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災害・誰も取り残さない

「障害者と防災」アンケート結果(2021年3月)

東日本大震災では、亡くなった方のうち半数以上(56.5%)が高齢者で、障害者の死亡率は全住民平均の2倍に上りました。国は2013年に法律を改正し、避難が困難な高齢者や障害者等への対策を進めるよう自治体に求めてきましたが、今も十分とは言えません。

そこでNHKでは、災害時の避難に支援を必要とする人たちの課題を明らかにするため、2020年12月から2021年1月にかけて、日本障害フォーラムと共同で「障害者と防災」に関するアンケートを行いました。回答をいただいたのは876名で、障害種別や年齢、性別などはこの記事の最後に掲載しています。

●防災への関心は高まっている

グラフ「災害への不安を感じているか」感じている 87.0% 感じていない 12.1% 回答無し0.9%
グラフ「知っている防災用語」・ハザードマップ 86.6%・タイムライン 28.3%・避難行動要支援者名簿 53.8%・個別避難計画 35.2%・福祉避難所 55.0%・いずれも知らない 7.8%

災害に不安を感じている人は9割を超えました。近年、台風や水害、地震などの被害が毎年のように起きていることが背景にあると思われます。
「知っている防災用語」については5年前にもアンケートをとっていますが、避難行動要支援者名簿については32% → 53.8%、個別計画16% → 35.2% 福祉避難所 28% → 55.0%に上がっています。防災に関する知識は少しずつ浸透してきているようです。

グラフ「ハザードマップで危険性を確認したことがあるか」ある57.9% ない39.7% 回答無し2.4%

半分以上の人が、ハザードマップで自宅や職場周辺の危険性を確認していました。しかし障害種別によって大きな格差があります。視覚障害と盲ろう者の場合、ハザードマップを確認した人は3割~4割程度でした。

グラフ「視覚障害者の場合」ある38.9% ない57.1% 回答無し 4.0% グラフ「盲ろう者の場合」ある27.0% ない64.9% 回答無し 8.1%

理由としては、視覚障害者の場合は「ハザードマップが自分に分かる形になっていない」が一番多く53.5%でした。盲ろう者の場合も「分かる形になっていない」が41.7%で最多でしたが、それ以外に「ハザードマップを知らない」が29.1%、「どこで確認できるかわからない」が25%と、情報アクセスの問題が大きな壁になっていることもうかがえました。

●災害時の避難への不安

グラフ「いつ避難するか」避難準備・高齢者等避難(警戒レベル3)18.4% 避難勧告(警戒レベル4)15.8% 決めていない41.3% 避難しない16.9% その他 6.8% 回答無し0.8%

災害から逃げるためには、まず情報を取得して判断することが必要です。そこで「いつ避難するか」を尋ねたところ、「決めていない」人が最も多く41.3%でした。国は避難に支援が必要な人に対しては「避難準備・高齢者等避難開始(警戒レベル3)」での避難を求めていますが、その段階で避難するという人は18.4%にとどまり、情報を出す行政と受け取る当事者の間にギャップがあることがうかがえます。
一方、「避難しない」と考えている人も16.9%いました。その理由として一番多かったのは、移動の問題です。

  • 2年前に全盲となり、一人では避難所まで避難できないため、自宅にとどまることを覚悟している。(視覚障害 70代男性 横浜市)
  • 避難所への移動が大変。歩いてはいけない。(肢体不自由 60代女性 宮崎県)
  • 重度心身障害者であるため、家族だけで一次避難所への避難ができない。経菅栄養のため、人工栄養剤、消毒液、吸引器等の備品を持っての避難が現実的でない。(肢体不自由・知的障害・胃ろう 10代女性 京都市)

また、避難所の環境では生活が困難という声も多く寄せられました。

  • 避難所=公立中学校はバリアフリーでなく利用するのは無理。単身生活の為 介助してくれる人がいない。(言語障害・肢体不自由・難病・要介護高齢者 70代以上女性 東京・大田区)
  • 全盲で重度の知的障害がある息子にとって、聴くことと触ることが眼の代わりです。色んな音が混ざる避難所は必要な情報がとれずストレスになるだけ。清潔な環境が担保されないうえにコロナも加わり、親は周りへの気疲れでくたくたになるのが目に見えているので、避難しません(視覚障害・知的障害 40代女性 佐賀県)
  • 音声情報だけの避難所で取り残された記憶があるため。(聴覚障害 50代女性 神戸市)

一方、周囲の人たちとの関係を気にしている人もいます。

  • 他の人に迷惑を掛けたくない。(肢体不自由・内部障害 70代以上 男性 静岡県)
  • 日頃から近所の人たちに病気のことを理解してもらえず、誹謗中傷ばかり浴びせられてるので、避難所に行くのが怖い。(精神障害 40代女性 岩手県)
  • 過去の災害で、車いすユーザーや寝たきり等の患者を助けようとししたために自分自身も逃げられず、命を落とした方々がいることを知っているため。(肢体不自由 40代女性 大阪府)
グラフ「避難行動要支援者名簿に登録しているか」登録している35.5% 登録していない33.8% 分からない30.0% 回答無し0.7%

東日本大震災で障害者や高齢者に大きな犠牲が生じたことを受けて、国は2013年に災害対策基本法を改正し、「避難行動要支援者名簿」の作成を市町村に義務づけました。2019年の段階で作成済みの市町村は98.9%に上り、データ上はほとんどの“要支援者”はリストアップされたように見えます。

ところが今回のアンケートでは、「登録している」「登録していない」「わからない」という回答がほぼ1/3ずつという結果になりました。「市役所から何も情報を教えてもらっていないので名簿が存在するのかもわからない(視覚障害 40代男性 札幌市)」といった回答も多く、周知が十分でない可能性があります。また「プライバシー配慮について大きな懸念があります。(精神障害 30代男性 東京・大田区)」という個人情報の管理への不安の声もありました。
一方、登録している人からも

  • 名簿をちゃんと出しているのに1度も民生委員さんとお顔を合わせたことがありません。どうしたらいいのと思います(肢体不自由 50代女性 静岡市)
  • 大阪北部地震の際に要支援者名簿に登録しているにもかかわらず、行政からの安否確認の連絡もなかった。名簿が活用されているようには思えない。(視覚障害 60代男性 大阪府)

など、実効性を懸念する声も寄せられました。

グラフ「個別避難計画を作成したか」作成した8.8% 作成していない72.4% 分からない17.1% 回答無し1.7%

国は「避難行動要支援者名簿」の作成と合わせて、一人ひとりの要支援者が避難するための「個別計画」の策定を推奨しています。消防庁が公開しているデータによれば、個別計画は12%の自治体で「全て策定済み」、50%の自治体が「一部策定済み」となっています。
ところが今回のアンケートでは、個別計画を策定したという当事者は8.8%にとどまり、「策定していない」が72.4%に上りました。国に対して「全て策定済み」と報告している市町村に居住している障害者からも、「策定していない」という回答が寄せられています。自治体が「策定済み」とする個別計画の内実に懸念を抱かせる結果となりました。

●避難所をめぐる問題

グラフ「災害が起きたとき、最寄りの避難所に行くか」行く48.4% 行かない21.5% 分からない28.4% 回答無し1,7%

災害が起きたとき、最寄りの避難所に行くという人は半数弱にとどまりました。避難所の環境や多くの人が集まってしまう状況について、不安の声が非常に多く寄せられています。

  • 盲導犬がいるので、一緒に避難した時、スペースが確保されるか。周りの人の理解が得られるかが心配。(視覚障害 60代女性 埼玉県)
  • 手話通訳など聞こえの保障についてが不安。実際の災害時に防災無線で連絡されても聞こえない人にとっては内容がわからない。避難経験はないが、仮に避難した場所で聞こえないために情報が入らない不安がある。具体的にどのように保障を考えられているかを知りたい。(聴覚障害 50代女性 三重県)
  • 発達障害の息子が、長時間自由の利かない避難所にいると、かんしゃく・パニックを起こす可能性が高いため、行くのがためらわれます。実際に昨年の台風で避難所に避難したとき、かんしゃくを起こしたので、帰宅しました。(発達障害 40代女性 長野県)
  • 目と耳の両方に障害を有する者にとって避難場所は、何がどこにあるのかトイレがどこにあるのかさえも分からず、また他者にとっても災害の被害者であってイチイチ支援をお願いするのは苦痛である。(盲ろう・難病 60代男性 熊本市)
  • 重い障害のある娘が居られる場所かどうかわからない。慣れない場所では一瞬も目を離せない娘の介助と見守りを、家族1人で行い続けるのはとても厳しいと思います。全力で頑張りますが、たぶん、何日も過ごすのは難しいのではないかと思います。(肢体不自由・発達障害 20代女性 兵庫県)
  • 車椅子ユーザーで、普段から疲れやすく横になりたい事が多いが、褥瘡が心配なため横になる為のスペースと褥瘡予防のマットなどが必要だがその支援はしてもらえるのか。排泄も特殊トイレでないと自己処理できない為実際避難生活になった時どのようにすればいいのか。(肢体不自由 30代女性 埼玉県)

不安の声が多い一方で、改善に向けた提案もありました。

  • 地域の避難所に小さな部屋でいいので、「音や光に過敏なタイプの障害者向けのケアルーム的な避難場所」を作ってもらえるとありがたいです。(知的障害・発達障害 50代女性 広島市)
  • 避難所の中がどのようなレイアウトになっているのか、利用の仕方はどのようにするのか事前に訓練できれば障害者の人も利用しやすいのでないでしょうか。いろんな災害に対して防災訓練を何度も行い、改善点を見つけ出し生命を守ってほしい。(視覚障害 60代男性 山形県)
グラフ「最寄りの避難所を知っているか」知っている36.3% 知らない62.2% 回答無し1.5%

一般避難所に避難しづらい障害者・高齢者のため、市町村は「福祉避難所」を指定するよう求められています。しかし数は限られていて、全ての障害に対応できるとも限りません。「近くに福祉避難所がない。(知的障害・発達障害 10代女性 横浜市)」「福祉課に医療的ケアがある人が行ける福祉避難所を指定して下さい。と要望を出していますが、返答がありません。オムツをしていて、毎日浣腸が必要、胃ろう注入や吸引が必要な息子は、一般の避難所には行けません。(肢体不自由・胃ろう 30代男性 東京・墨田区)」といった声もありました。設置されていても事前に情報が開示されていない自治体も多く、場所を知っている人は1/3ほどでした。

運用についても「一般避難所での生活が難しい障がい者等には、早い段階で希望する福祉避難所等に行かせてもらえるようにしてほしい。(肢体不自由 60代女性 宮崎県)」「台風で近くの川が氾濫するとなったとき普通の避難所しか開設されなかった。避難しなければとは思っていたが、行き先が無かった。(知的障害・発達障害・精神障害 10代男性 埼玉県)」「災害時、まずは一般の避難所に避難し、そこで合わない高齢者障害者がいれば福祉避難所開設を協定施設に要請する流れになっているが、実際は一般の避難所に障害者はいかないことが多いため、支援の必要な人が埋もれ見えなくなってしまう。(聴覚障害 50代女性 埼玉県)」といった声が寄せられました。

●避難訓練への参加

グラフ「地域の避難訓練に参加したことがあるか」いつも参加している10.6% 参加したことがある32.4% 参加したことはない55.5% 無回答1.5%

避難訓練には、「いつも参加している」「参加したこともある」人を合わせても半数に届きませんでした。参加することが難しい理由として、以下のような声が寄せられています。

  • 障害者を対象とした訓練は行われていない。(肢体不自由 60代男性 熊本県)
  • 避難訓練の行われている所まで一人で行けません。もし、誰かの援助でその場所まで行けたら、私にとっては既に訓練は終わったようなものです。自力で避難できる人を対象にした訓練ではなく、障害者や自力で避難できない人をどのように避難させるのかを訓練しなければ、訓練の意味がないと思っています。(視覚障害 70代男性 富山県)
  • いつ行われているのかわからないし、情報保障もないなか、参加してもわからないし、むしろみんなの迷惑になるのではと思う(聴覚障害 40代女性 横浜市)
  • 田舎なので自分が障害者だと知れ渡るのが怖いから。(肢体不自由・精神障害・難病 30代男性 新潟県)
グラフ「避難訓練の参観にあたり、障害への配慮はあったか」あった 34.0% なかった 62.3% 無回答 3.7%

避難訓練に参加したことのある人に、障害への配慮の有無を尋ねたところ、「手話通訳が常時配置されていた。また、訓練状況が見やすいように障がい者向けの席が用意されていた。(聴覚障害 50代男性 東京・調布市)」など、配慮があったという回答は1/3ほどでした。

ただ、配慮がなかったという人からも「少しでも聴覚障害のことを理解してもらいたいと思い、耳マークを身につけて参加した。残念ながら特に配慮はなかったが、聞こえに不自由な人もいるということはわかってもらえたのではないかと思う。(聴覚障害 60代女性 新潟市)」「顔を覚えてもらえたことで、少々安心感が出た。可能な限り、避難訓練には参加していきたい。(聴覚障害 50代女性 千葉県)」といった声もよせられました。

●被災体験

グラフ「この数年で、災害で被害を受けたり、怖い思いをしたことはあったか」ある33.0% ない64.1% 無回答2.9%
グラフ「そのとき、避難はできたか」できた29.8% しなかった/できなかった65.4% 無回答4.8%

回答した人のほぼ1/3が、近年何らかの災害で被害を受けたり、怖い思いをしていました。しかし避難できたという人は29.8%です。避難しなかった/できなかった人の中には、「避難するほどではなかった」という人もいますが、さまざまな事情で「避難できなかった」という人もいます。

  • 昨年の台風19号で避難指示が出ても避難所に行けず、川がすぐ近くで氾濫しているのに自宅に留まった。避難所に行く手段がなかった。(視覚障害・発達障害 30代女性 福島県)
  • 2019年秋の台風で、川に近いエリア(我が家含む)に避難指示が出ました。始めは避難するつもりで荷物をまとめましたがあまりにも多く、車で運ぶしかない量でした。夜泣きすることや特定の音楽がないと眠れないことなども考え、避難はあきらめました。(肢体不自由・知的障害・発達障害・難病 10代女性 埼玉県)
  • 北海道胆振東部地震で自宅のある地域は震度6弱で。部屋の中はめちゃめちゃだった。停電もしばらく続いた余震はあったが、とりあえず、落ち着いたので自室にいた。誰かが思い出して来てくれるまで、逃げることはできません。(盲ろう 60代女性 札幌市)
  • 台風で、瓦がたくさん落ちて、しばらく青いテントがかぶっていました。ガレージやベランダの屋根が飛び家の中にいましたが、とても怖い思いをしました。家の周りがいろんな物が風で飛んできたり飛んでいったりと、外へ出る方が危険でしたので、家の中で通り過ぎるのを待っていました。(視覚障害 60代女性 大阪府)
  • 2018年6月高槻地震。同年台風20号。台風の時は停電した。支援者が来なかった。電話がつながらないし、介護者が来ないし。情報が来なかったから怖かった。(言語障害・肢体不自由 60代 大阪・堺市)

東日本大震災から10年がたちますが、要支援者の避難についてはまだまだ道半ばという実態が、今回のアンケートで見えてきました。近年、各地で大きな災害が発生しています。これからの災害で犠牲者を少しでも減らすために、NHKではこれからも要支援者の避難の課題を見つめ、伝えていきます。

【回答者の属性】

・障害種別(複数回答)
視覚障害25.8% 聴覚障害18.7% 盲ろう4.2% 言語障害4.1% 肢体不自由29.6% 内部障害6.1% 知的障害14.0% 発達障害12.8% 精神障害10.3% 難病5.3% 呼吸器ユーザー1.8% 胃ろう1.8% 要介護高齢者1.5%

・性別
男58.3% 女36.0% その他0.7% 無回答0.7% 回答なし4.3%

・居住形態
家族と同居74.8% 1人暮らし19.1% グループホーム3.1% その他2.5% 回答なし0.5%

・回答者
本人78.2% 家族が代理15.9% 支援者が代理3.8% 回答なし2.1%

・年代
19歳以下4.3% 20代7.4% 30代8.7% 40代14.4% 50代16.4% 60代18.8% 70歳以上25.5% 回答なし4.5%

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