特集・2016年の障害者問題を振り返って―藤井克徳さんに聞く―
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- 高山
- 次に、今年は8月と10月に視覚障害者がホームから転落して亡くなる事故があり、視覚障害者の移動も大きな社会問題となりました。
- 藤井
- 差別解消法が施行された年にこうして痛ましい事故があったというのはとても辛いし、これも考えてみると人為的な原因だと思うんです。ですから今日の障害問題の1つの縮図ではないかなと思います。
- 高山
- はい。
- 藤井
- 私はこの事故のあと、行政の動向などもチェックをしてきたんですけれども、とっても辛いのは-全部そういう論調じゃないんだけれど-「声を掛け合いましょう」とか、「優しさを持ち合いましょう」っていうことをやや強調しているんだけれど-もちろんこのことは大事なんですが-やはり、人命や人権に関わる問題っていうのは「政策」が先行すべきことだと思うんですね。その政策に触発されながら、あるいは相乗しながら、人の心や意識も変わっていくと。
今度の事故の件で言いますと、ここで言う政策っていうのは、2つに限定してもいいと思うんです。1つはホームドア。物理的に安全を確保するということですね。もう1つは、ホームドアができるまで、またはできたあとも-これは合理的配慮とも関係しますけれど-やはり、「人員配置」をきちんとしてもらうと。これは仮にアルバイト、あるいは嘱託という道もあってもいいと思うんですが、人がちゃんといるんだということです。この2つを徹底する、あるいはスケジュール化する中で、人の気持ちや優しさも、もう一枚上乗せをする。こんな風に考えていくべきじゃないかなと思います。
- 宇野
- そもそも鉄道事業という事業に対して、安全にはどうしてもお金がかかるというのは当たり前だと思うんです。例えばホームドアの設置もお金もかかりますし、人を配置することも当然お金がかかる。でもそれは事業を行うに当たって最低限必要なコストだと考えて、制度設計をまず作っていただきたい。そこが今まで曖昧だったのかなという気はしています。
- 藤井
- まさに私も、鉄道事業者の社会的責任として、これはやはり果たして欲しいなと。この20年間、主な駅でエレベーターやエスカレーターの設置がずいぶん進みました。お年寄り、ベビーカーを含めて、ずいぶん駅が利用しやすくなったと。これは企業に-エレベーターメーカーやエスカレーターメーカーを含めて-相当な経済効果もあったと言われています。このホームドアも含めて、1つのヒューマン公共事業という観点で、鉄道業者が第一義的に、そして、これに公的な予算も噛んでもらうと。こういう言葉がいいかどうか分かりませんが、交通弱者全体のテーマとしても、ぜひ迫っていかないといけない。もちろん障害分野、特に視覚障害者が大きいんだけれど、そういう点では、これもまた広い連携で社会にアピールしていく必要もあろうかと、私はそう思っています。
4)2017年はどんな年に
- 高山
- 最後に、藤井さんは来年はどんな年にしたいとお考えですか。
- 藤井
- そうですね、だいぶ重い話を今日はしてきましたけれど、ただ大きく見れば、権利条約も批准をして、3年目に入っていくと。差別解消法もまだこれから周知徹底する中で、発展する伸びしろはいっぱいあるわけです。こういった法的な規範を沢山使っていくということがまず大事ですよね。
その上で私は2017年というのは障害を持った人があらゆる分野で、あらゆる地域で、当事者が参加をしていく年に、ぜひしていきたいなと。今までは政策決定過程だけだったんだけれど、様々な意志決定の場面に当事者が入っていく。例えばNPO法人だとか、社会福祉法人だとか、こういう所の意志決定機関-これは理事会って言うんですが-こういったところにも入っていく。そうして自分で選択をする。こんなことを意識的にしていくような、そういう年に、ぜひ日本中をあげてやっていきたい、そうあって欲しいな、と。こんなことを希望します。
- 高山
- 来年は酉年。それぞれのコミュニティで、障害者を含めてみんなが羽ばたける、そんな年になるといいですね。今日の特集、今年の障害者に関するニュースを藤井克徳さんと共に振り返りました。藤井さん、今日はありがとうございました。
- 藤井
- どうもありがとうございました。