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ろうを生きる 難聴を生きる▽聞こえないを武器に!クレー射撃 阪口季穂※字幕

    クレー射撃で2020年の東京オリンピック出場を目指す阪口季穂さん。競技を始めてわずか半年ですが、その実力を認められ、ろう者では初の強化育成選手に選ばれました。クレー射撃は、時速100キロで飛び出す的を銃で撃ち抜く競技。阪口さんは高い集中力とすぐれた動体視力を武器に、命中率を上げるための練習を日々重ねています。今回は、聴覚に障害のある後藤佑季リポーターが阪口さんを取材、彼女の強さの秘密に迫りました。

    出演者ほか

    【出演】後藤佑希

    番組ダイジェスト

    聞こえないを武器に!クレー射撃 阪口季穂

    あるスポーツで使われているマシーンです。何の競技で使われている物か分かりますか?

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    このマシーンから発射された的を華麗に撃ち落とす!これがクレー射撃です。

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    すごい迫力!

    射撃は、日本ではまだなじみが薄いですが、オリンピックの参加国数は100近くにのぼり、陸上、水泳などと並ぶ、世界的にも人気の競技です。東京オリンピックで、世界から大きな注目を集めることは間違いありません。

    阪口季穂さん。2年後に向け、「強化育成選手」に選ばれています。ろう者としては日本初です。

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    注目されるのは、的を的確に捉える並外れた動体視力と研ぎ澄まされた集中力です。でも実は彼女、競技を始めてわずか半年なんです。その抜群のセンスに協会関係者も舌を巻いています。

    日本クレー射撃協会 コーチ 加藤衛さん
    「彼女の筋の良さにはびっくりしているんです。将来本当に期待できる射手だと思います。」

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    なぜ彼女は短期間で類いまれな才能を開花させたのか?

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    阪口季穂さん
    「聞こえないことを武器にして…」

    後藤佑季リポーター
    「すごい…、かっこいい!」

    今回は、聴覚に障害のあるリポーターの私、後藤佑季が、クレー射撃選手、阪口季穂さんの強さの秘密に迫ります。

    神奈川県にあるクレー射撃専用の競技場です。

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    阪口さんは、半円を描くように移動しながら射撃をおこなう「スキート」という種目の選手。
    定められたポイントは8か所あります。順に移動し、的を狙います。

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    その的が、先ほどのオレンジの円盤、「クレー」と呼ばれます。

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    これが左右の放出機から1個、あるいは連続で2個、時速100キロの速さで飛んできます。場所によって、放出機からの距離も角度も変わります。的が出るタイミングも変わるため、飛び出る瞬間を正確に捉えなければなりません。
    聴者の選手の場合、的が飛び出る際の音と、視覚情報でタイミングを計ります。しかし、阪口さんの頼りは視覚だけです。それでも、この通り!

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    指導するのは、過去にもオリンピアンを育てた名コーチ、加藤衛さん。

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    ろう者の指導は初めてですが、阪口さんのセンスにほれ込み、筆談などで教え込んでいます。
    この日、人生で初めて射撃場に足を運んだ私は、間近で見る競技の迫力に圧倒されました。

    後藤佑季リポーター
    「今日私、初めてクレー射撃を見たんですけど、音の迫力がすごいですね。
    クレー射撃は、ろうだから良いこともあるんですか?」

    阪口季穂さん
    「そうですね。集中力、動体視力が欠かせないので、ろう者にとって、とても向いている競技だと思います。聞こえないことを武器にして、周りの音が聞こえないので、目だけでクレーに集中するところが向いていると思います。」

    後藤佑季リポーター
    「『聞こえないことを武器にする』って言葉がかっこいいなと思いました。」

    普段の阪口さんは、日本体育大学に通う女子大生です。スポーツ文化学部の2年生。

    友人
    「それはキメ顔ね。」

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    友人
    「ドヤ顔?」

    阪口季穂さん
    「キメ顔。」

    聴者の友達には指文字を覚えてもらって、やりとり。楽しいキャンパスライフを送っています。
    さらに、彼女にはもう一つ別の顔が…。

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    わぁ、凛々しい!阪口さんは、剣道歴15年の女性剣士でもあります。実は、クレー射撃での卓越したセンスの秘密は、この剣道にあるんです。
    剣道では、相手の剣先や体の微妙な動きを瞬時に察知し、機先を制します。的を捉える動体視力は、ここで鍛えられたのです。競技のあいだ、常にメンタルを安定させ、最後まで集中力を維持させることも武道と共通しているといいます。
    姉の影響で、4歳から剣道を始めた阪口さん。小学校はろう学校で学びました。中学は、剣道が強い地域の学校に進学。聴者の中に飛び込むのは初めてのことでした。しかし、そこで挫折を味わいます。コミュニケーションがうまくいかず、孤立していってしまったのです。

    後藤佑季リポーター
    「今までは、ろうの世界で生きてきたけど、全然変わって、健聴の世界に入るとき、不安はなかったんですか?」

    阪口季穂さん
    「中1の一年間で自分の健聴の世界に入る覚悟が足りなくて、周りからの理解も浅くて、皆の会話の中に溶け込めない部分もありました。まだ心が未熟で『何?』って聞くこともできなくて、自分を傷つけるだけで、すごく悩みました。」

    結局1年で、ろう学校に転校しましたが、大好きな剣道は続けました。

    「心も体も強くなりたい」

    中学3年生の時、近畿大会で個人優勝!すると剣道の強豪高校から入学の誘いを受けました。

    後藤佑季リポーター
    「高校に入った時に、不安があったと思いますけど、中学校の時の経験を生かして何か工夫はしたんですか?」

    阪口季穂さん
    「メモ帳を持ち歩いて、何か分からない時は書き込んだり、積極的に分からないことは『何?』と聞く勇気を持つことを意識していました。」

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    剣の腕を磨きながら、部員たちに手話を覚えてもらい、徐々に信頼関係を作っていきました。そして、聴者の部員たちをまとめる主将を任されるまでになったのです。

    「耳が聞こえないことは、マイナスではない」

    自らチャレンジしたことで、高校時代の仲間たちと、今でも続く関係を築けたことは阪口さんの自信になっています。

    高校剣道部の同期 小幡綾乃ドゥルミさん
    「本当に剣道が好きだなっていうのが、周りの人も感じられたし、自分が皆をまとめたいという気持ちもあったと思う。それが先生とか、他の生徒にも感じられた所なのかな。それで、主将に選ばれたと思います。」

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    高校剣道部の同期 今西好海さん
    「主将だから一人で頑張る、みたいな感じじゃなくて、ちゃんと皆と一緒に良いチームを作っていこうという主将だったと思います。」

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    阪口季穂さん
    「人をどうしたらまとめることができるのか、自分のためにも良い経験になったと思います。」

    去年(2017年)3月、「オリンピックを目指せるクレー射撃をやってみないか」と、大学の先生から誘いを受けます。見たことも、聞いたこともない競技。でも、阪口さんはこう考えました。

    「新しい世界に飛び込むのは面白そう!」

    挑戦が始まりました。
    今の目標は、来年(2019年)ドイツで開かれるジュニアワールドカップへの出場です。そこで上位を狙うには、25発のうち20発以上の命中が必要です。阪口さんの最高得点は、25発中16発。海外の一流選手との間には、まだ大きな差があります。その上で課題になっているのが、フォームの安定です。

    日本クレー射撃協会 コーチ 加藤衛さん
    (ジェスチャー)「銃口を揺らさず、まっすぐに。」

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    的は、左右から連続で2個飛んでくる場合があります。阪口さんは、この対処が苦手。1発目を撃った反動で、2発目のフォームが崩れてしまうのです。身体への衝撃を受け止めるため、体幹の強化が求められています。

    日本クレー射撃協会 コーチ 加藤衛さん
    (ジェスチャー)「撃つ時には腹をへこませて、姿勢が反らないように。」

    さらに、重さ4キロの銃を抱え、長時間、競技を続けるための筋力アップも欠かせません。瞬時に射撃体勢に入り、正しい姿勢を体に覚え込ませる。ひたすら反復あるのみ。毎日素振り100本!

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    地道に努力を積み重ねれば、オリンピックへの道はきっと開けると信じています。

    後藤佑季リポーター
    「何かモットーにしている言葉ってありますか?」

    阪口季穂さん
    「『昨日は変えられないけど明日は変えられる』というのが、今の自分を支えている言葉です。オリンピックを目指すと言われて、不安よりワクワクした気持ちが先に出ているのが、自分の性格だと思います。」

    聞こえないことを武器に、挑み続ける阪口さん。東京オリンピックで活躍する姿を楽しみにしています!

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