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特集:相模原障害者殺傷事件から1年・福島智(さとし)さんに聞く

特集:相模原障害者殺傷事件から1年・福島智(さとし)さんに聞く

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放送日:2017年7月30日
出演:福島 智さん(東京大学先端科学技術研究センター教授)
聞き手:宇野 和博
高山 久美子

高山
特集です。2016年7月26日未明、神奈川県相模原市の障害者入所施設「津久井やまゆり園」で重い障害のある人たち19人が殺害され、27人が重軽傷を負いました。あの事件から1年。今日は事件を振り返り、障害者の尊厳や命の意味、共に生きることについてあらためて考えます。スタジオには全盲ろうで東京大学先端科学技術研究センター教授の福島智(さとし)さんにお越しいただきました。通訳介助は前田惇美(あつみ)さんです。福島さんよろしくお願いいたします。
福島
よろしくお願いいたします。
高山
私たちも非常に大きなショックを受けたあの事件から1年。今どんなお気持ちでいらっしゃいますか。
福島
うーん、そうですね、早かったなと思います。この1年。
宇野
福島さんがあの事件のことをはじめて聞いた時、どのようにお感じになりましたか。
福島
そうですね、去年の7月26日、私は体調がよくなくて、うつの一種ですが、適応障害で大学の仕事を休んで療養していたんです。で、たまたまその日午前中は精神科に通院をして、帰ってくるまであのニュースを知らなくて、帰ってきてからもすぐは分からなくて。だけど知り合いのメールの中で「今朝の事件が」とか「今朝のあの大変なことが」というフレーズが出てきたので、これは何か大変なことがあったらしいと思って。私はテレビとかラジオを見られないから、ネットのニュースを点字で読んで、そしてあの惨劇を知ったんですよね。最初は本当にもう言葉になりませんでしたし、その次は、とにかくこれは大変なことだから、研究室にメールして可能な限りの情報を、テレビだけでなくネットも、それからもちろん新聞なども含めて可能な限りの媒体で情報を集めて欲しいというふうにスタッフに頼んで。その一方で私自身が知り合いにいろいろメールを交換して情報収集したり、この事件は一体何なのかということを考えたりしました。すごく何かしんどかったですけれどね、朝まで起きて、ずっとメールしていましたね。
宇野
福島さんはこの事件について殺人の二重性とおっしゃっているそうですが、それはどういうことですか。
福島
今回の事件が一体どういう意味を持っているのか考えた時に、「二組の二重性」があるかなというふうに思ったんですね。つまり二重性が2つあるということ。1つ目は、「優生思想」と「ヘイトクライム」の二重性で、「優生思想」というのはヒトラーが一番有名ですけれども、様々な国で歴史的にもいろいろな形で表れてきた考え方で、命に「いい命・悪い命」っていうふうに価値をつける、悪い命を抹殺しようというそういう発想ですよね。それが優生思想で、もう1つのヘイトクライムっていうのは、ヘイトスピーチっていう言葉がありますが、憎悪とか憎しみとか、あるいは、のけ者にする、排斥する、そういった感情によって行われる犯罪、それでヘイトクライム。この2つがまず二重になっただろうと。これが第一の二重性で、でもそれだけじゃなくてもう1つあるんじゃないかと思ったんです。それが殺人の二重性かなと思って。なぜそう思ったかというと、もちろん19人の障害を持った方が殺害されているので、殺人であることはその通りなんですが、それがいわば「生物学的な心臓を止めるという意味での殺人」ですよね。でもそれだけじゃないのではないかと思います。というのはね、報道されていた内容によると、植松被告は、意思疎通が難しい人はどこの部屋にいるのか、障害の重い人たちのいる部屋を聞いて、通常の音声でのコミュニケーションが難しい人たちを選んで殺しているんですね。つまり、障害が重ければ誰だってよかったわけです。特定のAさんBさんが憎いから殺すというのではない。「意志の疎通が難しい重度の障害者」という性質を持った、いわば記号としての人間、名前のない人間を、選択的に殺したということ。これはつまり一人一人の人間の存在、一人一人の人間のかけがえのなさを無視し、それ自体も殺したということ。

私がそれは「実存的な殺人」ではないか、つまりその人の存在自体を抹殺したことではないかというふうに思ったので、「生物学的な殺人」と「実存的な殺人」という、その2つの二重性があるんじゃないかというふうに考えました。