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聞こえを良くしたい ー難聴の補聴器職人ー

    横浜に丁寧な仕事ぶりが評判の補聴器店があります。店主の大槻公孝さん、70歳。かつて、通信会社のエンジニアとして働いていました。そこで培った知識と技術が生かされています。実は、大槻さん自身も難聴です。長年、補聴器選びに苦労してきました。その経験から当事者目線が必要だと、4年前に店を始めました。補聴器の購入に不安を抱くお客に、自らの経験を交えて説明をする大槻さん。難聴の補聴器職人の日々を見つめます。

    出演者ほか

    大槻 公孝さん (補聴器店 店主)
    大槻 みどりさん(大槻さんの妻)
    柴谷 文子さん (大槻さんのお店のお客さん)
    平田 道子さん (大槻さんのお店のお客さん)
    日根野 亮さん (大槻さんのお店のお客さん) 
    ナレーション:高山 久美子

    番組ダイジェスト

    聞こえを良くしたいー難聴の補聴器職人ー

    横浜市に、1軒の補聴器店があります。



    お客さんがやって来ました。



    応対するのは店主の大槻公孝(おおつき・きみたか)さん、70歳です。



    (大槻さん)「聞こえ方はどうですか?」

    (お客・柴谷文子さん)「ええ。」

    (大槻さん)「十分に聞こえていますか?」

    (柴谷さん)「普通に会話ができます。」

    (大槻さん)「ちょっと貸してください。」

    こちらのお客さん、ひと月前にこの店で補聴器を買いました。
    この日は、1か月目の点検です。

    (大槻さん)「だいぶね、耳あかが詰まっています。
    これがそのままいって、補聴器が耳あかで塞がると聞こえなくなる。
    どうしても言葉がね、分かりにくくなる。」

    耳あかを取り除くためのクリーナー。
    実はこれ、大槻さんが改良を重ねた末に手作りしたものです。



    お客さんの補聴器のメンテナンスを定期的に行っています。



    (大槻さん)「大丈夫です?」

    (柴谷さん)「大丈夫です。
    ちょっと籠もっていたのが取れたみたい。」

    丁寧な仕事ぶりが評判の大槻さん。
    補聴器職人と呼ばれています。

    実は、大槻さん自身も難聴者です。
    補聴器選びに長年苦労したといいます。
    当事者目線が必要だと、66歳で店を始めました。



    (大槻さん)「自分が聞こえない、あるいは聞こえなかったこと。
    その時代に苦労したことは、仕事をする上で大きな力になっているし、役に立っています。」

    難聴の補聴器職人、大槻さんの日々を見つめます。


    聞こえを良くしたいー難聴の補聴器職人ー

    大槻さんの店では、補聴器の販売と修理を行っています。
    機械いじりが得意な大槻さん。
    長年、通信会社のエンジニアとして働いてきました。
    そこで培った知識と技術が生かされています。

    補聴器に付ける部品。
    お客の聞こえがさまざまなため、数多く取りそろえています。



    (大槻さん)「こちらにお見えになるのは…」



    店の評判を聞き、各地から問い合わせがあります。

    (大槻さん)「今の電話は岩手の方です。
    補聴器の入れ方の練習を、分かりやすいコツを覚えていただこうと思って、9月に来るとおっしゃっていました。」

    (お客・平田さん)「こんにちは。」

    (大槻さん)「いらっしゃいませ。平田さん?」

    (平田さん)「はい。」

    この日、補聴器を初めて使いたいという人が来ました。
    平田道子さんです。



    (大槻さん)「お耳の聞こえ方はどんな感じですか?」

    まず、大槻さんは平田さんに聞こえの状況を尋ねます。

    (平田さん)「テレビの音がものすごく大きくなったとか、講演会とか大勢が集まるときの話の、ある部分が聞こえにくいのは耳のせいなのか、脳みそのせいなのかと思うことが多くなって。」

    高額の商品が多い補聴器。
    お客の中には購入に不安を抱く人もいます。
    そこで大槻さんは自らの体験を交え、説明をします。

    (大槻さん)「着けないで生活をなさっていて、それに慣れているから補聴器がなくても生活が出来るといいますが、かなり神経を耳に持っていって生活をなさっている。
    補聴器を着けたら、うんと楽になることで違いが分かります。
    だけど逆に言うと、必ずしも100%満足できるものではありません。
    補聴器は人間がつくったものであって、神様がつくってくれた自然の耳に比べたらかなり落ちます。
    限界もあります。」

    やり取りに費やしたのは1時間。
    納得してもらうまで、補聴器についての心構えを話します。

    その上で行うのが聴力の測定。
    防音室を使うのが一般的ですが、狭い場所が苦手な人もいます。
    そこで大槻さんは面と向かって聴力を測ります。



    最も重視しているのがこの聴力測定です。
    音域と音量のレベルを細かくチェックして、聞こえの状態を把握します。

    測定の際は、平田さんの顔もじっくり観察。
    表情も聞こえを判断する目安のひとつです。
    20分間の真剣勝負。
    測定結果に基づいて、データを作ります。



    (大槻さん)「補聴器を作るうえで頼りになるのは、聴力測定以外に頼るものがまずないと私は思っています。
    聴力測定が正しく出来れば、補聴器は正しく調整されるはずです。」

    こちらが左耳のデータ。



    そして右耳です。
    測定の結果、右耳は高い音が聞こえにくくなっていることが分かりました。



    (大槻さん)「合格です(笑)
    立派に補聴器年代です。」

    (平田さん)「やっぱり(笑)」

    (大槻さん)「若い方が、耳元で小さな声でささやいてもらったら聞こえる音を基準にすると、それと同じに平田さんの耳が聞こえるためには、その音を100倍大きくしないと聞こえない。
    こういう機会に補聴器を着け始めるのは、いいことだと思います。」

    平田さんに合った補聴器を作るため、耳の穴や周囲のサイズを測っていきます。



    平田さんの日常生活の様子と聴力測定の結果を分析し、大槻さんはこちらのタイプの補聴器を提案しました。



    (平田さん)「私の周りの補聴器を使っている人で、『私とか僕は十分満足している』という人に出会ったことがないので、楽しみです。」



    費やしたのは3時間。
    当事者目線で信頼関係を築いていきます。

    補聴器への強いこだわり。
    そこには、大槻さん自身の苦い経験がありました。

    大槻さんが聴力に違和感を抱いたのは、高校2年の時。
    趣味で始めたアマチュア無線の音を聞き取れなくなったのがきっかけです。



    通信会社のエンジニアの職に就いた大槻さん。
    20代後半で補聴器を使い始めましたが、思うような聞こえは得られませんでした。



    (大槻さん)「特に会議です。
    会議とか対接客のときに、話の筋が見えなくなったときに目が泳いでしまうんです。
    それが一番つらかったですね。
    聞き返すのに2回から3回はね、『えっ?えっ?』とやれますけれど、大体3回から4回目には、言いにくくなりますね。」

    困る場面が多くなり、46歳のときに退職せざるをえなくなりました。
    その後も補聴器を探し続けますが・・・

    (大槻さん)「これは私が購入した・・・36万円ぐらいしました。
    購入して約2週間で使うのをやめました。
    これは補聴器が悪いんではない。
    私が購入するときに当時あまりにも知識がないから、購入したお店を選び間違えた。
    そのため、きちっとした調整が何回やってもらっても出来ない。
    全く聞こえない。」



    自分と同じように聞こえに悩む人の手助けをしたい。
    そこで、4年前に店を開きました。
    妻のみどりさんは、大槻さんの姿に変化を感じたといいます。

    (妻・みどりさん)「自分が聞こえなかったのですごく苦労したから、他の人たちにも良さを伝えたいみたいで。
    うちの中では夫はそんなにしゃべるほどではなかったので、それがあんなに何時間もしゃべれるんだと。
    自分の気持ちをお伝えしたいのでそうさせるのかなと、びっくりしています(笑)」



    数日後、補聴器を受け取りに平田さんがやって来ました。
    大槻さん、平田さんの聴力に合わせてカスタマイズしました。
    さっそく耳に取りつけます。



    実は、この補聴器の中には、コンピューターが組み込まれています。
    そして、無線でパソコンとつながっているのです。
    平田さんの聞こえがベストになるよう、最終調整を行います。



    (大槻さん)「右側の補聴器の、高いほうの周波数を少し強化してみます。
    これと、この状態と、何か変わりがありますか?」

    聞こえにくかった右耳の高音域。
    どうなったでしょうか。

    (平田さん)「ちょっと大きい。」

    (大槻さん)「少し言葉が分かりやすいでしょう?」

    (平田さん)「はい。」

    (大槻さん)「平田さんの耳が急に落ちて、聞こえなくなっている部分を補ったの。」

    調整のワザを駆使した大槻さん。
    自身の経験から編み出したものです。

    (平田さん)「着けていることをすっかり忘れていました。
    今、馴染んでいますよ。」



    (大槻さん)「ちゃんと補聴器を着けることによって、自分たちの、その年なりの生活は非常に豊かになりますから。
    ぜひご愛用頂いて、体の一部としてばっちりと。」



    自宅に戻った平田さん。
    さっそくテレビを見て、聞こえをチェックします。
    今まで、音量を52まで上げていました。

    (平田さん)「今はね、ちょっと音が大きすぎる。
    ・・・このぐらいでも十分。」



    音量をおよそ半分まで下げても、聞こえるようになりました。

    (平田さん)「良くなりましたね。
    ありがとうございます。」



    平田さん、快適な聞こえを取り戻しました。

    この日、常連のお客さんがやって来ていました。
    日根野亮(ひねの・とおる)さんです。
    今はふた月に1度、メンテナンスを依頼しています。



    20代から補聴器を使っている日根野さん。
    長年、自分に合うものが見つかりませんでした。
    しかし、大槻さんと出会ったことで生活が変わったと言います。

    (日根野さん)「ここで買った補聴器のほうが、しっくりきている。
    大槻さんも不満点は違えど自分と同じような経験をされているので、すごく話が通じるというか、分かってもらえる。
    できるだけ長生きして、できることならずっと続けて欲しいです。」

    (大槻さん)「私が引退するころには、日根野さんが引き継いでください(笑)」

    (日根野さん)「いやいやいや(笑)」

    (大槻さん)「いいと思いますよ。ハハハハハ。」

    (大槻さん)「みなさんの顔がフワッと変わりますからね。
    着けて数秒後に、『聞こえるよ!』(笑)
    もう何とも言えない快感ですね。」



    難聴の補聴器職人、大槻公孝さん。
    これからも聞こえに悩む人に寄り添っていきます。

    (おわり)

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