【語り】佐田明,高山久美子
大阪市に、学校帰りの子どもたちが集う場所があります。
生徒実はここ、聞こえない、あるいは聞こえにくい子どもたちのための総合学習塾。去年(2017年)9月に開校したばかりなんです。
授業は、手話や指文字でおこなわれます。
指導スタッフ教える指導スタッフの平均年齢は26歳。若さあふれる塾です。子どもたちとともに成長していこう、そんな思いで指導にあたります。
出来て間もない、聞こえない、聞こえにくい子どもたちが学ぶ場。理想の学び舎を目指して始まった新しい学習塾を追いました。
学習塾の名前はデフアカデミー。未就学児から高校生までを対象にしたこの塾。およそ30人の子どもたちが通っています。塾の方針は、子どもたちに寄り添うこと。そのために、さまざまな配慮をおこなっています。
10人ほどの子どもたちに、3人程度のろう者や聴者のスタッフが教えます。教員免許のある指導スタッフに加えて、言語聴覚士や保育士の資格を持つ人たちが指導。さまざまな知識のある人材が子どもたちの学習の手助けをします。
授業で使う教材もひと工夫。見て覚えやすい、視覚に訴える教材を活用しています。
指導スタッフこちらは社会科の授業です。都道府県の形が描かれたカードを使って、県の名前を覚えようとしています。
指導スタッフさらに、ここでは言語聴覚士による日本語の授業もおこなわれています。
生徒ふだん手話を使うことが多い、ろうや難聴の子どもたち。音声言語である日本語には苦手意識を持つ子もいます。
将来、社会に出るときを見据えて、日本語でのコミュニケーション能力も磨いています。
この塾を運営するのは、NPO法人サイレントボイスです。クラウドファンディングで資金を募り、去年9月、開校にこぎつけました。携わるメンバーには、なみなみならぬ思いがあります。代表の尾中友哉(おなか・ともや)さんは28歳、聴覚障害者の両親のもとで育ちました。この塾を通じて、社会で活躍できる人材を育てたいと考えています。
指導スタッフのリーダー役が宮田翔実(みやた・しょうま)さん、25歳、ろう者です。小学生から地域の学校に通った宮田さん。聞こえない苦労を味わってきたと言います。
スタッフたちが心がけているのは、子どもたちを褒めること。
尾中友哉さんこの日、女子生徒が書いた作文を読んだ尾中さんは…。
尾中友哉さん子どもたちの成長をつぶさに観察し、よいところを褒めながら力を引き出そうとしています。
開校しておよそ半年。子どもたちにも良い変化が出てきました。そのひとり、仙太美羽(せんた・みはね)ちゃん。地域の小学校に通う6年生です。
この塾では、指導するスタッフが子どもたちの日々の様子を日誌につけています。通い始めた当初、算数が苦手だった美羽ちゃん。スタッフが「将来、役に立つよ」と伝えても「思わない!」と突っぱねていました。
そこで塾では、授業のたびに美羽ちゃんに自信をつけさせようと褒めました。すると美羽ちゃん、自ら宿題を始めるように…。
ここで友だちもできました。塾に通うことが、一層楽しくなったそうです。
「通って楽しいことは?」美羽ちゃんは、聞こえる両親と妹の4人家族です。この日、お父さんに学校で受けたテストの結果を見せました。
両親は、難聴の娘との関わり方に悩んだ時期があったといいます。塾からは「美羽ちゃんのよいところを褒めてあげてください」とアドバイスされました。
父 隆志さん最近、美羽ちゃんはある目標を両親に伝えました。それは来年(2019年)中学受験をすること。かつては嫌いだった勉強が楽しくなってきたようです。
この塾に通う中学3年生、ろうの河野颯斗(かわの・はやと)くんです。颯斗くんの将来の夢は、料理人になること。ほかの生徒と同じように日本語の習得が課題の1つです。
颯斗くんが受験を迎える年になり、父親の一洋さんには気がかりなことが…。人より勉強が遅れているのではないかという不安です。
塾では、定期的に保護者面談をおこなっています。この日、面談に出席した一洋さん。聞こえる自分が、受験を控えた息子とどう向き合えばよいのか相談してみました。指導スタッフの岡松さんと宮田さんが話を聞きます。
父 一洋さん宮田さんからは別の意見が出ました。
宮田翔実さん面談を終えて何を感じたのでしょうか。
父 一洋さん指導スタッフと保護者が手を携えて、聞こえない、聞こえにくい子どもの理想の教育を目指すデフアカデミー。子どもたちの背中を後押ししようと挑戦の日々が続きます。