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ろうを生きる 難聴を生きる▽一緒に“学ぶ”楽しさをもう一度!<字幕スーパー>

    週に一度、新宿で開かれている「ろう・難聴高校生の学習塾」。ここで去年から「高卒認定試験」をサポートするプロジェクトが始まりました。不登校などで学習ができない聞こえない人に向け、解説動画をインターネット配信しているのです。動画で講師を務めるのは大学生たち。なかには不登校になったが塾で勉強し大学に進学した人もいます。不登校経験を経て大学生活を楽しめるようになった先輩が取り組む、プロジェクトを追います。

    出演者ほか

    【語り】高山久美子

    番組ダイジェスト

    一緒に“学ぶ”楽しさをもう一度!

    東京、新宿の駅前にあるビルの1室。毎週金曜日の夕方、ここに学生たちが集まってきます。

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    「ろう・難聴高校生の学習塾」。難しい用語が並ぶ受験問題を手話で教えられる人は、まだ少なく、貴重な場所。先生の言葉をパソコンで筆記通訳するクラスもあります。教育現場での、こうした情報保障は不足していて、多くの学生たちが困難を抱えているのが現状です。

    塾の主宰者 斉藤くるみさん
    「ろう、難聴の子どもたちは大学に入るのを諦めてしまっている子が、すごく多い。これは、なんとかしないと、と思いまして。」

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    この学習塾が去年(2018年)から新たなプロジェクトを始めました。「高卒認定試験」の問題を解説した動画を、インターネットで配信しているのです。不登校、中退といった事情で、十分な学習ができない人に、自宅などで勉強してもらおうというものです。

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    実は、このプロジェクトで講師役を務めるのは、聞こえない大学生たち。その中には自分自身が、かつて不登校でつらい経験をした人もいます。

    講師役の学生
    「この動画を見て、高校に頑張って行かなくても、高校卒業の資格が取れると知ってもらいたいんです。」

    “楽しい未来が、きっと待っているから、進学をあきらめないで”。聞こえない先輩たちが届けるメッセージです。

    東京、清瀬市にある日本社会事業大学。日本で最初に設立された福祉専門の大学です。聞こえない学生も多く学んでいます。学習塾を主宰する斉藤くるみさんは、ここで言語学などを教える教授です。

    斉藤くるみさん
    「子どもにとって何かの言語をしっかり獲得するって大事なわけです。ろう者の子どもとか、聴者の子どもで、ろうとか、そういう子どもたちは日本語が分からない。聞こえないんですから獲得できないです。」

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    高卒認定試験を解説するビデオの制作は、斉藤さんと、その教え子の学生によって進められています。
    高卒認定試験とは、合格すると、高校卒業と同等以上の学力があると認められるものです。

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    この日撮影するのは「世界史」。斉藤さんと教え子の4年生、波戸海沙(はとみさ)さんがアイデアを出し合って説明方法を考えていました。日本手話と日本語は文法が違うため、聞こえない学生にとって問題文を理解するのは大変です。世界史などは難しい人名がたくさん出てくるので、なおさらです。

    斉藤くるみさん
    「この漢字が出てくるじゃない、いっぱい、人の名前で。中国の歴史とかね。そういうときに、もう字で覚えちゃう?」

    波戸海沙さん
    「そうです。全部漢字で覚えます。」

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    斉藤くるみさん
    「一応、指文字やって、そのときに波戸さんが表情豊かな形でプレゼンテーションすることで、きっと、その表情も込みで覚える子もいると思う。問いについては読み込めていない子もいると思う。日本語を読むだけで大変な子もいるでしょう?」

    波戸海沙さん
    「まず(日本語の問題を)読ませてから、次に、その意味を簡単に手話で説明してみます。」

    問題文の意図を手話で解説し、難しい人名については、補足で説明を加えていくことにしました。

    波戸海沙さん
    「この漢字は『しばせん』と読みます。人の名前です。肖像画を見ると、ちょっと怖そうな顔をしています。」

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    斉藤くるみさん
    「すごくいいと思います。問題の何を答えるべきか分かりやすかったと思う。ありがとう。そんな感じでいきますか。」

    波戸海沙さん
    「はい、分かりました。」

    ろう、難聴高校生の学習塾を始めて9年。斉藤さんが高卒認定試験のプロジェクトを始めようと考えたのは、聞こえない子どもの親とのやりとりが、きっかけでした。

    斉藤くるみさん
    「塾に行きたいんですけど、と連絡が親から入るとき、実は学校に行っていなくてというお話がありまして、ええ、どうぞどうぞとお誘いしても、ちょっと今週はとか、いろいろな理由で、やっぱり来ないという人が多い。ああ、うちから出られないのかもしれないということが、ずっと気になっていたんですね。」

    「家からは出られないが、勉強はしたい」。そんな子どもたちに向けて、インターネットで動画を配信しようと思いつきました。高卒認定試験に合格すれば、大学や専門学校に進む道が開けます。教え子たちに声をかけ、講師役を頼みました。

    斉藤くるみさん
    「ちょっと、やさしいところから動画を見て勉強する、手話を見ながら。こんなお兄さん、お姉さんたちが大学で頑張っていて、自分たちを支えようとしてくれているんだということで、ちょっと元気が出てくれるといいかなと思っています。」

    斉藤さんのもとで学ぶ聴覚障害のある学生たちは、それぞれ聞こえないことで勉強に苦労した経験があります。その彼らが画面にでることは、今、悩んでいる後輩たちの大きな力になるはずです。
    メンバーの1人、波戸海沙さんは、自身にも不登校の経験があります。ろう学校時代に休みがちになり、一般の高校に編入。でも状況は変わらず、苦しんでいました。

    波戸海沙さん
    「家をいったん出て電車に乗って、学校が近づいてくると分かったら、もう電車の中で涙がとまらなくなってしまうんです。電車の中で、ずっと涙を流し続けて、駅で降りられず、そのまま電車に乗り続けて、高校の最寄り駅から離れたら、もうほっとして、なぜ自分が、ほっとしたのか分からない。そのことが、すごく恥ずかしくて、泣きながら家に帰るということを繰り返していました。」

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    そんなとき、斉藤さんが主宰する学習塾を知り通うようになりました。学校に行けなくても勉強ができると知ったことで気持ちが楽になったといいます。

    波戸海沙さん
    「塾に通っていたから、高校を卒業できずに辞めたとしても、高卒認定試験があることを知っていました。それに受かればいいかなという感じでした。高校にこだわりすぎても疲れてしまうことは分かっていたので。」

    波戸さんは塾で学びながら高校を卒業。斉藤さんが教える大学に進学しました。この春、卒業します。
    聴覚障害のある高校生たち。何がきっかけで、不登校になるのでしょうか?この女性は、ろう学校の中等部を卒業し、聞こえる人=聴者と一緒に学ぶ高校に進学。そこでショックを受けたと言います。

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    不登校の経験がある女性
    「ろう学校では、みんな手話で話しているので、情報は全部入ってきます。でも普通の学校に入学したら、情報がまったく入ってこないんです。それも1日中、朝から帰るまで、まったく分からない状態です。それが積み重なって、本当に苦しかったです。」

    みんなと一緒に勉強したい、でも学校に行けない…。もどかしい日々でした。

    不登校の経験がある女性
    「勉強が遅れるという心配はありましたが、大学に行きたかったので、家にいても勉強はきちんと遅れないようにやっていました。」

    その後、聴者の友人の支えで学校に通えるようになり、高校を卒業。大学に進学しました。
    不登校になった場合、通信制の高校やフリースクールで学ぶという方法があります。しかし、手話や筆記通訳などがないため、結局、勉強できなかった、というケースもあるといいます。そこで、斉藤さんと学生たちは、自宅にいながら手話で学べる動画配信を始めたのです。プロジェクトに参加する波戸さんは自分の経験から、絶対学校に行くべきだとは考えていません。でも、仲間と一緒に議論し学びあえることの楽しさ、喜びを、大学の4年間で知りました。

    斉藤くるみさん
    「何かありますか。考えたこと、思ったこと、私への質問でもいいです。」

    学生
    「耳が聞こえない子どもたちの教育と、口話の関係はどうなっていくのか。口話を鍛える必要性があるのか、ちょっと疑問に感じているんですけど。」

    学生
    「いまは普通に友だちとも会話ができているし、口話教育は特に必要ないと思います。」

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    波戸海沙さん
    「聴覚障害者によって口話が合う人と、手話のほうが合う人がいます。そのタイプ、場面によって(口話教育を)考えるのがいいと思います。」

    ひとりで悩む時期があっても、また笑顔になれる日が来る。後輩たちには、そのことを知ってほしいと願っています。

    波戸海沙さん
    「お腹がすいたとか、きのう読んだ本がおもしろかったとか、たわいもない話ができるような友だちが、高校のときはほとんどいなかったんです。やっぱりさみしいし、勉強していてもつまらない。いまはコミュニケーションを取れるので、気持ちも明るくなって、積極的に友だちと話せるようになりました。」

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    去年の春から続けてきた、高卒認定試験のための動画制作。まもなく卒業する波戸さんは、下級生にバトンを渡すべく指導にあたっています。

    波戸海沙さん
    「ちょっと待って。やってみてどうだった?」

    下級生
    「もともと手話として作られていない単語が多いから、指文字でやらないといけないんですね。」

    波戸海沙さん
    「正解はないから、自分なりの表現を考えてね。」

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    Q.安心して、あとを任せられそうですか?

    波戸海沙さん
    「はい(彼なら)できると思います。頑張ってね!」

    下級生
    「プレッシャーだなぁ。」

    波戸海沙さん
    「頑張って。」

    大学で学びの喜びを知り、それを後輩に伝えてきた波戸さん。この春、社会人になります。

    新着ダイジェスト