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静かで、にぎやかな学校【前編】 ―手話で学ぶ明晴学園―

    東京・品川区にある私立の明晴学園は、手話を第一言語として位置づける日本唯一のろう学校です。幼稚部から中学部まで57人の子ども達が通うこの学校では、友達との会話も難しい授業も全て手話。1990年代まで、手話は日本語獲得の邪魔になるとされ、多くのろう学校で禁じられてきました。そんな中、「手話で学べる学校を」と当事者や保護者が声をあげ、9年前に開校しました。子どもたちの手話だけの世界をみつめます。

    出演者ほか

    明晴学園のみなさん
    ナレーション:高山 久美子

    番組ダイジェスト

    「静かでにぎやかな学校【前編】~手話で学ぶ明晴学園~」

    この学校はいつも静かで、にぎやか。



    新学期の初日。

    (男子)「やばい!早く席に着け。」

    5、6年生が気にしていたのは、誰が新しい担任になるのか。

    (小野先生)「おはようございます。」



    (女子①)「やっぱり。」

    (女子②)「やだ~、6年間~。」

    (女子①)「6年間同じだなんてひどい。」

    実はここ、耳の聞こえない子ども達が通う「明晴学園」。
    全国でもちょっと珍しいろう学校です。



    日本語ではなく、手話を第一言語と位置づけているのは、この学校だけ。
    通っているのは、幼稚部、小学部、中学部、あわせて57人の子ども達。

    子ども達が自由に使える言葉をまず身につけることが、豊かな成長に欠かせないと考えています。

    (生徒会長)「一緒に頑張っていきましょう。
    伝えたいことがあります。
    『楽しむ』という言葉。
    中3になった今やっと気づいたのです。
    『楽しむ』ということは与えられるものではなく、自分で見つけ出すものだと。」



    (女子)「親友みたいに仲の良い子だと、ケンカしても、すぐに仲直りができます。」



    言葉は人を作る土台。
    手話を生きる子ども達です。

    (小学生の子どもたち)「私たちの学校を紹介します。皆さん見てください~!」

    明晴学園は、9年前、教育特区に認定され、誕生した学校です。
    その特徴は、全ての授業が手話で行われること。

    (先生)「『I』は私。『Like』は?
    そう『好き』。で、これが『ピザ』。」



    (中1男子)「ピザ。」

    (中1男子)「好き。」

    (中1男子)「ピザが好き。」

    先生も半分以上が、ろう者です。
    英語も数学も、全て手話で行われます。

    (先生)「君は寿司が好きなんだよね。
    寿司のつづりは分かる?スシだから・・・」



    (男子)「S・・・。」

    (先生)「そう、S。」

    (男子)「S。」

    (先生)「U。」

    (男子)「U。」

    この学校ならではの授業があるときいて、4年生の教室をたずねました。

    「手話科」。
    子ども達の「第一言語」を育むための授業です。



    (森田先生)「冬眠していたカエルに、待ちに待った春が来たんだ。」



    みんなで勉強していたのは、4年生の国語の教科書にのっている詩、「春のうた」。

    (森田先生)「この『ほっ』と、この『ほっ』は同じ。
    まぶしさを感じて喜んでいる感じだよね。
    カエルはどんな気持ちなんだろう?
    どうして蛙は嬉しいの?」

    (女子)「冬の間ずっと土の中で何もなくてとても退屈だった。
    やっと春になって、『ほっ』とした。
    いっちば~~ん最初の日。
    土の中から出てまぶしい~~嬉しい~~。」

    続いて、「かぜはそよそよ」。
    これは手話でどう表すのでしょうか?

    (女子)「風を浴びて心地よく鳴き出す。」



    最後にそれぞれ思い描いた詩の世界を手話で発表します。

    (女子)「そろそろ外に出てもいいかな~出てみよう!」

    (詩の世界を表現する児童たち)

    (森田先生)「土から蛙が出てくる表現はすごい。
    先生もまねしていい?」

    (男子)「いいよ。」

    (森田先生)「先生より上手いね。」

    (男子)「イエイ♪」

    手話を大切に育む明晴学園。
    でも、全国86ある ろう学校のうち、手話を第一言語にして学ぶ学校はここだけです。

    長い間、日本のろう学校では発音を練習し、口の形を読み取る「口話(こうわ)教育」が主流でした。

    日本語を獲得する妨げになるとして、手話を禁止していたろう学校も多くありました。
    しかし、音を聞いたことのない子どもが、口の形を見て言葉を獲得することは、容易ではありません。

    (校長・榧(かや) 陽子さん)「昔(の ろう教育)は、日本語の獲得だけを目標にしていました。
    でも、全てのろうの子どもが、日本語をスムーズに獲得できるわけではありません。個人差があります。
    中には日本語を十分に獲得できた人もいますが、日本語も手話もどちらも不十分になってしまう人もいます。
    手話なら聴力に関係なくみんな平等に獲得できます。」



    ろうの子どもが、自由に使える手話で学べる学校を作りたい。
    当事者や、家族の思いをうけ、明晴学園は誕生しました。

    子ども達が身につけるのは、ろう者独自の言葉、「日本手話」。
    これは、日本語の文章に手話をあてはめる「日本語対応手話」とは、全く違うものです。

    (女子)「 『 私の名前はアヤカです』
    『私の名前』という時に、首を前に出して間を作ります。」

    ゆっくり見てみると・・・。

    「私の名前『は』」



    うなずきが入って、「私の名前『は』」になり、

    「あやか『です』。」

    もう一度、うなずいて「です」。
    日本手話では、うなずきや首の動きも文法の一部になります。

    子ども達の使う手話は、「身振り」ではなく、れっきとした「言語」です。

    (保護者)「(一番嬉しいことは)子どもが明晴学園はすごく楽しいって言ってくれること。
    また、たくさん話してくれることです。
    (前の ろう学校のときは)しゃべりかけてこないし言葉もなかった。
    明晴学園に入ってから止められないくらいおしゃべりになりました。
    ものすごくお話をしてくれます。」

    学校がもう1つ大切にしているのは、子ども達が深く考えること。
    6月。小学部では、あることが問題になっていました。

    (女子)「忘れ物は?ないない・・・。
    忘れ物をした人は今後注意して下さい。」



    4月に話し合って決めた「忘れ物をなくそう」という目標。
    児童会・会長の成塚元香(なりづかはるか)さんは、忘れ物がなくならないことに悩んでいました。

    そこで始めたのが、忘れ物をした人の、名前のチェック。
    少しでも減らしたいと、使命感に燃えています。

    (成塚さん)「忘れ物ゼロを目指しています。
    チェックを続けなくてはいけなかったり、会議が多いことも大変です。
    頻繁に会議があるので疲れます。
    会長としてまた先輩として、やりがいというか・・・みんなを引っ張っていくまとめていく面白さがあります。」



    6月末。小学部全員が集まる「子ども議会」が開かれました。
    議題は「忘れ物チェックは効果があるのかどうか」。

    (成塚さん)「3.4年生はチェック表のおかげで忘れ物が減ったと報告がありました。
    皆さんはどう思いますか?
    意見のある人いますか?ないですか?
    3,4年生で忘れ物をした人~?
    はっきり手を挙げて、はっきりあげて。
    なぜ忘れ物をするんですか?」



    3年生がみんなの気持ちを代弁しました。

    (3年生)「ちゃんと準備しないから。
    明日の宿題とか、持ち物を確認しないで適当に準備するから忘れちゃう。」

    (成塚さん)「きちんと準備すればいいじゃない。
    何で適当にしちゃうの?」

    (3年生)「家で準備してると面倒になって、適当にバッグに詰めちゃうから、家に置き忘れるんだと思う。」

    (成塚さん)「5月の議会でも同じ話をしてみんなうなずいてたよね。
    でも結局変わらないじゃない。
    なんで?本当にこれでいいの?」

    (6年生)「(チェックは)続けた方がいいと思います。
    名前を出されると恥ずかしくて、忘れ物が減る人もいると思うからです。」



    (成塚さん)「なるほど。
    つまり、みんなの意見としてはチェック表は続けた方がいいっていうことですね。
    改めて聞きます。
    忘れ物チェックは続けるということでいいですか?」

    (うなずく児童たち)



    言葉が通じ合うからこそ、自分達で話し合い、考えることができる。
    明晴学園が目指す、子ども達の姿です。

    (成塚さん)「(学校が)すごく好きです。
    もしここがなければ、今の自分はなかったと思う。
    そして、ろう者の世界がなくなって、聴者の世界がどんどんどん大きくなっていってたんじゃないかと思うんです。
    なので、明晴学園ができてくれて本当に良かったです。」

    (おわり)

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