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聞こえない人に「音」を届けたい ー小さな機器にかける技術者ー

    ヘアピンのように髪に着けて使う小さな機器。聞こえない人の生活をサポートするために今開発が進んでいます。音に反応して振動し、音のする方向を聴覚障害者に伝える事が期待されています。例えば将来的には、背後から自動車が近づいてきたとき、聞こえない歩行者に接近を知らせる事も可能になるかもしれません。この機器の生みの親が大手電機メーカーに勤める本多達也さん。聴覚障害者に試作機を使ってもらい、意見を聞きながら開発に生かします。本多さんとその開発に協力する聞こえない人達の姿を追いました。

    出演者ほか

    本多 達也さん
    ナレーション:高山 久美子

    番組ダイジェスト

    聞こえない人に「音」を届けたい〜小さな機器にかける技術者〜

    (男性)「おーい、あ、あ、あ。」



    (女性)「あっ、なんか動いてる。」

    (男性)「おーい、あ、あ、あー。」

    (女性)「すごい震える。」

    髪に着いたこの白い物、何だと思いますか?
    中に小型のマイクが組み込まれていて、周りで鳴った音に反応します。



    小さな音がすると、細かく振動します。
    音が大きくなると、震え方も大きくなります。



    「音のアンテナ」という意味を込めて、「オンテナ」と名付けられたこの機器。
    聞こえない人たちに「音」を伝えるための装置として、いま開発が進んでいます。
    将来的には車が近づいてきたことを振動で知らせることも可能になるそうです。

    この機器の生みの親が、本多達也さん27歳。
    大手電機メーカーの社員です。



    (本多さん)「聴覚障害者の方に音を伝えたいという思いで。
    オンテナを使ってこれまでなかなか得られることのなかった感情とか。
    あとは体験みたいなものができたらな、というふうに思っています。」

    3年後の実用化が目標のこの製品。
    ろう学校の音楽の授業でも活用できないかと、子どもたちに協力をあおいでいます。



    聞こえない人たちの暮らしをサポートしたい。
    ろう者の力を借りて開発を進める、本多さんの日々を追いました。


    聞こえない人に「音」を届けたい~小さな機器にかける技術者~

    この日、開発に当たる電機メーカーの社員4人が集まりました。

    開発リーダーを務める本多さん。
    試作機をろう者に使ってもらい、出た意見を分析し、技術者とともに改良を重ねています。

    この機器に特に期待されていることがあります。
    それは補聴器を使ってもほとんど聞こえない人が、振動を通して音が感じ取れるようになること。

    たとえば背後からオートバイが近づいてきたり、犬がほえたりしても、音が振動に変換されることを目指しています。



    振動に合わせて光ることで、聞こえる人とのコミュニケーションの橋渡しもします。



    (本多さん)「すごくシンプルな装置なんですが、それを使うことでいろいろな音の種類やリズムを感じることができますし、気軽にアクセサリーを着けるような感覚で音を楽しむような文化を作りたい。」

    この日、本多さんはある場所に向かいました。
    訪ねるのは聴覚障害者の家。
    試作機を暮らしの中で使ってもらい、課題を見つけるのが狙いです。
    開発が進むたびに、意見を聞いています。



    協力してくれるのは、聴覚障害のある2人の大学生。
    補聴器を着けていても聞きにくい音があるそうです。

    そのひとつが、お湯が沸いたヤカンの音。
    沸騰したときに鳴る音が聞き取りにくいと感じていました。



    機器を着けてヤカンに近づいてみると……。

    (大学生男子)「感じますね。
    結構離れていても反応しています。」



    (本多さん)「ちなみにここインターホンはどうなっている?」

    (大学生男子)「インターホンは鳴ります。
    でも普通に音が鳴るだけです。」

    (本多さん)「そうなんだ。
    パトライトみたいなのは着いていない?」

    (大学生男子)「あるんですけど高くて。
    買っていないです。」

    インターホンの音には反応するでしょうか?



    (♪ インターホンの音)「♪ ピンポン、♪ ピンポン。」

    (本多さん)「どう?」

    (大学生男子)「(反応)ないですね。」

    (本多さん)「もうちょっと近づいて。」

    (大学生男子)「あ、反応します。」

    (本多さん)「これは感度調整が必要ね。」

    どうも反応が鈍いようです。
    ひとつ課題が見つかりました。

    「障害当事者ではない自分には、つい見過ごしてしまうところがある」。
    そう考える本多さんには、聞こえない人たちの意見は何より参考になります。



    (本多さん)「いろいろアドバイスをいただくときも、もう一緒になってプロジェクトを進めていますし。
    常に僕が思っていることは、障害があるというよりも、スペシャリストだと思っているんですよ。耳が聞こえないぶん。
    そういった方々の知見をいただきながら、僕らはデザインしていくのを大切にして、研究開発を行ってきました。」


    本多さんの歩み

    香川県出身の本多さん。
    大学では情報技術を学んでいました。



    ある日、ろう者に道案内をしたのがきっかけで、手話を習うようになったそうです。
    その後、ろうの友人が増え、日々の生活に役立つことは何かを考えるように。



    (本多さん)「僕が一番最初に出会ったろう者の方っていうのが、実は補聴器も使えない。
    それから骨伝導なんかも使えないっていうような、そういった方だったんですね。
    なので、まずはその方に、身近に出会った方に音を伝えたいっていう思いで研究を始めたっていうのが、きっかけになります。」

    大学4年のとき、聞こえない人をサポートする機器を作り始めました。



    大学を卒業後、精密機器メーカーに就職。
    休みの日に自宅で開発を続けます。
    そして1年後、試作機に興味を示したいまの会社に入りました。




    もうひとつの試み

    オンテナの可能性をさらに広げようと、取り組んでいることがあります。
    スポーツ観戦や音楽鑑賞などが楽しめる機能を付け加えようとしているのです。

    この日はろう者の同僚に参加してもらい、意見を聞くことにしました。



    これは野球場に持ち込んだときの映像です。
    客席に響く応援の声や、太鼓の音にも反応していました。



    (本多さん)「実は、オンテナを使って普通は聴こえない音っていうのを共有する事で、一緒に楽しめるような、そういう場を作りたい。」

    (ろうの社員)「例えば難しいかもしれないんだけれど、バットにセンサーを埋め込んで、それで当たったときに、すごい小気味のいい音がしたら。」

    ほかにも、オンテナが役立つイベントがないか意見を求めます。

    (ろうの社員)「ディズニーランドとか。
    アトラクションって、乗り物に乗ってるじゃない?
    まわりにいろいろあるじゃない。
    でもたまにシーンとなるときがあるのよ。
    そういうときに音楽が鳴ってるんだなとか。」

    (本多さん)「なるほど。逆にシーンを知りたい。」

    周囲が静まりかえる瞬間や、場内を盛り上げる音楽を感じたい。
    その希望をかなえる日が来るまで挑戦の日々が続きます。




    ろう学校での検証

    この日、ろう学校を訪ねる本多さんの姿がありました。

    音楽の授業で機器が活用できるかどうか、試すことにしたのです。



    このろう学校では、いま太鼓について勉強しています。
    しかし音が聞き取りにくいため、全員でうまく合わせることができません。
    太鼓をたたいているうちに、テンポがどんどん速くなってしまうのです。

    そこで本多さんは、新たな機能を付けた試作機を持参しました。
    親機と子機でワンセットになっています。
    親機から信号が出ると、それに合わせて子機が震えます。



    親機をメトロノーム代わりに使い、そのリズムを子機に伝えます。
    親機から信号が出ると、それに合わせて子機が震えます。
    そうすることで、太鼓のテンポを合わせることができると考えました。

    (本多さん)「いやあ、これでリズムを感じてくれたらうれしいな!」

    この日、練習に参加するのは4人の子どもたち。
    みな補聴器や人工内耳を使っていますが、いままで太鼓のテンポを合わせるのに苦労していました。

    (本多さん)「みなさんおはようございます。」

    (子どもたち)「おはようございます!」



    (本多さん)「元気だなぁ(笑)」

    好奇心旺盛な子どもたち。
    新しい機器に、興味津々です。



    まず、先生が親機を通してリズムを伝えます。

    (先生)「じゃあ先生がこれをやるから、それに合わせて手をたたいて。」



    リズムの振動に合わせて手拍子します。



    いよいよ本番です。
    今度は親機から送られたリズムに合わせて太鼓をたたきます。



    (本多さん)「すごい!」

    (先生)「いいね!たたいてみるよ。」

    ぴったり、合っていますね。



    (先生)「みんなすごいね。
    きょう初めてだよね。
    初めてだけどちゃんと感じて、合わせることができた。」

    (女の子)「これを着けたら簡単にタイミングをつかめた。」

    (女の子)「本多先生に、ありがとうございましたと言いましょう。
    せーの、」

    (子どもたち)「ありがとうございました!」



    (本多さん)「ありがとうございました。
    開発頑張ります。」

    (本多さん)「例えばライブ行く時にも、なんかリズムが分からないから、なかなかライブに行く事が出来ないっていうような方にも、このオンテナがあって、僕等も一緒になって楽しめるみたいな。
    なんかそういう声を聞くと僕も勇気をいただけますし、そういう笑顔をですね、世界中の人達に届けていきたいっていうのが最終的な目標です。」

    3年後の2020年に、オンテナの実用化を目指したいという本多さん。
    聞こえない人たちに音を伝えるために、努力と研さんの日々が続きます。



    (おわり)

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