シリーズ・仕事の現場(1)舌と手でひらく道 ―盲ろうの料理人・林和男さん
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- 遠田
- 林さんの前向きな仕事ぶりは、共に働く人たちにもまた刺激と学びを与えています。施設の職員の池原さんと福田さんのお話です。
【録音】
- 池原
- とにかくすごい人っていうのが僕の中にあって、盲ろう者であることを感じさせないような、パワフルさとか、感じますね。感情とかも遠慮なくあらわにされるので、何でもご自身から発信される力の高さっていうのもね、感じますし。僕はもう、正直口下手なんで(苦笑)。
- 遠田
- 池原さんが?
- 池原
- はいはい。だから、林さんすごいなあって思いますね。コミュニケーションをとらないと、やっぱりやっていけないっていうところも1つはあると思いますけれども、いきいきに仕事できてると思います。
- 福田
- 最初は、コミュニケーションとるとこから…触手話自体が経験なかったので、なかなか喋りかけるのも勇気がいって大変でした。
- 遠田
- 勇気がいったっていうのは…?
- 福田
- 触手話なかなか通じないだろうなっていうのと、こっちもなかなか林さんの手話読み取れないんじゃないかっていう心配もすごくあったので、勇気がいりました。喋るのに。一緒に調理するのも勇気がいりました。逆の立場で読み取る練習してもなかなか分からないんですけど、林さんはやっぱり読み取るのがすごいお上手なので。はい。だから、そこはもう全然問題なかったんです。
- 遠田
- じゃあ、林さんが上手く受け止めてくださったっていうことなんですね。
- 福田
- そうです。もう私は、尊敬してます。本当に明るいですし、仕事もすごいできますし。全部頭の中に入ってるんですよね。1年ぶりに仕込むようなものがあったりするんです。たとえばゆず茶のジャムなんかだと、ゆずが取れる時期っていうのがもう限られてるので、1年に1回ぐらいしか仕込むときがないんですけれども、私がやり方忘れてても、1年前のことなのに覚えてて、「それ間違ってるやろ」言って指摘をしてくれたりとか。「ちゃんとメモがあるんやからメモ見とけ」って「お前ら見えるやろ」言って(笑)。言われるんですけど、ごもっともって感じで。そういうの覚えてはったりするので、ほんま記憶力もいいし、本当すごいなあって思います。
- 遠田
- また、なんかおちゃめですよねえ。
- 福田
- そうなんです。冗談とかも大好きなので、いつもあんな感じなんです。
- 遠田
- 福田さんとして、林さんに期待することってどんなことなんでしょうか。
- 福田
- ますますいろんなところでお仕事すごい頑張ってるっていうのを報告してもらって、一人でも盲ろうの方でも社会に出るっていう人が一人でも増えたらいいと思いますし、あと、カフェでの仕事でいうと、林さんに期待することは、カフェのメニューもっとこれから増やしていこうと思ってるんですね。そうすると林さんの仕込みのお仕事もどんどん種類が増えると思うので、たぶんそれできはると思うので、そこら辺でまたできる仕事が増えたらいいなっていうふうに思っています。
【録音終わり】
- 遠田
- 周囲の人たちのこうした信頼と期待を得て、林さん自身は今後の夢をどう描いているんでしょうか。
【録音】
- 林
- 100歳まで料理のお仕事を続けていきたいです。年をとったら作業がゆっくりになるだろうし、ちょっと手が震えるかもしれないけど、家に引きこもることはしません。料理も盲ろうの会の活動も、100歳まで頑張りたいです。
【録音終わり】
- 遠田
- 実際に林さんのお仕事ぶりを見ていると、このまま本当に100歳までいけるんじゃないかなと思ってしまいました。
職員の池原さんもおっしゃっていましたが、物の置き場所を決めるとか、密にコミュニケーションをとるというのは、決して難しいことではありません。一人一人のこうしたちょっとした工夫や気遣いで、ともに働く仲間の仕事の可能性が、お互いにぐんぐん広がるんだなあと感じました。林さんが作った飴色玉ねぎを使ったキッシュは、本当に美味しかったです。
さて、新シリーズ『仕事の現場』いかがでしたでしょうか? 番組ではこれからも魅力的な現場を取材してまいります。