特集・2016年の障害者問題を振り返って―藤井克徳さんに聞く―
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(2016年12月25日 「今月のトピックス」より)
出演:藤井 克徳(かつのり)さん(日本障害フォーラム幹事会議長、きょうされん専務理事)
聞き手:宇野 和博
高山 久美子
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- 高山
- 特集です。今年も障害者をめぐるさまざまなニュースがありました。嬉しいこともあれば、悲しさや怒りを感じる事件もありました。そこで今日は、その中でも特に3つの大きなニュースを振り返り、来年を展望します。
スタジオには藤井克徳さんにお越しいただきました。藤井さんは全盲で日本障害フォーラム幹事会議長やきょうされん専務理事、JD日本障害者協議会代表をなさるなど、多くの障害者団体で障害者の権利擁護に長年取り組んでいらっしゃいます。宇野さんと二人でじっくりとお話を伺っていきます。藤井さん、よろしくお願いいたします。
1)4月:障害者差別解消法の施行
- 高山
- まずは今年の4月、障害を持つすべての人が待ち望んでいた法律「障害者差別解消法」が施行されました。8ヶ月近くが経ちましたが、藤井さんは社会の変化をどのように感じていらっしゃいますか。
- 藤井
- この法律は障害を持った人からしますと、「障害者権利条約がくれたプレゼント」、こう言ってもいいと思うんです。大変期待をしています。ただ、あまり思わしくないのが現状なんですね。
- 高山
- どんな点で?
- 藤井
- いろいろなデータがあるんですけれど、まず障害を持った人が実際にどれぐらい相談に行っているかっていうと、非常に少ないということ。もしかしたら、この法律の周知がまだ十分じゃないということもありますし、あきらめていることもあるのかなと。例えば相談件数で言いますと、埼玉の例なんか言いますと、年間一桁台なんですね、非常に低い。多い県であってもせいぜい三桁の前半ぐらいという統計なんです。
加えて今度の法律と別に、「障害者雇用促進法」この相談件数も、まだ非公式なんですが、全国のハローワークには寄せられている相談件数は、これは半年間の統計ですが、どうやら一箇所のハローワークで1人の相談があるかないかということ、これが現状なんですね。
- 高山
- 実際には困っていらっしゃる方々が多いにも関わらず、相談をする方が本当に少ないということですね。
- 藤井
- それと、こうした法律の活用を含めて相当、乖離(かいり)しているっていう、この原因究明を早くやっておかないといけないんじゃないかなと思いますね。
- 高山
- その原因は何だとお考えになりますか。
- 藤井
- やはり一番大きいのは、まだまだ、当事者、あるいは事業者を含めて、この法律の本旨・本質が伝わっていないというのが一番大きいんじゃないかと、そんな風に私は思っております。
- 宇野
- 法律では、「不当な取扱をしてはならない」とか「合理的な配慮が提供されるべき」ということなんですが、もし合理的な配慮がなされないというようなことが職場であったら、ハローワークに相談するということなんですね。
- 藤井
- これもあまりよく知られていないと思うんですけれど、職場内での解決システムっていうことじゃなくて、これは、ハローワークが相談の公的な窓口になっているということなんですよ。
- 宇野
- 日常的な場面で不当な取り扱いだなと感じた場合はどこに相談にいけばいいんですか。
- 藤井
- その場合には、各市町村の、一般的には、障害関係の福祉部署。おそらく障害福祉課という名称が多いと思うんですが、ここに相談を持ち込むと。
- 宇野
- せっかく出来た法律ですので、問題があった時はきちんと相談に行くという姿勢も大事ですね。
- 藤井
- 相談をすること。これがやはり大事な姿勢だと思うんです。もう1つ統計的に言いますと、2つの大きな数字をチェックしていく必要があるんです。
1つは、地方公共団体の職員に対して、不利益な差別待遇、及び合理的配慮の提供義務を怠った場合、これに関する公務員としてのガイドラインを決めるようにということが、実は努力義務規定なものですから、これがどれぐらい出来上がっているかというのが1つのバロメーターだったんですが、現状では、10月1日現在の内閣府の統計によりますと、なんと45%しか作られていない。これに対して「作りません」、あるいは「すぐ作る展望がありません」っていうのが約23%弱っていうことで、非常に低調。
もう1つ、「障害者差別解消支援地域協議会」というのがあるんです。公的な場でこれを設けて相談を受けたものを分析をするっていう所なんですが、これも現状では、市町村に3割しか設置されていないと。これに対して、作りません、またすぐ作る展望がありませんという所がなんと43%っていう状況。これが実は今の実態なんですね。
- 高山
- この2つがなければ、この法律が実質的なものになっていかないということですよね。
- 藤井
- やはり地域で暮らすわけですから、この2つのものが地域の中に無いと理念倒れになりかねない。ということは、この2つを「作らせる」。もうある場合には、「実質化させる」ということ。これが当座の大きなテーマになろうかと思いますね。
- 高山
- 私が住んでいる町にそれがあるかどうかを知ることが大切になってくるでしょうか。
- 藤井
- ぜひわが町の地方公共団体の「対応要領」と同時に「地域支援協議会」。これをぜひチェックして欲しい。
こういう風に思いますね。まず、あるかないか点検し、ない場合には作ってもらう。ある場合には実質化させる。さらに実質化させる場合には、同じ都道府県内で良い事例にあわせて変えていくっていう作業が当座大事になってくると思います。
- 高山
- せっかく施行された法律ですから。どんどん有効活用していきたいですよね。
- 藤井
- 法律とか制度っていうのは育つものであって、みんなで育成、進化させていく、こういう努力も大事かと思います。
- 高山
- 内容が難しいっていうのもあるとは思うんですね。きちんと理解できているのかっていうのが、私たちも含めてみんなで勉強していくっていうのも必要かもしれませんね。
- 藤井
- そうですね、特に今回は、合理的配慮の不提供が差別であると。この合理的配慮なるものがまだ浸透していませんから。今言われたように、これは学びながら使っていくっていうことで、まずは学ぶっていうこともね、あらためて私は呼びかけたいと思います。