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小説『きみはいい子』著者・中脇初枝さんインタビュー:その4

2013年05月10日(金)

虐待を題材にした連作短篇小説集
『きみはいい子』(ポプラ社・2012年発行)が
大きな反響を得た作家の中脇初枝さん。
この小説を書くにあたっては、かなり取材もされたと言います。
中脇さんがそこで感じたこと、
また小説を通じて発しているメッセージとは――。


※このインタビューは全4回の掲載です。
 


■言ってあげてほしい。「きみはいい子」

――「自分が認められている」という実感があれば、
虐待の呪縛から逃れられるかもしれない、というお話がありました。
どんどん、そうした実感を得るのが
難しい世の中になっているような気がします。


3話目の「べっぴんさん」の中で、
「べっぴんさん」と言われて育つ女性が出てきますが、
わたしもそうだったんです。
わたしは高知の田舎で育ったのですが、
両親が共働きだったので、家に帰っても誰もいなかったんです。
だからいつも外でこどもだけで遊んでいたんですが、
何か困ったことがあると、近所のおばちゃんだったり、
おばあちゃんだったり、
大人がとにかく助けてくれたんですね。

また、わたしが学校から帰ってくると、近所のおばあちゃんたちが、毎日
「べっぴんさん、お帰り」と言って迎えてくれたんです。
そのときはそれが当たり前のように思っていたんですけど、
今から思い返せば、あの瞬間って、すごく幸せだったと思うんです。

どんな子にも、そういう幸せなときが1回ぐらいはあってほしいな。
この本を書きながらそれを伝えたかったんです。
本当にちょっとしたことだけど、だれかがだれかに幸せをあげている。
そして、幸せをあげることは、だれにでもできる。


――この本では、ある新興住宅地を舞台に、
父親、虐待された娘、母親、教師、お年寄り・・・など、
いろんな人の目線で「虐待」というテーマを捉えていますね。


書きたかったのは、いろんな虐待の姿ではなくて、
ひとつの町には、いろんな人が集まってそこで同じ時間を過ごしている、
ということだったんです。
たとえお互いにお互いを知ってはいなかったとしても。
だから、誰でも何かできることがきっとあるよ、って。
さっきの「べっぴんさん」もそうですよね。


――それがこの本のメッセージでもあるんですね。

そうなんです。
誰かが、きみはいい子だよって伝えてあげてほしいなと。
こどもたちを見ていて思うのが、
成長途中のこどもって、みんないいところがあるんですよ。

たとえば、乱暴でけんかばかりしている子でも、
目がとてもきれいだったりとか。まつげが長かったりとか。
そしたら、「まつげが長いね」って言ってあげてほしい。
大したことじゃなくても、言ってもらうだけで全然違うと思うんです。
「上履き、黄色いね」とか、
そのくらいでも、こどもってそんなことでも、
言われるとすごく嬉しかったりしますよね。
それこそ、名前を呼んであげるだけでもいいんです。


――虐待と背中合わせに生きている大人にこそ、
必要なのかもしれませんね。


そのとおりです。
こどもだけじゃなくて、どんな大人でもいいところは1個ぐらいあります(笑)。
それをみつけあって暮らしてほしいですね。
特に自分のことを、「いい子」って思えている人は、
他の人に「あなたはいい子」って言ってあげてほしい。
そうして、みんな、思ってくれたらいいな。
「わたしはいい子」って。

(2013年4月24日にインタビューを行いました)

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撮影 山口美紀


中脇初枝さんプロフィール
1974年徳島県生まれ。
『魚のように』で第2回坊ちゃん文学賞を受賞してデビュー。
小説に『祈祷師の娘』『こんこんさま』。
絵本に『こりゃまてまて』他著書に『女の子の昔話』など。
2012年に発表した『きみはいい子』(ポプラ社・刊)は8年ぶりとなる小説。


※インタビューその1はこちらをクリック
※インタビューその2はこちらをクリック
※インタビューその3はこちらをクリック

 

シリーズ 子どもの虐待 どう救うのか
*以下すべて午後8時から放送。再放送は翌週の同じ曜日、午後1時5分〜

2013年5月6日(月)
第1回「深刻化する虐待 児童相談所はいま」

2013年5月7日(火)
第2回「“ハイリスク妊娠”からのSOS」

2013年5月8日(水)
第3回「埋もれた“性的虐待”」

2013年5月13日(月)
第4回「虐待の傷と向き合う」

2013年5月20日(月)
第5回「言葉が持つ力―育児漫画家・高野優さん―」

2013年5月30日(木)
第6回「みなさんの声にこたえて」

 

コメント

『きみはいい子』読みました。
すべての話に救いがあって、安心して読めました。
読み終えた後、こちらのインタビューも読みました。
『たとえ親や兄弟でも捨てて良い』誰かに言って欲しかった言葉です。
私は、虐待を受けて育ちましたが、親を捨てて良いなんて誰も言わなかった。複雑な心境な中、『親に感謝を』と、今でも毎年父の日や母の日には何かしらプレゼントをしています。親子って何なんでしょうね。今からでも捨てられる物なら捨てたいです。でも、きっと私にはできません。ただ、『捨てても良いんだよ』と言われただけで、少し救われた気持ちになりました。ありがとうございます。

投稿:むとう 2013年06月09日(日曜日) 15時07分

「きみはいい子」、拝読いたしました。とてもいい作品でした。
かすかだけど、確かな希望をいただいたような、幸せな読後感をもらいました。

虐待の問題を自分は、他人事とは考えていません。
まだ自分には子どもはいませんが、自分自身もやってしまいかねない問題と捉えています。
今後、“やさしい虐待”といった、ある種の過干渉も虐待の一カテゴリーに加えられるとしたら、それはそれで喜ばしいことである反面、やはり「自分は絶対に虐待しない」とは、いよいよもって言えなくなるでしょう。

それでも… 願わくば、いつか自分で子どもを育てる時に、その子を、きちんと“自分と対等の、一人の人間”として接したいと、強く思います。

子どもは、保護者の所有物ではない。ましてや、社会や国の所有物などでは決してない。どんな子どもであろうとも、誰かに愛され、守られていてほしいと思います。

(素敵で貴重なインタビューを発見できてよかったです。ありがとうございます!)

投稿:しみずけん 2013年05月14日(火曜日) 15時58分