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シリーズ・仕事の現場(1)舌と手でひらく道 ―盲ろうの料理人・林和男さん

シリーズ・仕事の現場(1)舌と手でひらく道 ―盲ろうの料理人・林和男さん

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(2018年4月15日(日)放送)

出演:林和男さん
   池原正信さん(スタッフ・通訳)
   福田真海子(ふくだ・まみこ)さん(スタッフ・通訳)
司会:遠田恵子
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【番組テーマ音楽】

遠田
お変わりありませんか? 皆さん。遠田恵子です。
今年の桜前線は北上のスピードが速いですね。私のふるさと青森でも、気の早い桜がちらほらと咲き始めているようです。北国の本格的な春ももうすぐです。
さて、今週は新シリーズ『仕事の現場』をお送りします。視覚に障害のある皆さんの働く現場にお邪魔して、仕事を進める知恵や工夫、仕事のやりがいなどを伺うものです。今日がその1回目。『舌と手で開く道』と題し、手の感覚や味覚を頼りに働く、盲ろうの料理人、林和男さんの仕事の現場にお邪魔します。

【番組テーマ音楽終わり】

遠田
今回私が訪ねたのは、京都府聴覚言語障害センターです。
京都市と奈良市のほぼ中間に位置する、京都府城陽市にあります。
建物の1階にある「サンサンカフェ」が今回の仕事の現場。ここは福祉施設が運営するカフェで、林さんは、利用者として週に3回ほど働いています。その仕事ぶりを覗いてみましょう。

【録音】

遠田
おはようございまーす。
利用者
おはようございまーす。
ナレーション
   午前10時。センターの送迎車に乗って出勤です。
僕、林和男といいます、よろしくお願いします。
遠田
よろしくお願いします。
初めて会いますね、よろしくお願いします。はい。

【録音終わり】

遠田
林さんは幼い頃に耳が聞こえなくなったため、手話で話します。
それを職員の池原正信さんが、直接手で触って読み取る『触手話』で通訳をしてくださいました。私が玄関で待っていることを知ると、気軽に話しかけてくださった林さん。とても気さくなお人柄のようです。
センターに到着して、まずは血圧測定などの体調チェックを済ませ、外の物干し場に向かいます。

【録音】

池原
ここ、段差あるよ。段差。段差。足気をつけて。
遠田
まずお洗濯物を干すところから、今日のお仕事は。
池原
そうですね、はい。今日はそうですね。
遠田
お天気良くてよかったですね。
池原
よう乾くと思います、今日は。

【録音終わり】

遠田
近くのろう学校から実習に来ていた高校生の手を借りて洗濯物を干していきますが、林さんの手際の良さに、高校生も手話で「驚いた」と話していました。

【録音】

池原
『見えへんのに全部分かんのかー、すごいなあ』と。
『うーん、びっくりした。服つかむからびっくりしたわー』って(笑)。
遠田
(笑)。確かにそうですね。

【録音終わり】

遠田
林さんの視力は、物の形がぼんやりと分かる程度です。しかし、瞬時に洗濯物の形や向きを判別します。たとえば、カフェで使うタオルやシャツは、パンパンッとシワを伸ばしてしっかりとハンガーに掛け、エプロンは紐の部分を直接物干し竿に結びつけるなど、洗濯物によって干し方を変えていくんです。

【録音】

池原
小っちゃい物干しでいっぱいものが干せるように、林さんが出したアイデアで。
遠田
エプロンは、紐を上手く利用して干してるわけですね。
池原
そうです、はい。
遠田
そうすると普通に干すよりも
池原
いっぱいいっぱい干せるっていう(笑)。

【録音終わり】

遠田
洗濯物を干し終えたら、さあ、いよいよカフェの仕事です。手を洗って白衣に着替え、長いコック帽をかぶったら、準備完了。林さんは今年69歳、身長が177センチです。穏やかなお顔に白い口ひげを蓄えています。ちょっとスリムなサンタクロースという感じでしょうか。なんとかイメージがつきますか?
まずは作業台の上を綺麗に拭いて、もうこの厨房の中は勝手知ったるという感じで、物のある位置、自分の場所、すべて把握していて、お一人で移動されています。
厨房は12畳ほどの広さです。大型の冷蔵庫の他、鍋や包丁など、調理器具もたくさんあります。盲ろうの林さんと一緒に働く上で大切なのは、こうした物の配置だと、職員の池原正信さんは言います。

【録音】

池原
これは絶対のことなんですけども、定位置管理ですね。決まった場所に決まったものを置くようにするっていうこと。あと、刃物のたぐいの置き場所っていうのも、必ず同じように、同じ場所に置くっていうことですね。
ある1つの作業をお願いする場合は、カレーのソースを作られる場合とかは、ここにまな板置いて、ここに玉ねぎ置いて、ここに何を置いてっていうのを、ほぼ毎回同じように用意するっていうことです。それさえきっちり守っておけば、「今日はカレーするからお願い」って言ったら、あとは材料とその環境を用意しておいたら、どんどん先に作業をされます。
あとは、危ない状況とか環境があるときは、すぐに伝えてるっていうことですね。同じ作業をもう何度も何度も繰り返して、次の作業は何かっていうのを完全に把握してらっしゃるので、ここまでのことはもう任しといて大丈夫。担当されてることは完璧にされるので、それに対する安心感が我々ありますね。今日のうちにはここまで仕事がやり切れるっていうことが見えたりもしますし。でも、冗談とかはね、よくおっしゃるので、和やかになったりしますね。

【録音終わり】