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ろうを生きる 難聴を生きる「ろうの高校球児 憧れの甲子園を目指して」※字幕

    今年100回の節目を迎える、全国高校野球選手権。地区大会に出場した東京都立小平高等学校に、ろう者の選手がいます。西脇将伍さん(17)です。プレイ中、彼には仲間の声が聞こえません。チームメイトと合図を決め、守備の連携ができるように工夫しました。現在3年生の将伍さんにとって、この夏の大会はラストチャンス。レギュラー入りを目指し練習に打ち込みます。果たして甲子園の土を踏めるのか?“最後の夏”を追います。

    出演者ほか

    【語り】高山久美子

    番組ダイジェスト

    ろうの高校球児 憧れの甲子園を目指して

    記念すべき100回を迎えた、全国高校野球選手権。今年(2018年)も6月下旬から各地で甲子園をかけた熱戦が繰り広げられました。
    この節目の大会に挑んだ、ろう者の選手がいます。東京・小平高校3年、西脇将伍さんです。

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    将伍さんが守るのは、守備の要・ショート。連係プレーが多く、チームメイトの声が聞こえないろう者にとっては、特に難しいポジションです。しかし将伍さんは、さまざまな工夫で仲間の信頼を勝ち取り、大好きな野球に打ち込んできました。

    西脇将伍さん
    「ろう者が聴者のなかへ入ると、いろいろな壁を感じることが多いんです。でも野球にはそれがありません。スポーツのいいところです。聞こえないことも気になりません。みんなと一緒に野球に打ち込むことができます。」

    厳しい練習に励み、聴者のチームメイトとレギュラーを争う日々。そこには、ともに夢の舞台を目指す仲間との熱いドラマがありました。将伍さんとチームメイトの最後の夏を追いました。

    強豪ひしめく西東京地区でベスト4の実績もある実力校、小平高校です。

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    西脇将伍さんは、この高3の夏、優れたセンスで50人もの部員の中で厳しいレギュラー争いをしていました。

    野球部 監督 冨永治彦さん
    「捕って投げるとか打つとか、それも非常にすぐれた運動能力を持ってるんですけども。ハンディキャップを将伍君は感じさせない振る舞いっていうんですかね。」

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    野球ではチーム間の細かな伝達が欠かせません。将伍さんは入部以来、スムーズなやり方を模索してきました。

    西脇将伍さん
    「疲れた、疲れた。」

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    西脇将伍さん
    「チームメイトは手話ができないし、僕は口話ができません。でもグラウンドでは、ささいなことでも気づいたら手話で話しかけます。通じなくても、めげません。文字を使った会話もします。ろう者も聴者と対等にやり取りできますからね。気持ちを通わせる方法は、いろいろあるんです。」

    かつては、将伍さんと関わるのを避ける選手もいたといいます。ろう者と接するのは初めてという人が大半だったからです。そんな状況を見て、何とかしなければと思った選手がいます。キャプテンの藤川大河さんです。

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    藤川さんはキャプテンになったとき、「全員が力を合わせて戦うチームにしたい」と考えました。すぐに本を買って、独学で手話を覚えたといいます。

    キャプテン 藤川大河さん
    「指文字くらいはできるようになったよと本人に伝えたら、すごく喜んでくれて。そこから本人だいぶ練習中、明るく楽しそうにプレイしてくれるようになったので、それは本当にうれしかったです。」

    キャプテンの姿を見たチームメイトたちも指文字や手話を覚えていきました。この1年で距離はぐっと縮まり、チーム全体の結束力は格段に高まりました。
    プレーでの約束事も仲間と話し合ってきました。守備をするとき、選手はお互いに声を掛け合います。聞こえない将伍さんとは、どうすれば、うまくプレーできるのか?
    フライが上がったときには、大きく腕を振って、自分が捕るのだと相手に伝えます。こうすることで、お互いに譲り合ってボールを取り損ねることがなくなりました。
    これは外野からのボールを受け、内野手に送球する練習です。キャッチャーが大きくバツを出して、本塁ではなく、2塁へ投げるように指示します。

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    聞こえる選手と聞こえない選手、野球をしていく中で、その壁はなくなっていったのです。

    将伍さんは野球好きだった父親の影響で、小学校1年生のときに野球を始めました。テレビではつらつとプレーする高校生たちを見て、いつしか目標ができました…。

    「自分も甲子園に出場したい!」

    中学までは、私立のろう学校で学んでいましたが、高校は甲子園に出場するチャンスのある一般の学校を迷わず選びました。

    西脇将伍さん
    「ろう者だからと萎縮していたら、自分を理解してもらえません。だから聴者の世界に飛び込もうと思いました。結果はどうあれ、とにかく挑戦しようという気持ちでした。聴者と一緒に学び、成長するために、この学校を選んだんです。」

    夢に向かってひたむきに努力を重ね、去年(2017年)の秋、ついに初めてベンチ入りを果たしました。レギュラーとして、仲間と一緒に甲子園へ…。3年生、最後の夏に挑んでいました。

    地区大会まで2週間あまり。選手たちが集まり、壮行会が開かれました。

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    ベンチ入りメンバーとそれ以外の選手が分かれて座り、互いにエールを送る場です。将伍さんが座るのは、ベンチから外れたメンバーの席。レギュラーには届きませんでした。

    「この2年半、一緒にやってきた仲間が…自分は終わっちゃったけど、最後の夏を迎えるので。最後まで全力サポートしたいと思っている。」

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    西脇将伍さん
    「ベンチ入りできなかったのは残念ですが、これまでの野球生活に悔いはありません。聞こえるかどうかという垣根を越えて、一緒に野球に打ち込めて本当によかったです。自分の持てる力をすべて出して、チームを応援していきます。」

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    ときに競い合い、そして励ましたあってきたチームメイトに思いを託しました。

    7月8日。地区大会、小平高校の初戦です。

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    将伍さんは、グラウンドで補助要員を務めます。小平高校はコンスタントに得点を重ね、4対0で勝利しました。
    続く第2戦は、緊迫した投手戦に。将伍さんはグラウンド脇で、自分の役割を黙々とこなしていました。

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    両チームとも得点できず、0対0のまま試合は延長戦に。仲間の奮起を願い、じっと戦況を見つめる将伍さん。延長10回、小平高校の攻撃。サヨナラホームランで劇的な勝利となりました。
    続く第3戦。相手チームは序盤からヒットを連発し、点差が開いていく厳しい展開になりました。そして、12対4で迎えた8回の裏…。小平高校は無得点に終わり、無念のコールド負けとなりました。

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    将伍さんと、ともに戦ったチームメイトの最後の夏が終わりました。

    西脇将伍さん
    「みんな自分の力を出し切ったと思います。試合には負けましたが、悔いはありません。」

    4日後、選手たちは学校のグラウンドに集まりました。3年生と下級生が対戦する引退試合が行われるのです。
    高校生活の集大成。固い絆で共に戦ってきた仲間と息の合ったプレーを見せます。

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    子どものころからの夢だった甲子園に行くことはできませんでした。しかし将伍さんは、かけがえのないものを手に入れたと感じています。

    西脇将伍さん
    「(野球を)やってきてよかったです。やっていなかったら、どうなっていたでしょう。仲間や監督とも出会えたし、この経験が自分の糧になります。こうした経験ができて、ありがたいと思います。」

    聴者の仲間たちと熱い夏を過ごした将伍さん。将来、今度は、ろう者の野球チームでも活躍したいと考えています。

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