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"一発勝負"で勝つために

2017年03月27日(月)

リオパラリンピックが終わってから半年。2020東京パラリンピックに向けて、選手たちは新たなスタートを切っています。出場するだけでなく、いかに活躍できるか。

リオ大会では、528種目中、220種目で世界新が生まれました。緊張の中、最高の舞台で最高のパフォーマンスを発揮できる、「ピークを本番に合わせるための調整=“ピーキング”」が求められます。

写真・静岡県富士市で行われた、パラ競泳の春季記録会静岡県富士市で行われた、パラ競泳の春季記録会。去年はリオパラリンピック日本代表の選考レースでもありました。

「大きな大会に合わせて力を出せる選手を連れていく」
今月静岡で開かれた、パラ競泳の春季記録会は、まさに一発勝負!
9月にメキシコで行われる、パラ競泳世界選手権日本代表の選考会も兼ねています。ここで派遣標準記録を突破しなければ出場することはできません。中には、この日、「気持ちの上でピークを合わせられなかった」という選手も。本番で力を出すためには、どんなことが必要でしょうか。

写真・「パラリンピック殿堂」入りを果たした河合純一さん去年、日本で初めての「パラリンピック殿堂」入りを果たした河合さん。リオパラリンピック閉会式ではゲストで放送席に座り、東京大会に向けて様々な提言をいただきました。
パラリンピック6大会連続で出場し、日本最多の21個のメダルを獲得している河合純一さん。日本身体障がい者水泳連盟の会長も務めています。ここ一番で力を出し切るためには…?

「直前に特別なことはせず、1日1日の積み重ねです。レース当日が“スペシャルな結果”になる、という“万が一”の考え方では難しい。“一か八か”という姿勢を選手たちに望んではいません。普段の練習で、いかにして本気で自分を追い込むことができるか。その実力のベースがあるのならば、一発勝負の条件でもクリアすることができるはずです」


実は、リオ大会でパラリンピックに初めて出場した一ノ瀬メイ選手も、同じことを感じていました。個人6種目に出場しましたが、いずれも決勝に残ることができませんでした。

「大舞台で力を発揮するためには、“絶対的な実力”が必要だと感じました。“あわよくば…”はない。2020年に大ベストではなく、2019年には世界のトップレベルに達していないといけない。」


絶対的な実力をつけることで、“ピーキング”という言葉は、もはや必要がないのかも知れません。しかし選手は人間である以上、“身体の波”や“心の波”があり、一筋縄ではいかないこともあります。河合さんは、「障害のある選手は、ない選手と比べて、日常生活でケガのリスクがあったり、思い通りにいかったりして、疲労やストレスがたまりやすいのではないかと思います。そうした競技以外のことを考えたコンディショニングも重要です。」と話します。


一旦体調を崩すと、回復に時間がかかる選手もいます。
今回出場した日本人選手の中でも障害の重いクラスに属する成田真由美選手は、

「大一番の前はとにかく体調を崩さないように気をつけています。今回は、インフルエンザにかからないように十分予防しました。練習で追い込んだあとは、マッサージ、針きゅう、サプリメントなど、様々な方法で疲れを取るようにしています。」

と身体のケアは怠りません。

写真・プールから上がる成田真由美選手レース後、プールから上がる成田選手。今、リオ大会前よりも激しい練習をしているそうです。

北京パラリンピックで金メダルを獲得した鈴木孝幸選手。リオでの4回目のパラリンピックで、初めてメダルを獲れず、悔しい思いをしました。メンタル面での課題があると言います。

北京で金を取ってから追われる立場になって、ここ一番で“勝ちたい”より“負けたくない”という守りの気持ちになっているのかも知れません。頭ではわかっているが、自分に集中できていないのかも。今、イギリスの大学でスポーツ心理学も学び、学生とディスカッションしながら、自分と向き合うこともしています」



一方、知的障害のある選手は精神面での波が大きく、本来は実力を持っていながら、大舞台で力を発揮できないケースもあります。

写真・リオパラリンピック知的障害クラスの背泳ぎ銅メダリスト津川拓也選手 リオパラリンピック知的障害クラスの背泳ぎ銅メダリスト津川拓也選手(写真中央、青のスイミングキャップ)は、レース前、「拓也体操」をすることがルーティン。腕をまわし、深呼吸、ジャンプなど、“いつもやることをやる”ことでリラックスし、集中を高めています。

 

「環境の変化に適応するのが難しい、という特性があります。春でいえば、就職や進学する選手は特に調子を崩しやすいです。」(日本知的障害者水泳連盟常務理事・リオパラリンピック日本選手団コーチ 谷口裕美子さん)


そうした疲れを取るのには、「睡眠」の充実が欠かせません。2年前の国際大会で、大会期間中の疲労度を1~10という数値で入力してもらい、日々のコンディショニングに役立てようとしました。しかし、「知的障害の選手たちは、もともと感覚を表現することが苦手な人が多く、疲労の尺度を把握して伝えることも難しい」と、谷口さんは話します。

そこで今は、強化合宿で選手の体の下にシートを敷いて、就寝中の心拍数を測定し、レム睡眠とノンレム睡眠の比率を出しているそうです。「睡眠の質」を分析することで「疲労からの回復度」を把握しようという試み。一発勝負で力を出し切るための、大きな指標となるはずです。


“一発勝負”は選手だけではありません。
視覚障害のクラスでは、泳いでいる選手に壁が近いことを知らせる「タッピング」をするチームスタッフがいます。棒(日本チームはカーボンの釣竿)の先にウレタンがついていて、選手の頭などをたたきます。たいていは選手のコーチが担当しますが、たたくタイミングが非常に難しいのです。

パラリンピックメダリストの河合純一さん、秋山里奈さん、そしてリオで活躍した木村敬一選手などを育て、タッピングも担当してきた寺西真人さん。一つのタッピングでも、様々な要素を考えての決断で、とても難しいと言います。


写真・バタフライの木村敬一選手をタッピングする寺西真人さん 青のスイミングキャップ、バタフライの木村敬一選手をタップする寺西さん。バタフライは一かきが大きく、“今か”“もう一かき待つか”、迷いとの勝負かも知れません。

 

「選手によって、たたいたときの反応の速さが違います。それを考えて、タッピングは壁に近い方がよいのか、少し遠い方がいいのか。また、一人の選手でも泳法やその日の調子によってもたたくタイミングが違います。タッピングは重責で、自分のミスで選手の4年間をつぶしてしまうかも知れない。一緒に泳いでいるつもりで、選手の力を十分に出し切らせるのが自分の役割です。」


2020年東京パラリンピック。自国開催で、大きな声援と周りからのプレッシャーとの戦いになるかも知れません。一度きりの大舞台で、雰囲気に飲まれるのではなく乗れるかどうか。大歓声を味方につけ、実力を発揮できるかどうか。

「パラリンピックには、自分のみに注目させる空間や時間があります。ヒーロー、ヒロインになり、自分がもっと輝ける仕組みがあります。経験したからこそ感じていることです。(河合純一さん)」


3年後に自分が一番輝くイメージをして、近づけていく。
選手やコーチたちが歩むその道のりを私も共にしながら、最高の瞬間を味わいたいと思っています。


コメント

山田賢治キャスターを見かけなくなって寂しいですが、新しいところ福島でご活躍のご様子、嬉しいです!!
大切な情報が山田さんの丁寧な取材によって福島の皆さん、世界の皆さんに届きますように。

投稿:ゆか子 2018年03月03日(土曜日) 23時49分

山田さん、ハートネットTVを卒業との事、突然の報告で驚いています。もっと続けられる事を希望していたので、今は複雑な思いです。この番組のお陰で私の人生にとって、色々と勉強させていただきました。本当に寂しい限りです。長い間お疲れ様でした、そして数々の感動をありがとうございました!心から感謝申し上げます‼︎今後もハートネットTVを応援していきます。山田さんの今後のご活躍をテレビの前で楽しみにしています。お身体をご自愛なされて頑張ってください‼︎

投稿:清満 2017年03月31日(金曜日) 16時42分

障害者の選手の皆様の前向きな姿に、何時も感動を頂いております。この年まで、緩い生活を過ごしている私は色々と反省するばかりです。最近はテレビでも少しずつ放送される様になって国民の関心が深まりつつあることは、競技をされる皆様にも励みですね!Liveで競技大会を拝見して応援したいと思っています。山田さんも取材などで大変だと思いますが新年度からもお身体に気をつけて頑張ってください‼︎

投稿:清満 2017年03月28日(火曜日) 09時34分