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"孤軍奮闘"にはさせない ~震災被災地ひとり親支援~

2015年09月17日(木)

東日本大震災から4年半が経ちました。
 

取材をしながら現状を見つめる中で、家庭の生活再建の格差がますます広がっていることを実感します。悩みがあって苦しい状況でもますます「誰にも言えない。誰かに言ったってわかってもらえない」と、心の中に思いを閉じ込めてしまう人が増えてしまうのではないか、社会から見えにくい状態になってしまうのではないか。こうした危機感を感じています。


その中で、被災地のひとり親家庭の生活も厳しいと聞き、今回私は、支援を震災直後から続けているNPO法人「マザーリンクジャパン」の代表、寝占(ねじめ)理絵さんの活動に同行しました。


20150917_yamaken001.JPGJR気仙沼駅から陸前高田駅まで、BRTと呼ばれているバスで移動。一部専用レーンを整備して、路線バスのような渋滞の影響がないように運行されています。写真はJR気仙沼駅。
 


全国のデータでもひとり親世帯の貧困率は58.7%(年収122万円以下)。先進国が加盟するOECDの中で、最も高い数字です。では、被災地のおけるひとり親家庭はどんな状況なのでしょうか。
 

寝占さんたちは、陸前高田、大船渡、気仙沼にあるすべての仮設住宅を1軒1軒周り、ひとり親家庭を把握しました。その中で、母子家庭が貧困に陥った理由として、「震災で職を失い、収入が激減」「震災で実家が頼れなくなった」「震災の影響で夫のDVが増え離婚」「子どもがPTSDとなり一人で留守番できず、仕事が限られる」など、自分ではどうにもならない要因に追い詰められていることがわかりました。


20150917_yamaken002.JPG寝占さん自身もひとり親で、娘さんを育ててきました。東京と陸前高田、気仙沼、大船渡を往復し、被災地のひとり親家庭をまわって悩みに耳を傾け、支援をしています。


「一軒一軒事情は違います。各家庭の個別の状況が把握できれば、どんな支援が必要なのかが浮かび上がってきます」と寝占さん。NPOでは、子育てや生活の悩みを聞いてアドバイスをしたり、食糧支援や衣料支援をしたりするなど、実に様々なサポートをしています。
この日は食糧支援でフードバンクから届いた段ボールを各家庭に持参しようとしました。ところが、災害公営住宅に引っ越したり、住所が違ったりしてすぐにたどり着けないケースも。個人情報になるので自治体もなかなか教えてくれません。1日に届けられる数も限られてしまいます。早く届けたいという気持ちを抑えながら家々をまわりました。


その中で、十数年前にひとり親となり、被災したお父さんに、今の生活を伺いました。不安定な仕事のために、食事や衣類にかかる経費を削る生活。高校生の娘さんと2人暮らしです。
「朝4時に起きて、1時間半かけて弁当を作っています。学校でふたを開けたときに、恥ずかしくないお弁当を作りたい。父親しかいないからといって寂しい思いをさせたくないんです。家にいるといろんなことを考えるので、わざと忙しくするために自治会の仕事を引き受けています。」


部屋にお邪魔して2時間。「久しぶりにこんなに話せた」と、最後に見せた柔らかなお父さんの表情に、心が締め付けられるような思いがしました。いろんな思いを吐き出せずにいたのだと…。寝占さんと私が見えなくなるまで、玄関で見送ってくれた姿は忘れられません。


「関わり始めると、今大丈夫かと心配になるんです」と話す寝占さん。
その一人、高校生の息子さんがいるひとり親のお母さんにも一緒に話を伺いました。


「仮設で肩寄せて2人ぐらし。ひとり親は、大変は大変。自分の具合が悪くなったときに、車を運転する人がいない。部活に6時半に送っていって、夜10時に迎えにもいかないといけない。仕事もあるので、何しろ手が足りない。全部ひとりでやらないといけない。父親役も母親役も。大黒柱も主婦も。」


20150917_yamaken003.JPG陸前高田のオートキャンプ場に作られた仮設団地。NPOマザーリンクはここに拠点を置き、寝占さんは滞在しながら支援活動をしています。



これまで寝占さんがひとり親家庭を個別訪問して見えてきた現状、その一部です。
・母子家庭の9割が月収7~8万円と10万円以下。通勤手当が出ない職場も多い。
・子どもの靴や服も買えない。本当は22cmだが、21cmの靴でかかとを踏ませて使わせている。
・子ども3人いて、震災後3年間ずっと1日1食だった。
・パートを掛け持ちして体調を崩す母親も。中には5つ掛け持ちの人も。
・母子家庭で介護も抱えているために、長時間働けない。
・パソコンスキルの有無で収入が違う。


パソコンができれば、月収アップにつなげられる―――。
個別訪問で見えてきた現状から、NPOでは、今年から就労支援の一環で、ひとり親を対象にパソコン講習を開いています。ワードやエクセルを使いこなすだけでなく、ホームページの管理ができることが目標。また、インターネットも使えるようになることで、欲しい情報にアクセスでき、生活が変わるきっかけにもなります。講師も、地元のシングルマザーを採用。単なるパソコンスキルの習得ではなく、子どもと一緒に生き抜いていく力を身につけてもらおうというねらいです。こうした活動で、どれだけの人が救われるか。寝占さんのような活動をしている団体も孤立させてはいけません。


すべては未来の子どもたちのために。その子どもの成長を支えるひとり親の皆さん。その家庭を支援する人たち。その活動を支えるのは、私たち社会…。同心円状に広げたい支援の輪。


今回出会ったひとり親のみなさんに、また会いに行けたら。
寝占さんたちの活動も忘れてはならない。
関わり続けることの大事さを強く感じながら、今回の取材を終えました。
 

コメント

ブログを初めて拝見いたしました。
昨年、私も縁あって寝占さんの活動に賛同し、本当に少しだけお手伝いをさせていただきました。
東日本大地震の被災者の方々が、まだまだご苦労されていて、大変な生活を余儀なくされていることを、遠方に住む私達は忘れかけていると思いますので、先日のNHKの放送で、またたくさんの方々に現状をご理解頂けたのではないかと、期待しました。
私自身もシングルマザーで、仕事や子育てに苦慮する状況ですので、皆さんの為に出来る事は少ないですが、できる事で少しずつお手伝いをさせていただきたいと思います。
今回のブログに取り上げていただいて、ありがとうございます。

投稿:たかみわ 2015年09月18日(金曜日) 18時30分

取材お疲れ様でした。今回のテーマも心が痛くなります。今すぐに支援を行わなければならない状況のご家庭が多いのに、どうして手を差し伸べないのでしょうか?世の中の仕組みが本当に間違っていると思うのは私だけでしょうか、政治家の方々ももう少しこちらに目を向けられてもと、心から願っています。ハートネットTVの力を信じていつも応援して行きたいと思います。山田さんもお身体に気を付けて頑張って下さい。

投稿:清満 2015年09月17日(木曜日) 22時37分