ならびにご家族の方は出来るだけ静かな場所の方がいいといったご意見もありました。
視覚に障害のある方にはこのような項目を検討しました。
・「施設が明るいかどうか」。…暗い場所であると弱視の方や視力の低い方が移動しづらいといいます。非常時に逃げ切れる環境なのか。ここは自分にとって安全な場所なのか。そうしたことも調べられるようにしようと思いました。
・「クレジットカードや電子マネーを使えるのか」…紙幣で清算をすると自分では計算がしづらい、またはお店の方に任せなければいけない。できればクレジットや電子マネーで決済を済ませたいというご意見もありました。これは皆さんもクレジットカードを利用されたい時にも必要な情報ですね。
また、「駐車場はあるのか」「エレベーターがあるのか」「ベビーカーを貸してもらうことができるのか」「オストメイト対応(人工肛門、人工膀胱を付けられている方が排泄ができるのか)」「補助犬対応の有無」「(電動車いす充電用に)コンセントがあるか」、など、様々な項目を検討しました。
このようにして、多様な方が求めている情報を皆で調べ、皆で投稿できるアプリを作っています。そして皆が投稿してくれた情報は、「段差が0段のところは?」「車いす使用者用のトイレがある場所?」など、条件を指定して調べられるようにもしています。
投稿する人には、どういった人なのかも登録していただきます。「車いすの方」「ベビーカーを使う人」など、店舗の状況のみならず情報を投稿してくれた方によって、その情報が選別できるといった検索性も持たせています。
私たちの目標は“2020年までに100万か所登録”です。日本全国、いずれは世界中に対して「自分が行ける場所はどこだろう?」「行きたい場所は果たして行けるのだろうか?」…そうしたことを調べられるようにしたいと思っています。
私からは、二つ質問しました。
――知的障害の方のために「静かな場所がわかるかどうか」ということでしたが、ほかにご検討されている情報はあるのでしょうか?
「今まで特に多かったのが、『静かで、ゆっくりできる場所が良い』ということだったので、ひとつの掲載基準にしています。これから知的障害の方や、精神障害の方々にも、どういった場所がいいかという企画や調査にご協力頂き、全体的に項目を増やすか減らすのか運用しながら検討していきます」
――御社の講演セミナー講師の方の中に織田友理子さんのお名前がありましたが、私たちは以前、織田さんの取材をさせて頂いたことがあり、同じようなアプリを作られていらっしゃいました。何か協業されている部分はあるのでしょうか?
「まず、情報のフォーマットをできるだけ同じような形にしていこうと考えています。そして、相互に連携していくような形で、皆が使えるフォーマットにしていきたいと思っています。私たちのアプリの情報は、元々イギリス・ロンドンで作られたバリアフリーマップというものとフォーマットを同じにしていて、向こうで集められた多目的トイレの情報はどちらでも見られるようになっていますので、織田さんの情報も見られるようになるという形を考えています」
――そうなんですね。それぞれ国と地域でローカライズされたものを、より簡単に連結して大きくできるというメリットがあるわけですね。
「そうです。なので“出典元”が例えば織田さんのところとか、イギリス・ロンドンの情報です、みたいな形で、全部の情報がちゃんと集約されていく形を作っていこうと。先日、フランスの障害者団体とも話をしました。日本だけで集められるのではなく、世界中の情報を、皆で載せていく形をとりたいと思っています」
たくさんの報道陣の前で説明!
お話を聞いている途中から、「このアプリの情報は、ひょっとすると障害のある方だけに必要なものではないのかもしれない」と思いました。
お子さまがいらっしゃるご家族、孫・子・親の三代での“大旅行”、海外からの旅行者や、旅行ツアーの引率の方…。今、何気なく過ごしている街を紐解けば、誰もが使いやすい街になることができる。
それは、「ハード(街)のバリアフリー」というよりは「ソフト(心)のバリアフリー」への1ステップなのかもしれませんね。
来年、パラリンピックが開催されるリオデジャネイロのバリアフリーはどうなっているのか?そして、2020年の東京は・・・。目が離せないテーマです。
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