本文へジャンプ

『いまを生きる ~「被災地の福祉はいま」取材後記~』

2013年11月01日(金)

うまく言葉に表すことができない。
何だろう、この違和感は。


「時の感覚」がわからなくなってしまった。


10月下旬、私は岩手県山田町、宮城県石巻市、
福島県相馬市・南相馬市を歩いた。
海が見える広大な更地に立つ。
じゃれ合う小鳥たちの高い鳴き声が響き渡る。
顔を濡らす細かい雨滴。頬を撫でる、少し冷気を帯びた風。
私の背丈ほどに伸びた雑草。
まるであの日がなかったかのように、
自然たちはいつものようにふるまう。不変の時間軸が横たわる。

でも、足元に目をやると、未だ残る家々の基礎。
生活のにおいがする品々も散乱している。
あの日から、まだ時が止まっているように感じた。

複数存在している時間軸に、自分に備わる「時の感覚」が
混乱したのだろう。

photo1.jpg
取材前、震災から2年半が経って復旧・復興へと時間軸が進んでいるだろうと思っていた。
しかし、この場所に立ったとき、時間感覚のずれに苦しさを感じた。

 

精神科医の話によれば、こうした「時の感覚の混乱」で、
PTSDを発症する人が増えているという。
「現在」の生活がままならない状態のため、震災という「過去」が
進行形の形で、今も続いている感覚に苛まれるという。
1日でも早く、「日常」という現在を取り戻す支援が必要だと感じている。

様々なことを感じた今回の取材で、印象に残った子どもたちがいる。
子どもの支援をしている施設で出会った、山田町の中学3年生たちだ。
シリーズ1回目の放送で登場する。

学校生活の話から、震災当日の話になった。
思わず耳を塞ぎたくなる話が、次々と出てくる。
呼応するように、皆が話し出す。
施設の代表の方に話を聞くと、
「彼らは時間が経って、当時のことを吐き出せるようになってきた」という。
狭い仮設住宅で住むことを余儀なくされ、中には家族が犠牲になった
子どもたちもいる。
でも、地域の親たちの支援を受け、少しずつ少しずつ、
過去は過去としてとらえ、今という日常を取り戻そうとしている。
高校受験という壁を乗り越え、彼らが抱く目標や夢も聞いた。
心から、応援したい。

photo2.jpg
子どもたちは、施設でのルールを自分たちで決めている。
「ただいま」「おかえり」と言い合える、大事な場所だから。

彼らは懸命に、自分の時間軸を再構築し、未来へと伸ばそうとしている。
そうした、子どもが生来持つ生命力に灯をともすことが、
復旧、復興へとつながる一歩になると、今回の取材で確信した。


彼らを忘れない。またいつか、会いに行く。

 

◎11月シリーズ 被災地の福祉はいま 放送予定
(本放送=夜8時、再放送=午後1時5分)
第1回 居場所を失う子どもたち
  2013年11月4日(月)  再放送11月11日(月)
第2回 行き詰まる仮設住宅の暮らし
  2013年11月5日(火)  再放送11月12日(火)
第3回 相次ぐ新たな“こころの病”
  2013年11月6日(水)  再放送11月13日(水)
第4回 被災地で始まる医療再生―陸前高田市の取り組み―
  2013年11月11日(月) 再放送11月18日(月)
第5回 反響編(1)
 2013年11月25日(月) 再放送12月2日(月)
第6回 反響編(2)
 2013年11月26日(火) 再放送12月3日(火)

コメント

※コメントはありません