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Road to Pyeongchang 20歳の成長の理由(ワケ) ~テスト大会取材記⑤~

2017年03月17日(金)

冬のパラリンピック開幕まであと1年!会場となる韓国のピョンチャンで、テスト大会となるワールドカップが開かれています。

私が気にかけている選手がいます。
アルペンスキー女子、座って滑るクラスの村岡桃佳選手(20歳・早稲田大学2年)。今大会、滑降とスーパー大回転の1日目(3月14日実施)で3位、スーパー大回転の2日目(3月15日実施)では2位に入りました。

私が冬のパラリンピックの取材を始めたのは、前回の2014ソチ大会前から。当時、村岡選手は高校2年生で、競技を始めて2年でのパラリンピック出場でした。「大きな経験にしたい」と話していた村岡選手。最高順位は大回転の5位で、「悔しい思いしかない」と振り返っています。

20170317_yamaken001_nhklogo.JPG3位に終わった14日実施のスーパー大回転表彰式(一番右)

あれから3年。彼女は大きく成長していました。

3月14日のスーパー大回転。
結果は3位ながらも、思い通りの滑りができず悔しい思いをしました。
迎えた翌日。この日もスーパー大回転のレースで、コーチからは「失敗してこい。得るものも大きいから」と送り出されました。果敢に攻めていった村岡選手。結果は2位で、ダントツの力を持つドイツのアナ・シャフェルフーバー選手に2秒差と詰め寄りました。

「いつもは3秒、4秒差がつくのですが、きょうは2秒差。まだまだですが、うれしい」と、笑顔。最近の国際大会では3位が“定位置”になっていて、「3位を脱却できるように、“女王様たち”に食らいつくのみです」と、強い気持ちが生まれてきたように感じました。

20170317_yamaken002_nhklogo.JPG強気の攻めで15日のスーパー大回転では2位。

そうした自身の変化について、村岡選手はこんな話をしてくれました。
「これまでは、自分の練習環境を与えられていたり、技術スタッフの方にスキー板のチューンナップをしてもらっていたり、いいか悪いかは考えず、受け身でした。でも最近は、“あなたはどうしたいのか”を周りから求められるようになったんです。自分で考えなくてはならなくなりました。私はどうしたいのか―――。」
考えて、自分の意思を明確に伝える機会が増えてくると、自身の中で変化が出てきた、と言います。

また最近、チェアスキーを自分でもいじることもあり、これまでなかった姿に男子選手からは「どうしたの?」と冗談交じりで言われることもあるそうです。
「自分のチェアスキーに対して、もっと愛着が湧いてきました。そのチェアスキーと一緒に勝ちたい!勝ちたくなってきたんです。」

主体は“自分”。“自分と向き合い、自分で選ぶ”ことの繰り返しが、村岡選手を強くしたと感じます。
今大会、村岡選手が成長したことを感じさせる印象的なシーンがありました。
日本チームは、先にゴールした選手が無線で、これからスタートする選手にコースの状況や滑った感触などを伝えるようにしています。他のチームでは見られない光景です。

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“沈黙”から一転、伝え続けました。レースは女子→男子の順に行われるので、村岡選手は常に先輩たちに情報を伝える役割を担っています。

村岡選手はフィニッシュラインを通過した後、無線のマイクがある場所へ。しかし、村岡選手はマイクを持たぬまま、下を向いたままほとんど動きません。3分ほど経過しました。

「どうしたのだろうか」と心配になったその瞬間、顔を上げてマイクをサッと持ち、堰を切ったように話し始めました。コースをできるだけ詳細に思い出し、バーン状況やうまく滑れたところや滑れなかったところをスタート地点の先輩たちに伝えます。「“私自身は”という前置きでこれからスタートする選手に話しますが、間違った情報だと、結果に影響が出てしまいます。責任重大です。だから、丁寧に自分の滑りを思い出していたんです」

そして村岡選手は、「かつてはどう滑ってきたか覚えていなかったのが、今は冷静に自分の滑りを分析できるようになりました。無線で伝える情報量も増えてきました」、と、自分の変化を感じています。

情報を受け取る三澤拓(みさわ・ひらく)選手は、「桃佳からの無線通信はルーティン。特に前半の入りは参考にしています。コースを無我夢中で滑ってきた選手が冷静に振り返ることは難しい作業で、20歳でできるのはすごい。また、細かく伝えてくれるその気持ちがうれしい」と村岡選手に感謝していました。

 

20170317_yamaken004_nhklogo.JPG右足1本で滑る三澤拓選手。毎レース、村岡選手からの情報を耳にしての滑り。


軸を自分に置いて意思を発信すること。それが自身の成長につながる。
20代で迎える来年のピョンチャンパラリンピック。
パラリンピックでの悔しさは、パラリンピックで晴らすしかない。
来年、ピョンチャンで、コースを果敢に攻める村岡選手の躍動を期待してやみません。

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村岡選手と。あと1年、どんな成長を見せてくれるのでしょうか。





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