盲ろうの子どもの育ちと学び
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(2014年12月28日(日)「今月のトピックス」より)
- 高山
- そして幼稚園にあがるその時に、特別支援学校の幼稚部ではなくて、地域の幼稚園、大岡山幼稚園に入園されたんですよね。これはどうしてなんですか?
- 田中
- まだ小さいときは、もちろん、地域の幼稚園なんて全く考えられる状態ではなかったんですけれども、娘が成長してきて、地域の幼稚園でもやっていけるかもしれないという思いが強くなって、知人に紹介していただいた、統合教育をやっている大岡山幼稚園と、出会いました。
- 高山
- 大岡山幼稚園に通いながら、盲学校とろう学校にも通われたということですけれども、それはそれぞれの専門性を重視して?
- 田中
- そうですね。目と耳というと、目のほうが重いので、盲学校はもう絶対不可欠なもので。例えば衣服の着脱、前と後ろをどうやって見きわめるんであろうかとか、生活していくすべてに関しても、細かく指導してくださいますし、物の概念形成というのが、目も耳も不自由で情報が少ないと、とても欠けてしまうので、そういったところを教えていただけるのは、盲学校がすごくいい場所であるなというふうには感じていました。将来的に点字を使いますので、足がかりになる支援をしてくださるのも盲学校ならではの支援かなと。
- 高山
- はい。そして、幼稚園には週に3日行き、盲学校には2日行って、ろう学校には月に1回とか、そういうふうに日にちを決めて行くわけですよね。
- 田中
- はい。盲学校の先生から「幼稚園の日数を3日以上にしたほうがいい」というふうに言われたんですね。「えっ、幼稚園が多いの!?」っていう感じだったんですね、最初は。
- 高山
- ちょっと意外ですよね。
- 田中
- 意外ですよね。でも先生は、「盲学校は1日で大丈夫」って。幼稚園に行く場合には、必ず固めて行ってほしいと言われたんです。例えば「月・水・金」ではなく、「月・火・水」という感じで。それによって、理解が深まるということを言われて。
- 高山
- 幼稚園に入って、周りの子どもたちは障害がないわけですよね。コミュニケーションというのは、どうやってとっていたんでしょうね。
- 田中
- はい。大岡山幼稚園はハンディのお子さんをたくさん受け入れていて、ハンディのお子さん1人ひとりにボランティアの方がつくんですね。最初は身の回りのことのお手伝いをしていただいたり、先生が言った言葉を耳元で繰り返してゆっくりと伝えていったり、そういうようなサポートを常にしていただきました。最初は、ボランティアさんも娘に慣れないので、何を言ってるかわからなかったり、娘が言ったことに対して全然的外れな答えを返したり。それはもう当然のことなんですけれども。なかなか、自分の意思が伝わらないということが、あったと思うんですけれども、だんだん、先生も、ボランティアさんも、周りのお友達も、凛の言葉になれて、滑舌はよくないんですけれども、言っていることがわかってくれるように、なってきました。
- 高山
- 幼稚園に通わせて一番よかったことっていうのは何だと思いますか。
- 田中
- 地域の幼稚園は、たくさんのお友達がいて、刺激もたくさんあって、少しもちろん危険なこともありますけれども、でも、言葉のシャワーをたくさん浴びて、幼稚園ですごく言葉を学んできたのは大きかったかなと思います。あとは、だんだん、お友達も少しずつできて、幼稚園が終わってからも一緒に公園で遊ぶ時間ができたりとか、ボランティアさんがいなくても、お友達同士だけで行動を少しずつできるようになって。ボランティアさんは、必要なとき、はサポートはするけれども、本人ができることは1人でやらせていくようにしていただいていたんですね。
- 高山
- はい。
- 田中
- でそこは、やっぱりあの、大きいかなと思います。
- 高山
- 運動会とか、クリスマス会とかもありますよね。
- 田中
- そうですね。
- 高山
- そういった行事なんかは、どうされてたんですか。
- 田中
- クリスマスに関しては、キリスト教の幼稚園なので、ページェントというキリスト様の生誕劇を毎年やるんですね。年少のときにはボランティアさんが必ず隣についていたんですが、年中以降は周りのお友達が歩くときに少しサポートをしてくださったり、ボランティアさんは輪の外で見ていて、お友達同士で助け合っていただいたり、娘が自分の役をそれなりに理解をして、少しできるようになったかなというのが、成長を感じました。
- 高山
- それはすごいですね。そして、3年間の幼稚園生活を経て「卒園」となりましたが、どんなお気持ちでしたか。
- 田中
- 一言で、よくここまで育ったなぁと。まさか娘がこんなに言葉を話せるようになるとは思いませんでしたし、自分の意思をとてもしっかり持って、たくさんのことを理解して、すごく感情豊かに育ってくれたことを、ほんとにうれしく思いつつ・・・。これからの学校生活、新たな試練がたくさんあるんだろうなぁと、思いました。
- 高山
- 卒園までのことを振り返って、こんなことがあったらよかったのにということはありますか。
- 田中
- 私はラッキーなことに、統合教育をしている幼稚園が比較的自宅の近くにあって、知人に紹介していただいたということで、知ることができたんですけれども、ほかの幼稚園も、いろいろ電話をかけたり、行ってみたりしたんですけれども、障害があるということで、シャットアウトされてしまうというのが現状で。盲ろうの方だけではなくて、いろんな障害の方が、一般の幼稚園に入ることがなかなか難しくて、その辺がもう少し改善されたらいいなぁとは思います。
- 高山
- そうですね。改めて、凛ちゃんを育てる上で一番大事にしたことっていうのは何でしょうか。
- 田中
- 目や耳に、障害があるのはあるんですけれども、それよりも、「心」を育てていくことが大事なのかなっていうのは、すごく感じました。感受性が豊かな、とても幼いときに、「脳」も育てて、「心」に寄り添って、気持ちを共感して、楽しいとかうれしいとか悲しいとか、娘の心の中の声を一生懸命聞くことによってすごく育っていったのかなぁということを感じていて。言葉っていうのは、ほんとに「心の育ち」がないと育たないということを、ある先生に言われたんですけれども、それを、今改めて実感しています。