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ろうを生きる 難聴を生きる▽どうする?聞こえない大学生への手話通訳支援※字幕

    この10年で、大学などに通う聴覚障害のある学生の数は1.4倍に増加。しかし一方で、高度な学術に対応できる手話通訳者の数が不足しています。こうした課題に対し、各地ではさまざまな取り組みが始まっています。群馬大学は学生を手話通訳者の卵として育てる授業を新設、さらに大阪大学では手話通訳者を対象にしたスキルアップセミナーを開催。聞こえない学生の学びを支えるにはどうすれば良いのか考えます。

    出演者ほか

    【ゲスト】筑波技術大学准教授…白澤麻弓,【語り】高山久美子

    番組ダイジェスト

    どうする?聞こえない大学生への手話通訳支援

    今、大学や大学院などに進学する聴覚障害のある学生の数が増えています。この10年で1.4倍に伸びました。しかし一方で、聞こえない学生が学ぶために必要な支援は追いついていません。高度な内容を手話通訳できる人材が不足しているのです。

    ろうの大学生
    「より難しいことを学び、研究者を志すろう者や、大学院に通うろう者も増えています。でも、それに対応できる手話通訳者は、まだまだだと感じます。」

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    そんな中、大学の授業などに対応できる手話通訳者の数を増やす。そして、すでにいる通訳者のスキルを高める取り組みが始まっています。
    今回は聞こえない学生をどのように支えていけばよいのか考えます。

    <スタジオ>

    NHKディレクター 長嶋愛
    「『ろうを生きる難聴を生きる』です。今日は取材をしてきた私、長嶋が進行を務めます。ゲストは聴覚障害学生への支援に詳しい、筑波技術大学准教授、白澤さんです。」

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    筑波技術大学 准教授 白澤麻弓さん
    「よろしくお願いします。」

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    長嶋
    「実は私、聴覚障害者でして、白澤さんの声が聞こえません。今日は白澤さんの声を文字に書き起こしてもらい、字幕モニターを見ながら進めます。
    日本学生支援機構が1,170校に行った調査によれば、授業の際の支援を申し出た聴覚・言語障害学生に対し、何らかの支援を行っている学校は358校。しかし授業で手話通訳を実施している学校は56校、15.6%になります。」

    白澤さん
    「同じ調査でノートテイクによる支援を提供している大学は148校、およそ40%にのぼるんです。こうした数字と比べても非常に少ないと思います。聞こえない学生が手話を使わないなどの理由で、手話通訳を申し出ていなかったり、大学側に予算がなく、通訳をつけられない事情もあると思うんですけれども、例え大学に予算があって、通訳を依頼できる状況にあったとしても、それに応えられる人材が少ないというのも非常に大きな問題だと思っています。」

    実情を知るため、ある大学生を取材しました。

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    早稲田大学では学生の希望に応じて、パソコン通訳や手話通訳などの支援をしています。
    社会科学部4年生の加藤昂彦さんです。

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    専門的な授業には必ず手話通訳をつけて学んでいます。

    加藤昂彦さん
    「今日うけた授業は、応用経済学という難しい授業です。抽象的な内容が多いので、パソコン通訳だったら情報をすぐにつかめなかったかもしれません。ディスカッションの場合、パソコン通訳では議論の速さについていけませんが、手話通訳なら、ついていけます。」

    現在の支援の範囲は授業や行事、それに準ずるもの。学外の自主ゼミなどは対象外です。そこでは自分で手話通訳者を手配しましたが、専門用語に慣れていない通訳者から正しい情報が得られなかったこともあったといいます。

    加藤昂彦さん
    「発表者は『聞こえる人と聴覚障害者で差がある』と言ったのに『聴覚障害者の方が評価が高い』と通訳しました。でも統計でいう『差』は意味が違います。『評価が高い』ということではない。通訳者の誤解によって、正しく伝わらないことが多いんです。」

    <スタジオ>

    NHKディレクター 長嶋愛
    「早稲田大学は進んでいる大学で、取材した他大学の学生さんの中には、大学に求めても手話通訳をつけてもらえないという方も多くいました。しかし、なぜ今になってこうした声が顕著になってきてるのかが気になりました。」

    筑波技術大学 准教授 白澤麻弓さん
    「日本の通訳制度の根幹は目の前にいる聞こえない人の生活を支える、人権を守るのが基盤になって広がってきてるんですね。未就学の聞こえない方が病院にも行けない現状があったり、職場や地域の中で権利が守られない状況があって、そこを何とかしたいと支えてきたのが、日本の通訳の発祥だったんですよね。高学歴の聞こえない人たちの問題っていうのは、そこまで手が回らなかったのが実際のところじゃないかと思います。それが今は社会構造が変わって、聞こえない人たちの進学率も上がって、専門分野に進む聞こえない人たちが増えてきましたよね。“生活支援”というよりは“言語の通訳”を純粋に求めて、『話している内容をそのまま受け取りたい』という気持ちが強いと思うんです。こうしたニーズの変化に対して、今の通訳制度が追いついていけていないというのが現状だと思います。」

    長嶋
    「都道府県認定の手話通訳者になるには、厚生労働省認可のカリキュラムにのっとって技術を身につけていく必要があります。養成期間は各自治体によって異なりますが、一つの自治体の例を見てみますと、『手話奉仕員養成講座』に2年、『手話通訳者養成講座』に3年、そして『全国統一試験』に合格した後、更に『県手話通訳者認定試験』。ここまでで最低5年かかる。」

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    白澤さん
    「そうですね。実際のところを見てみると、7・8年とか10年ぐらいかけて資格を取るのも一般的なんですね。なので子育てや仕事がある若い世代にとっては、困難が多いのかなと思います。」

    長嶋
    「より“多く”、かつ大学などで学ぶ学生に対応できる“スキル”を持った人材をどう確保すればよいのか、各地で始まっている取り組みを取材しました。」

    群馬大学では昨年度から、全国に先駆けたプロジェクトをスタートさせました。

    二神麗子さん(学生支援センター助教・手話通訳士)
    「『名前』の時に顎をひいて眉をあげると、『私の名前は何かというと』。」

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    手話通訳者を養成するための授業を新たに設けたのです。ろうの講師も入って教えます。1年生の授業は週3コマ。集中的に基礎を身につけ、手話通訳者になる期間の短縮を目指しています。
    在学中に全国統一試験を受けるための能力を身につけるカリキュラムです。

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    こちらは2年生の授業。ステップアップし、今度は通訳者としての技術を磨きます。

    (音声)
    「私の家には、おじいさん、おばあさん、わたしたち夫婦、子ども、三世代住んでいます。」

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    同時通訳もお手のもの。プロジェクトは学生たちに好評で、休み時間も意欲的に取り組んでいます。

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    学生
    「最初は本当にただ言われたことをやるっていうだけで、手話通訳士や、ろう学校の先生になるという考えはなかったんですけど、やっていくうちに、そういう方面も面白そうだなって興味が出てきました。」

    企画した教育学部教授の金澤貴之さんです。

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    聞こえない学生と同じ、大学生が通訳者として育つことには大きな意味があると考えています。

    金澤貴之さん(群馬大学 教育学部 教授)
    「学生はいつも学術的な言葉に日常的に触れているわけですね。そういう意味で、学生が手話通訳技術を身につけることができれば、ふだん聞き慣れている言語についての通訳なので、いつでも手話を使うという習慣を彼らが日常的に身につけてくれれば、キャンパス全体がユニバーサルデザインというか、そういう環境になるんじゃないか。」

    一方、すでに手話通訳活動をしている人たちのスキルを高め、高度な学術にも対応できるように養成する取り組みも始まっています。

    講師
    「質問をしていきますね。『HFASD』とは何ですか?」

    参加者
    「高機能自閉症スペクトラム障害。」

    学会発表を想定した実践的なセミナー。全国から24人が参加しました。
    講師を務める、ろうの研究者・中野聡子さんです。

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    自身が学会などで頼める手話通訳者を探すのに苦労した経験から、このセミナーを始めました。この日、重点的に行われたのは、事前の準備について。しっかり打ち合わせをしておけば、高度な内容をどう通訳すればよいか、確認することができます。

    参加者
    「表の中で赤と青で囲ってあるところを教えていただけますか?」

    研究者
    「注目して欲しいところで、なおかつ考察で触れる可能性があるところと思ってください。」

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    参加者
    「本当に勉強になりました。自分で考えてやっているのって甘いんですよね。もっとしっかりやらなきゃいけないというのがよくわかりました。」

    中野聡子さん(大阪大学キャンパスライフ健康支援センター 講師)
    「手話通訳者がいるから私たちも研究活動ができる。聞こえる世界の中で対等に研究活動ができるわけです。ですので、手話通訳と一緒に頑張りたいと思っています。」

    <スタジオ>

    NHKディレクター 長嶋愛
    「群馬大学の学生にインタビューした時、私が難聴だって分かると、すぐに手話をつけて自然にインタビューに答えてくださって、こんなにも手話のできる学生がいるって本当に驚きで、今後につながっていく取り組みだと感じました。」

    筑波技術大学 准教授 白澤麻弓さん
    「実は世界的には大学が手話通訳を養成する方法は、非常に一般的なんです。例えばアメリカなどの国では、全国100校以上に手話通訳者養成学科が置かれているのが一般的ですし、ここで育った通訳者が大学の教育現場はもちろん、医療や福祉、就労など、生活のさまざまな場面で活躍して、通訳制度全体を底上げしてくれている状況にあります。」

    長嶋
    「私はふだん手話通訳ではないんですけれども、文字通訳をつけて仕事をしています。通訳者がいるから聞こえる世界で対等に仕事ができる、その力はとても大きいと思っています。若いろうの学生たちが、今後社会に出て力を発揮していくには、通訳者の力が一層必要になるということを、今回の取材で感じました。」

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    白澤さん
    「本当にそうですよね。大学というのは人を育てる場ですから、今、支援を受けている学生たちも、やがてはその道の専門家になって専門分野をリードしたり、あるいは日本を動かしていく人材になる可能性も大いにあると思うんです。それが通訳制度の遅れにより芽が摘まれてしまったり、活躍のチャンスがなくなるというのは、とても残念なことですから、今回のような実践がもっと全国に広がっていくと良いなと思います。」

    新着ダイジェスト