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静かでうるさい居酒屋

    ろう者に人気の串揚げ屋がある。店では盛んに手話が飛び交っており大盛況。聞こえる人たちの間で、コミュニケーションに苦労しながら、筆談をして働くろうのサラリーマンなど、不自由を強いられている人たちが集まってくる。この店は、孤独を感じやすいろう者にとって、自由に会話が出来る、かけがえのない場所なのだ。実はこの店、聞こえる人も、多くやってくる。みな、何を求めて、やってくるのか。年末、店の客たちに密着した。

    出演者ほか

    居酒屋の店長:吉岡 富佐男(ふさお)さん

    番組ダイジェスト

    静かでうるさい居酒屋

    (ナレーション:原田 泰造さん(タレント))

    (夜の東京・大久保界隈を歩く)

    いや~、今日も1日、頑張った!ちょっと一杯やってくか?
    ここなんかどうだろ?あれっ?
    お客は、いっぱいいるのに、やけに静かだな…。

    (カウンターに座り注文する)

    大将!生1つ!



    (手話で答える店長)
    私は聞こえないんだ。
    飲み物の注文かな?あなた聞こえる人?生ビールだね。

    ・・・伝わった、かな・・・?
    よく見ると、ほかのお客も、さかんに手を動かしてる…。
    これって…?



    あっ、手話か!
    はぁ・・・手話をする人が集まる店なんだ…。

    (ろうの会社員1)
    ここで金曜によく会うよね。

    (ろうの会社員2)
    いつも会うんですよ。

    (ろうの会社員1)
    おまえには飽きたと言われるんですよ。

    なるほど、常連さんか。
    こちらも?

    (若い男性)
    違います。

    (ろうの会社員)
    今日初めて会いました。

    へえ~。初めてなのに、なんか昔なじみみたいだ。



    (ろうの男性)
    知り合いもいれば初めて会う人もいるんだけれど。
    とにかくここはみんなで楽しめればいいから。
    じゃあ一緒に飲もうか!乾杯!

    なんだか温かい店だなあ。
    ちょっと通ってみるか・・・。


    ろうの店長が開いた手話が飛び交う居酒屋

    こんばんは。原田泰造です。
    今日、僕が紹介するのは、こちらのお店。
    居酒屋と言えば、騒々しいのが当たり前の僕にとって、とても新鮮な場所でした。



    店の主は、ろう者の吉岡富佐男さん。
    16年前に、脱サラをして始めました。
    接客をする、妻のかつ江さんも耳が聞こえません。
    耳が聞こえる息子の建太さんと家族3人で、店を切り盛りしています。



    看板メニューは、この串揚げ。
    衣のパン粉は手でほぐし、多い日は200本揚げることも!
    いや~うまそう!

    (串揚げを食べる客)
    うまい!

    おいしい食事に手話での会話。
    いつもたくさんの人で大盛り上がり。
    それにしても・・・誰と誰がしゃべってんの?

    (席の離れた人と手話で話すお客さんたち)



    よ~く見ていると、結構、離れた人とも会話をしている…。
    手話は、手の動きと顔の表情が見えれば会話ができる。
    いやぁ、これ便利かも!?

    (ろうの男性)
    手話だとあちこちで何を話しているかが、自然と目に入ってきます。
    だから周りの客の雰囲気もつかめるのが、他の店とは違うんです。
    とても心安らぎます。

    聞こえる・聞こえない関係なく交流が生まれる店

    (夕方の大久保駅)
    (店でお通しを運ぶ女将さん)

    女将さん、また来ちゃったんだけど…おっ、もう先客?

    (女性がカウンター席に座っている)

    週1回、1人で来るという常連さん。



    以前、コールセンターの仕事に疲れ、新しい趣味を見つけたくて、手話を始めたんだって。

    (女性)
    一人で来たほうが色んな人が手話で話し掛けて来てくれて勉強になって。
    ちょっとずつ手話も上手くなってくかなとは、そう期待してるんですけど。



    続いてやってきたのは、ろうの男性。
    ここで、仕事帰りに一杯やるのが、至福の時間なんだとか…。

    (ろうの男性)
    こんばんは。

    (女性)
    こんばんは。

    (ろうの男性)
    お疲れ様です。

    おっ、話しかけたぞ!
    何の話が始まるんだろう?

    (ろうの男性)
    正月は家にいるの?遊びに行くの?

    (女性)
    いいえ、家にいます。寒いのが嫌だから。

    (ろうの男性)
    前にろうの仲間と車で旅行に行ったけど温泉に男湯・女湯がなくて混浴だった。
    温泉、一緒に行く?夫婦として一緒に行く?

    まさか、ナンパ?!

    (女性)
    お断りよ!お断りよ!

    (ろうの男性)
    いいじゃない、一緒に~。

    お父さん!気持ちはわかるけど、そのへんで!
    でも、口説かれながら、よく頑張るね。

    (女性)
    震災の時に、たまたま当時の職場の近くで建物から避難した時に、
    偶然近くに聴こえないろうのご夫婦がいらっしゃって。
    で、地震の震度の話しとかをしたら喜んでもらえて。
    必要とされてる時に、ちょっと何か出来たら多分自分が嬉しいっていうのも一番あるんですけど。

    もう、頼むよ!お父さん!

    (ろうの男性)
    いやいやいや冗談!冗談ですよ!

    でも、若い子とおしゃべりできて、嬉しそうですね!

    (ろうの男性)
    そうですね!

    (店長・吉岡富佐男さん)
    ろう者だけが集まって手話でわかりあっても、世界が広まらない。
    手話を知らない人にもたくさん来てもらって「なんで手話で話してるんだ?
    あ、店長が聞こえないから手話をやってるんだ」とか、聞こえる聞こえない関係なく、
    興味をもってもらいたい、手話が広がってほしいと思って始めた。

    (「チューハイ」という手話を教えているサラリーマン)

    常連さんに歓迎されているのは、聞こえるカップルの大学生。
    特別支援学校の先生を目指しているんだって。

    (常連1)
    今まで坊主にしたことありますか?

    (男子学生)
    あります。

    (常連1)
    高校の時ですか?

    (男子学生)
    中学生の時に。

    (常連1)
    スポーツで?

    (男子学生)
    スポーツで。野球。レフト。

    (果物でフライキャッチのマネをする常連客。隣の客が突っ込む。)

    (常連2)
    違う違う。エラーして落としたボールを追いかける・・・。

    (笑う大学生たち)

    (女子大生)
    来るたびに色んな人と出会って色んな手話を教えていただけるので毎回違った楽しみがあって、大好きです。

    友達の輪が広がりますね?

    (常連1)
    人の輪が広がりました。聾の人よりも聞こえる人との新しい出会いが多いです。
    聞こえる人、手話が出来ない人も、ここで話すことで、手話が上達していくのを見ると私も嬉しくなります。

    (11時55分を指す時計)

    閉店時間はすぎたはずの店内に一人、男性が残っていた。

    (ろうの会社員)
    いつも閉店ぎりぎりまで飲んでいます。
    お店には、いつも迷惑をかけてます。

    (富佐男さんと話すろうの会社員)

    (会社員)
    彼女と別れたのはいつだったかなあ?

    (富佐男)
    5,6年前かなあ?よく覚えてないけど。

    長い付き合いなんですねぇ。
    この店、なくなったら困りますね。

    (会社員)
    なくなったら勿論困ります。
    でも息子さんがいるので、しばらくは大丈夫でしょう。
    だよね!頑張って!



    (息子・建太さん)
    継ぎたいです、継ぎたいです。
    常連さんもたくさんいるんで、そこを守っていきたいなという感じで。

    いやぁ、なんか、いろんな絆を感じるよねぇ…。

    (ボトルに手を伸ばす会社員)

    えっ、まだ飲む?
    建太さんに迷惑かけないでね。


    外国のお客さんが来てもノープロブレム!

    この日は、年内最終営業日。店は満杯。
    そして、いつも通り、静かで賑やか!
    ラストオーダー寸前、日本人につれられて外国人がやってきた!
    どうするの?おもてなし。



    女将さんが差し出したのは、なんと英語のメニュー!

    (手話で注文する3人)

    あれ?手話?
    なんだ、ろうの人か。
    待てよ、手話って世界共通なの?
    ん~、通じ合ってるなぁ。
    富佐男さん、どういうこと?

    (富佐男)
    イタリア・フランス・オランダなどの手話はわからないけど・・・。

    (男性客)
    世界の手話は違うしね・・・。

    (富佐男)
    僕は大丈夫。やっぱり気持ちが伝われば、分かるんだよ。
    ろう者が一生懸命やればすぐ分かってくれる。大丈夫。

    ところで、どういう知り合い?

    (日本人のろう者)
    新宿でたまたま2人を見かけました。
    2人が手話で話しているのを見て話しかけたのがきっかけです。
    それからここに連れてきました。
    たった2時間前のことです。

    マジで!?
    君たち、この日本人、怪しいって思わなかったの?

    (外国の女性)
    ろう者にとってはあたりまえ。ろう同士が会ったら、
    初対面でもすぐ気持ちが通じて仲良くなれるんです。

    男性はデンマーク人。
    女性はフィンランド人で、2人は恋人。
    彼女の30歳のお祝いで、2週間、京都や広島などを観光したんだって。

    (フィンランド人)
    日本はすごくいい!引っ越したいぐらい好き。

    ほんと?嬉しいな~。



    (フィンランド人)
    日本は本当にいい人ばかりだし、見所もいっぱいだし、
    ろう者と聴者が交流できていてステキ。


    (談笑している会社員の女性)

    あっ、こないだ会った常連さん。
    前回とは、ちょっと違う思いを打ち明けてくれました。

    (女性)
    もし必要とされた時に期待以上の対応を出来たら嬉しいなと思って始めた手話だけれど、
    ここにいっぱい来るようになってからはそんな事ふっとんじゃって。
    聞こえないとか聞こえるとか関係なくなってしまって。
    もう人対人みたいな。

    店じまいの時間。
    常連さんが、やりたいことがあるとカウンターのなかに…。

    (富佐男さんの横に立つ常連客)

    (常連客)
    今夜たくさん集まってくれてありがとう。
    みなさんも富佐男もがんばれるように、来年の皆さんのご多幸を願って。
    1本締め一緒にやりましょう。

    (店にいる客全員で1本締め)

    年の瀬に通った、手話が飛び交う居酒屋。

    (富佐男さん一家に挨拶をして、店を出る客たち)



    ここで出会った人達とは、「国」も「言葉」も「人生」も違ったけど、
    同じひとときを一緒に楽しんだ。

    (店の前で見送っている夫婦)

    富佐男さん、奥さん!
    また寄らせてもらうね!

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