東日本大震災では、亡くなった方のうち半数以上(56.5%)が高齢者で、障害者の死亡率は全住民平均の2倍に上りました。国は2013年に法律を改正し、避難が困難な高齢者や障害者等への対策を進めるよう自治体に求めてきましたが、今も十分とは言えません。
そこでNHKでは、災害時の避難に支援を必要とする人たちの課題を明らかにするため、2020年12月から2021年1月にかけて、日本障害フォーラムと共同で「障害者と防災」に関するアンケートを行いました。回答をいただいたのは876名で、障害種別や年齢、性別などはこの記事の最後に掲載しています。
災害に不安を感じている人は9割を超えました。近年、台風や水害、地震などの被害が毎年のように起きていることが背景にあると思われます。
「知っている防災用語」については5年前にもアンケートをとっていますが、避難行動要支援者名簿については32% → 53.8%、個別計画16% → 35.2% 福祉避難所 28% → 55.0%に上がっています。防災に関する知識は少しずつ浸透してきているようです。
半分以上の人が、ハザードマップで自宅や職場周辺の危険性を確認していました。しかし障害種別によって大きな格差があります。視覚障害と盲ろう者の場合、ハザードマップを確認した人は3割~4割程度でした。
理由としては、視覚障害者の場合は「ハザードマップが自分に分かる形になっていない」が一番多く53.5%でした。盲ろう者の場合も「分かる形になっていない」が41.7%で最多でしたが、それ以外に「ハザードマップを知らない」が29.1%、「どこで確認できるかわからない」が25%と、情報アクセスの問題が大きな壁になっていることもうかがえました。
災害から逃げるためには、まず情報を取得して判断することが必要です。そこで「いつ避難するか」を尋ねたところ、「決めていない」人が最も多く41.3%でした。国は避難に支援が必要な人に対しては「避難準備・高齢者等避難開始(警戒レベル3)」での避難を求めていますが、その段階で避難するという人は18.4%にとどまり、情報を出す行政と受け取る当事者の間にギャップがあることがうかがえます。
一方、「避難しない」と考えている人も16.9%いました。その理由として一番多かったのは、移動の問題です。
また、避難所の環境では生活が困難という声も多く寄せられました。
一方、周囲の人たちとの関係を気にしている人もいます。
東日本大震災で障害者や高齢者に大きな犠牲が生じたことを受けて、国は2013年に災害対策基本法を改正し、「避難行動要支援者名簿」の作成を市町村に義務づけました。2019年の段階で作成済みの市町村は98.9%に上り、データ上はほとんどの“要支援者”はリストアップされたように見えます。
ところが今回のアンケートでは、「登録している」「登録していない」「わからない」という回答がほぼ1/3ずつという結果になりました。「市役所から何も情報を教えてもらっていないので名簿が存在するのかもわからない(視覚障害 40代男性 札幌市)」といった回答も多く、周知が十分でない可能性があります。また「プライバシー配慮について大きな懸念があります。(精神障害 30代男性 東京・大田区)」という個人情報の管理への不安の声もありました。
一方、登録している人からも
など、実効性を懸念する声も寄せられました。
国は「避難行動要支援者名簿」の作成と合わせて、一人ひとりの要支援者が避難するための「個別計画」の策定を推奨しています。消防庁が公開しているデータによれば、個別計画は12%の自治体で「全て策定済み」、50%の自治体が「一部策定済み」となっています。
ところが今回のアンケートでは、個別計画を策定したという当事者は8.8%にとどまり、「策定していない」が72.4%に上りました。国に対して「全て策定済み」と報告している市町村に居住している障害者からも、「策定していない」という回答が寄せられています。自治体が「策定済み」とする個別計画の内実に懸念を抱かせる結果となりました。
災害が起きたとき、最寄りの避難所に行くという人は半数弱にとどまりました。避難所の環境や多くの人が集まってしまう状況について、不安の声が非常に多く寄せられています。
不安の声が多い一方で、改善に向けた提案もありました。
一般避難所に避難しづらい障害者・高齢者のため、市町村は「福祉避難所」を指定するよう求められています。しかし数は限られていて、全ての障害に対応できるとも限りません。「近くに福祉避難所がない。(知的障害・発達障害 10代女性 横浜市)」「福祉課に医療的ケアがある人が行ける福祉避難所を指定して下さい。と要望を出していますが、返答がありません。オムツをしていて、毎日浣腸が必要、胃ろう注入や吸引が必要な息子は、一般の避難所には行けません。(肢体不自由・胃ろう 30代男性 東京・墨田区)」といった声もありました。設置されていても事前に情報が開示されていない自治体も多く、場所を知っている人は1/3ほどでした。
運用についても「一般避難所での生活が難しい障がい者等には、早い段階で希望する福祉避難所等に行かせてもらえるようにしてほしい。(肢体不自由 60代女性 宮崎県)」「台風で近くの川が氾濫するとなったとき普通の避難所しか開設されなかった。避難しなければとは思っていたが、行き先が無かった。(知的障害・発達障害・精神障害 10代男性 埼玉県)」「災害時、まずは一般の避難所に避難し、そこで合わない高齢者障害者がいれば福祉避難所開設を協定施設に要請する流れになっているが、実際は一般の避難所に障害者はいかないことが多いため、支援の必要な人が埋もれ見えなくなってしまう。(聴覚障害 50代女性 埼玉県)」といった声が寄せられました。
避難訓練には、「いつも参加している」「参加したこともある」人を合わせても半数に届きませんでした。参加することが難しい理由として、以下のような声が寄せられています。
避難訓練に参加したことのある人に、障害への配慮の有無を尋ねたところ、「手話通訳が常時配置されていた。また、訓練状況が見やすいように障がい者向けの席が用意されていた。(聴覚障害 50代男性 東京・調布市)」など、配慮があったという回答は1/3ほどでした。
ただ、配慮がなかったという人からも「少しでも聴覚障害のことを理解してもらいたいと思い、耳マークを身につけて参加した。残念ながら特に配慮はなかったが、聞こえに不自由な人もいるということはわかってもらえたのではないかと思う。(聴覚障害 60代女性 新潟市)」「顔を覚えてもらえたことで、少々安心感が出た。可能な限り、避難訓練には参加していきたい。(聴覚障害 50代女性 千葉県)」といった声もよせられました。
回答した人のほぼ1/3が、近年何らかの災害で被害を受けたり、怖い思いをしていました。しかし避難できたという人は29.8%です。避難しなかった/できなかった人の中には、「避難するほどではなかった」という人もいますが、さまざまな事情で「避難できなかった」という人もいます。
東日本大震災から10年がたちますが、要支援者の避難についてはまだまだ道半ばという実態が、今回のアンケートで見えてきました。近年、各地で大きな災害が発生しています。これからの災害で犠牲者を少しでも減らすために、NHKではこれからも要支援者の避難の課題を見つめ、伝えていきます。
・障害種別(複数回答)
視覚障害25.8% 聴覚障害18.7% 盲ろう4.2% 言語障害4.1% 肢体不自由29.6% 内部障害6.1% 知的障害14.0% 発達障害12.8% 精神障害10.3% 難病5.3% 呼吸器ユーザー1.8% 胃ろう1.8% 要介護高齢者1.5%
・性別
男58.3% 女36.0% その他0.7% 無回答0.7% 回答なし4.3%
・居住形態
家族と同居74.8% 1人暮らし19.1% グループホーム3.1% その他2.5% 回答なし0.5%
・回答者
本人78.2% 家族が代理15.9% 支援者が代理3.8% 回答なし2.1%
・年代
19歳以下4.3% 20代7.4% 30代8.7% 40代14.4% 50代16.4% 60代18.8% 70歳以上25.5% 回答なし4.5%