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絵日記が育む家族のことば

    今年出版され話題を呼んでいる「宿題の絵日記帳」。難聴の少女、麗ちゃんの成長をつづった絵日記をまとめた本です。日常の小さなハプニングがユーモラスに描かれています。絵日記はかつて麗ちゃんが通っていたろう学校から家族に出された宿題。親が描いた絵を見て話すことでことばを習得するのが目的です。今も幅広く使われていて、通信教育で描き方を教え始めた人もいます。絵日記はどのようにことばを育むのか見つめました。

    出演者ほか

    今井 信吾さん・麗さん親子(「宿題の絵日記帳」の作者)
    牧野 友香子さん(難聴理解のサイトを運営)
    佐々木さん一家(絵日記に取り組む)
    ナレーション:高山 久美子

    番組ダイジェスト

    絵日記が育む家族のことば

    今年出版された一冊の本が話題を呼んでいます。
    「宿題の絵日記帳」。



    主人公は難聴の少女、麗(うらら)ちゃん。
    「おしっこもらした。ごめんなさい。」



    女の子のささいな日常がユーモアたっぷりに描かれています。
    麗ちゃんの成長をつづった絵日記を本にまとめました。



    絵日記は難聴の子どものことばを育むために使われてきました。
    材料となる出来事を声に出して伝えたり、絵日記を見ながら口で説明したり…。

    (子ども)「あ!カメレオンいろいろ色変わってる。」



    ことばを獲得した難聴の女性はこう語ります。

    (女性)「衝撃的で、今でも覚えているんですけど。
    こういう風に『腐ってる』という単語とか知らなかったので。
    『この黒くなっているのは “ 腐っている ” って言うんだよ』みたいな風に教えてもらって。
    『あ、これ腐っているんだ!』みたいな感じで、すごいことばを覚えたんですね。」



    絵日記はどのように難聴の子どもたちのことばを育むのか?
    家族の日常から見つめます。


    絵日記が育む家族のことば

    「宿題の絵日記帳」の作者を訪ねました。
    画家の今井 信吾(いまい しんご)さんです。



    信吾さんは次女の麗(うらら)さんが2歳から6歳までの日々を描きました。



    絵日記は30年以上たった今でも大切に保管されています。



    (信吾さん)「これなんか最初のあれですかね。」

    (麗さん)「それが一番最初の。」

    (信吾さん)「これ横開きですもんね。お父さん肩車とか。」



    絵日記は麗さんが通っていたろう学校から、子どもだけでなく家族へ出された宿題でした。
    この絵を題材に先生と会話をすることで、麗さんはことばの基礎を身につけました。

    (麗さん)「何度見ても笑えるのは、お姉ちゃんが水ぼうそうになったところかな。」

    (信吾さん)「あれはちょっとお姉ちゃんかわいそうだな(笑)」

    (麗さん)「どこ。」

    (信吾さん)「この顔なんか、ブツブツで。あまりにリアル過ぎて。」

    (麗さん)「麗が水ぼうそうにかかってなくて、けろっとしてるの。
    このコントラストが面白い。」



    (信吾さん)「風疹。風疹になったって。」

    (麗さん)「風疹か。水ぼうそうじゃなくて、風疹か。」

    麗さんが高度の難聴だと分かったのは生後3ヶ月。



    その後すぐにろう学校で口話を学び始めます。
    信吾さんが題材に選んだのは、家族のちょっとしたハプニングでした。



    (信吾さん)「一日のうちで一番目立った、家族の記憶に残る事はなにかなっていうのはちょっと感じたかもしれません。
    家族で旅行の事をもっと書けば、もっと面白いのあったんだけどね。」

    (麗さん)「いや、これが面白いんだよ。」

    (信吾さん)「そうかな。」

    (麗さん)「家の中のね、何気ないところを取り上げたところがいいと思う。」

    (信吾さん)「そっかな(笑)」

    (麗さん)「本当に。」

    (信吾さん)「まぁ、あなたが話しすんのでも、家の中の事のほうが話の材料になるんじゃないかね。」

    (麗さん)「そうだね。」

    (信吾さん)「知らない土地の話よりもね。」

    絵日記を通して麗さんが新しいことばを発する度に、家族全員で大騒ぎしました。



    (信吾さん)「ことばってそんなに順序立ててこの段階では何を覚えてっていうんじゃなくて、いきなり親のことばが入ってきたり。
    すごくそこら辺はね、おっかしいとこあるんです。
    一気に飛び越して覚えるような、話すこともあったりね。
    それはやっぱり家庭によったり個性によったりして違うところがいいんじゃないですかね。」

    (ディレクター)「お邪魔してます。」



    (子ども)「こんにちは。」

    (麗さん)「やっと帰ってきた。」

    (信吾さん)「遅いぞ。」

    今、麗さんは3人の子どもを育てる母親になりました。
    絵日記を改めて読み返し育児の参考にしています。
    たとえばこちら。

    (麗さん)「このころ私アトピーが酷くて。
    寝る前に、かゆいとこをかいてってお願いをするのが。
    お母さんがもう面倒くさくて、持ってるヘアブラシで顔も見ないでやるっていう。
    ブラッシングしてくれる。」



    (信吾さん)「でも面白いことが多かった。面白がってたよね。」

    両親の肩肘張らない子育ての姿。
    時を越え、麗さんにつながっています。

    (麗さん)「子育てをしている同世代のお父さんお母さんが、子育てがすごい今大変なんだけど。
    自分たちも自分のお父さんお母さんに、こうやって同じように子育てに奮闘して育ててもらった時代があったんだよって、気楽にいこうよって伝えたいなと思います。」

    絵日記を難聴の子どもたちの教育に役立てようとしている女性がいます。
    牧野 友香子(まきの ゆかこ)さんです。



    難聴の当事者として、聞こえない子どもたちへの通信教育などを行っています。
    その取り組みの一つが絵日記のかき方のこつなどを紹介することです。



    牧野さん自身、母親のかいた絵日記を通じてさまざまなことばを覚えていきました。
    ある日の絵日記です。

    「おかあさんのかさに ゆかちゃんのかさを ぶらさげました。」



    (牧野さん)「これは『ぶら下がってる』だよって、見て教えてもらったら『あぁあぁ』って。
    『これぶら下がってるなんだ』ってやっぱりすんなり覚えやすいので。
    やっぱり絵日記の方が実際に体験したことなので、すごく覚えやすかったなって思っていますね。」

    母、幸子(ゆきこ)さんとも自然に会話ができるようになっていきました。
    当時の音声が残っています。



    (母)「夕焼け。」



    (牧野さん)「夕焼け。見てたね。」

    (母)「見てたね。ほら。」

    (牧野さん)「あかーい。」

    (母)「赤くてきれいかったね。」

    次第に気持ちもことばで伝えられるようになったといいます。

    友達のゆりちゃんとけんかした日の絵日記。
    母親はけんかの理由について優しく問いかけました。



    (牧野さん)「ゆりちゃんの気持ちとかを私は全く考えてないから、自分のことをバーッて言っただけなので。
    母は『ゆりちゃんもこんな気持だったんだよ。』みたいなことをあとで教えてくれましたね。
    この時はこんな気持ちだったんだよっていう風に。
    母に教えてもらうことで、すごい納得っていうか『なるほど』みたいな感じで知ることがいっぱいできましたね。」

    牧野さんの勧めで絵日記をかき始めた家族がいます。
    福島県いわき市に住む佐々木 泰成(ささき たいせい)君、4歳。



    母の円さんです。



    泰成君は生後間もなく難聴だと分かりました。
    しかし、円さんは近くに相談できる人もなく、ことばを教え込むことに必死でした。



    (円さん)「絵日記ではない違うこと。
    文法関係をやっていたんですけど、それを結構泣かせながらやっている時あって。
    感情的になるというか。」

    (ディレクター)「お母さん自身が?」

    (円さん)「そうそうそうそう。
    真剣にやってくれないと、『なんでやらないの』みたいな。
    『覚えられないでしょ』みたいな感じになっちゃうので、そこは反省したところで。」

    今、絵日記をかくのは主に父親の泰岳(やすたけ)さんの役割です。



    絵日記を始めてから、泰成君との会話の量は少しずつ増えてきていると言います。



    (泰岳さん)「泰成の前では一等賞は誰だったの?」

    (泰成君)「ゆのちゃん。」

    (泰岳さん)「ゆのちゃんが一等賞だったの。今日。」

    (泰成君)「なんで?」

    (泰岳さん)「体が軽いのかな?」

    (泰成君)「大きいから。」

    しかし、両親にはいまだ心配なことがありました。

    (泰岳さん)「8月21日…」



    ある日の絵日記です。
    友達とうさぎの人形の取り合いになり、泰成君が泣いたことが描かれています。
    ところが、その理由を話してくれませんでした。

    (泰岳さん)「自分に都合が悪いことは、あまり話をしてくれないですね。」

    (円さん)「やっぱり自分で表現する力がちょっと弱いので、そこは心配ですね。
    あと聞く力もやっぱり弱いので、その辺から上手にコミュニケーションが取れなかったり、どうしてもトラブルのもととなることを発生してしまうこともあるのかなっていうのは懸念してます。」

    この日、家族で牧野さんを訪ねました。

    (牧野さん)「こんにちは。お待ちしてました。」



    絵日記のかき方について相談するためです。

    (牧野さん)「泰成君、ディズニーランドに行ったときは何で行った?」



    まず牧野さん、テーマパークに行った日のことを一つひとつ泰成君から聞き出します。

    (牧野さん)「車で行きました。ディズニーランドに着きました。
    その次は何したっけ?これこれこれこれ。」

    (泰成君)「チケット渡した。」

    (牧野さん)「チケット渡したね。」

    絵を時系列で描くことで、物事を順序立てて話す力が養われるといいます。



    (泰成君)「コーヒーカップ乗った。」

    (牧野さん)「あんまり文章は書いてないんですか?
    でもひらがな覚えてきましたね、ちょっとずつ。」

    (円さん)「そうですね。文章を書いてなくて。
    本当に絵しか描いてないんだよね。」

    次に指摘したのは、絵日記に添える文章を大切にすること。

    (牧野さん)「『運動会の、練習を、 “ した ” 』っていう活用形とかやっぱり覚えられるので。
    ひらがなを今ちょっと分かってきてると思うので。
    なるべく文字に単語とか、あと助詞、助動詞を書いてほしいので。
    2文くらいは書いてほしいなって思うんですね。」

    単語だけでなく文章を書くことで、助詞や助動詞を身につけられるといいます。



    泰成君が自分の気持ちを素直に話せるようになるには、どうすればよいのか?
    両親は牧野さんにたずねました。

    (牧野さん)「泰成君の気持ちを受け止めてあげてほしいなって思うんですよね。
    『取られて嫌だったね』とか。『壊されて悲しかったね』とか。
    共感って言うか、『嫌だったね』とか、そういったことをなるべく一回受け止めてあげないと、やっぱりなかなか次のステップにいけないので。
    まずは受け止めてあげてほしいなって思うんですね。」

    ことばにできない気持ちを親がしっかり受け止める。
    それがアドバイスでした。

    翌日、佐々木さん一家は早速絵日記をかき始めました。
    牧野さんからのアドバイスを実践。
    文章を書くことを心がけました。



    (泰岳さん)「泰成君は?」

    (泰成君)「たいせいとみのりちゃん。」

    (泰岳さん)「泰成君は?」

    (泰成君)「みのりちゃん、」

    (泰岳さん)「みのりちゃんへ、」

    (泰成君)「バトンを渡しました。」

    少しずつ形になり始めた泰成君のことば。
    家族みんなで育んでいきます。



    (円さん)「絵日記とかは、(泰成君は)結構好きというか。
    なので、気持ちを吐き出したりとか。
    色んなあったことを表現できる場に、楽しい場にしていきたいなってこれから思います。」

    (おわり)

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