盲ろう者のための本音ラジオ ―もっと毎日を楽しみたい編―
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(2014年8月24日(日))
出演:福島 智(さとし)さん
荒 美有紀(あら・みゆき)さん
森 敦史(もり・あつし)さん
司会:高山 久美子
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スタジオにいる全員:「盲ろう者のための本音ラジオ!!」
- 高山
- もっと毎日を楽しみたい編!
(♪テーマ音楽。軽やかなピアノのイントロ。アップテンポの楽しい曲。そこにアナウンスの声がかぶる)
- 高山
- 「聞いて聞かせて ~視覚障害ナビ・ラジオ」こんにちは!高山久美子です。
今日はNHK放送センターの7畳ほどの小さなラジオスタジオに10人がひしめきあって、お伝えしています「盲ろう者のための本音ラジオ ―もっと毎日を楽しみたい編―」。
視覚にも聴覚にも障害のある「盲ろう者」は全国で推定1万4千人。
情報入手に極端な制約がある中、孤立している人も多いと言います。
そこで、今日は、全国の盲ろう者や、もし自分が盲ろうになったらどんな生活を送ることになるのかと不安をお持ちの視覚障害の方々に向けて、この放送をお届けします!
スタジオで本音トークを展開して下さるのは、とても魅力的な3人の盲ろう当事者の方々。
それぞれ、2人ずつ通訳介助者がついて、触る手話「触手話」や、左右の指と指を重ねて点字タイプライターのキーを打つようにする「指点字」で情報を伝えてくれています。
それでは、3人のゲストをご紹介しましょう!
まず、今日はストライプのブラウスがとても爽やかで、「オシャレが大好きな普通の女子です」という、荒美有紀(あら・みゆき)さんです。
荒さんは今25歳。3年前、大学在学中に難病のため、聴力と視力を続けて失いました。その後、点字や指点字を学び、大学を卒業。
女子大生らしい言葉でつづった「☆(ほし)の王女さま」というブログで、荒さんの存在をご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
荒さん、よろしくお願いします。
- 荒
- お願いします。
- 高山
- そのお隣は、現役の大学生、森敦史さん。生まれつき、視覚と聴覚に障害があります。
家族や学校の先生たちにも支えられ、ひとつひとつ言葉などを獲得し、先天性の盲ろう者としては、日本ではじめて大学に進学しました。
森さんは、手話で語っていただき、井口健司(けんじ)さんが通訳してくれます。
森さん、よろしくお願いします。
- 森
- よろしくお願いします。
- 高山
- そして、3人目は、盲ろう者を日本に知らしめた存在、といっても過言ではないと思います。
東京大学教授の福島智さんです。9歳で失明、18歳で聴覚も失いましたが、お母さまが編み出した「指点字」で、ご自身や多くの盲ろう者の道を切り開いてこられました。全国盲ろう者協会の理事でもいらっしゃいます。福島さん、よろしくお願いします!
- 福島
- はい。よろしくお願いします。
- 高山
- では、盲ろう者のための本音ラジオ、―もっと毎日を楽しみたい編― 始めましょう!
(♪テーマ音楽おわる)
《第一部 わたしたちの楽しみ》
- 高山
- 福島さん、記念すべき第1回「盲ろう者のための本音ラジオ」。
盲ろう教育、盲ろう者の社会参加、差別の解消など、語るべきことはたくさんありますが、今回はあえて、「もっと毎日を楽しみたい」という、ゆるいテーマでお送りしたいと思います。いかがでしょうか?
- 福島
- うーん、そうですね。楽しみ乏しき「オヤジ世代」になっておりますので、今日は若い人たちの楽しみについて伺うのを楽しみにしています。
- 高山
- 今日の放送は、盲ろう者だけでなく、ろうや難聴の人たちの情報保障のためにも、番組ホームページにもテキストを公開する予定です。詳しくは番組の終わりにお伝えします。
さて、「もっと毎日を楽しみたい編」。
盲ろうとなり、想像できないようなつらさや、葛藤もきっとあると思います。
でも、だからこそ、少しでも毎日を楽しくするための、みなさんの工夫や、ささやかな楽しみについてお伺いしたいと思います。まず、荒さんはいかがでしょうか?
- 荒
- えー、私は、おいしいものを食べに行って、友達と指点字でおしゃべりをしたりするのが好きです。女子大生らしく、おしゃれや恋愛とかも楽しんでいます。
- 高山
- お友達は、大学のお友達が多いんですか。
- 荒
- 多いですね。指点字を覚えてくれました。
- 高山
- 盲ろうのお友達もいらっしゃるんでしょうか。
- 荒
- 聴覚障害の友達はいますが、大抵は健常の方が多いです。
- 高山
- 洋服のこととか、おいしいスイーツのこととか、いろんなことを教えてもらうのが楽しんでしょうかね。
- 荒
- そうですね。
- 高山
- 荒さんは、普通の大学生活を送っていたところに、3年前に、突然盲ろうになりましたよね。
- 荒
- はい。
- 高山
- すごく大変で、苦しかったと思うんですけれども、今は大学も卒業して、前向きに過ごせるようになっていらっしゃいますけれども、やはりそれには時間がかかりましたか。
- 荒
- えーと、大学に復帰したのは1年ぐらいで復帰したので、あのー、指点字や点字を覚えるのが大変でしたが、気持ち的にはつらかったですけど、1人で家にいるほうがつらかったです。友達とかとしゃべれないのが、一番悲しいなと思いました。
- 高山
- お友達も、荒さんとお話しできるようになって、うれしかったでしょうね。
- 荒
- うーん。どうですかね。
- 高山
- いや、きっと、あのー、うれしかったと思います。はい。
- 荒
- いや、私はうれしかったですけど、でも、うーん、どう思っているのかは、知らないです。
- 高山
- はい(笑)。恋愛もするし、っておっしゃってましたけど。
- 荒
- えーと、今つき合っている人がいて、その人がすごい優しいので、私もやっぱり元気になりますね。
- 高山
- 福島さん、ちょっとのろけられちゃいました。
- 福島
- はい。いや、とてもいいことだと思いますよね。
- 高山
- ねえ。森さんはどうですか。
- 森
- そうですね。いいことだと思います。僕も、ちょっと見習いたいと思いますけど。
- 高山
- 森さんは、彼女は。
- 森
- 今は、いません。
- 高山
- 今は、いないんですね。
- 森
- そ、そうです。
- 高山
- 森さんは、実は鉄道が大好きで。
- 森
- はい。
- 高山
- 最近は1人で鉄道旅行に行かれたって聞きました。
これはどうして1人で行こうって思われたんですか。
- 森
- きっかけは、僕が生まれた場所が岐阜で、前から岐阜によく帰っていました。
あるとき知り合いと一緒に帰る予定でした。でも、その知り合いの都合が悪くなり、1人で帰らなければならなくなりました。そこで、1人で新幹線で帰ることを思いつきました。それまでは、近くのコンビニまで歩いて行って、買い物をしたりしたことはありましたが、1人で新幹線などに乗るのは初めてでした。駅員さんに相談したら、ホームまで誘導をしてくれました。
- 高山
- 駅員さんとは、どうやってコミュニケーションをとっていたんですか。
- 森
- 50音の表をつくって、それを指差す方法を使っています。それを50音ボードと言っています。そのボードには、50音の文字と点字が書いてあります。それに指を持ってもらって、言いたい言葉を指してもらいます。難しい内容のときは、単語のカードをつくって、それを見せています。
- 高山
- そうやって工夫をして1人旅ができたんですね。
- 森
- そうですね。
- 福島
- じゃあ僕から森君に質問なんですが、鉄道の旅が好きなんですよね。
目が見えていればね、窓からの景色を楽しめますし、見えなくても音が聞こえていれば、いろんな物音とかね、窓の外からの音とかも含めて楽しめることがあると思いますが、こう言っては失礼ですが、鉄道に乗って何が楽しいんですか。
- 森
- 電車は揺れがあると思っています。振動とか。古い車両のときは、よく揺れます。
振動を楽しんでいます。
- 高山
- なるほどぉ。
- 福島
- な、な、なかなか渋いねぇ、それは。
- 高山
- あはははは(爆笑)
- 福島
- なるほど。ふふふふ(笑い)。
- 高山
- 揺れるほうが楽しいんですね。
- 荒
- 私はいつも車椅子なんですけど、いつも揺れがあるんです、どこかに行くときは。なので、電車に乗ったりとかタクシーに乗ったりとか、余り違いを感じなくて、なのでそういう移動時間の間にどんなことをするのかなと思って。
- 森
- そうですね。駅を出るときの揺れとかで、駅にとまっているかとかを知ることができます。インターネットという便利なものがあるので、それを使って今どこの駅にいるかとか、何時に目的地に着くかを調べたりもしています。
- 福島
- これはもう、あれやなぁ、そのぉ、鉄道マニアじゃないとわからない深い境地ですね、これは。
- 高山
- 「てっちゃん」ですね。
- 福島
- ええ、そうですね。
- 荒
- そうですね。
- 福島
- 「てっちゃん」だな。
- 高山
- 「てっちゃん」です。
- 福島
- えー、まあ、あの、森君について、ちょっとまあ私には「てっちゃん」のことはよくわからないので、どっちかというと「鉄板焼き」のほうがいいかなという感じですが。
- 高山
- ふふふ(笑い)