世界中の人がろう者だったら、どんな“オンガク”が生まれていたのだろう。
「聴者にとっての音楽と同じようなものが、ろう者にあるのか。私たちの生活のなか一人ひとりに必ず、音楽的なものがあるはずです。ただ気が付いていないだけ。」
「電車の中で景色が流れていくのを見ると、心地よさを感じます。緩急があって音楽を感じるんです。」
「きれいな夕焼けがあって、その夕焼けの表現を見ると、音楽を聴くというのではないけど、何か体に響いてくるようなイメージがあるんです。」
「音の抑揚だったり響き メロディーを聴いて、聴者は楽しんでいる。ろう者は手の動き方を見て、心地よく感じる部分がある。それは同じものなんじゃないかと思う。」
そこに音はない
でも 感じる“オンガク”がある
8月。音のない“オンガク”を表現する試みが始まった。
「雲が晴れて、青空、太陽が差す。」
「いいかも。もうちょっと長さの調整は必要かもね。」
日本ろう者劇団 元団員 佐沢静枝さん
手話エンターテイナー 那須映里さん
大学生 西脇将伍さん
演出 舞踏家 雫境(だけい)さん
演出 映画作家 牧原依里さん
手の動きで“オンガク”を生み出す。
雨を“オンガク”にしてみる。
雨が上がる瞬間の表現。
演出 映画作家 牧原依里さん
「そうそう、上に。」
演出 舞踏家 雫境さん
「息を吐いて、止める。」
演出 映画作家 牧原依里さん
「言語というところよりも間とかテンポ。見て心地よいと感じられるのは何か。雨があがるところが、見て心地いいと思える。それが一致していく、対話していくのがおもしろいと思います。」
子どものころの牧原さん。教わる音楽はすべて、聞こえる人のものだった。
演出 映画作家 牧原依里さん
「聴者の音楽があることは分かっていたけど、ろう者の音楽が無いということには、疑問を持っていて、本当に無いのだろうか、そんな思いはずっとありました。大学生になって、ある芸術展で、手話ポエムを見てとても感動しました。鳥肌が立つような感動でした。」
手話ポエム。春を表現。
花が咲き、散ってゆく。
演出 映画作家 牧原依里さん
「言語そのものにこだわるのではなく、その手の動き、ポエムの手の動きを見たときの感動。それは聴者にとっての音楽と同じなんじゃないか。ろうの音楽は無いと言うけど、こうしたものにあるんじゃないかと感じ始めたんです。」
演出 舞踏家 雫境さん
「ろう者の音楽というものはある。それは何かというとろう者の心の中にある。呼吸であったり、心臓の鼓動であったり、それがもとになっている。そこからいろいろな視覚的な情報、例えば風景だったり、いろいろなものの積み重ねで、表現できるものじゃないかと思う。」
ろう者が感じる“オンガク”とは。
西脇将伍さん
「電車の中で景色が流れていくのを見ると、心地よさを感じます。目の前で景色が移り変わるのはオンガク的です。踏切とか線路の先に空間が広がって、緩急があってオンガク的だなと感じるんです。」
手話エンターテイナー 那須映里さん
「料理のとき沸騰している何かの様子は、オンガク的。振動で呼ぶとき、伝わってくるものは、オンガク的なものがある。」
日常からオンガクを拾い表現する。
日本ろう者劇団 元団員 佐沢静枝さん
「きれいな夕焼けがあって、その夕焼けの表現を見ると、音楽を聴くというのではないけど、何か体に響いてくるようなイメージがあるんです。それが見るオンガクかなと思います。」
心に響く情景をオンガクに。
10月2日、東京芸術劇場。
世界の新しい音楽を集めたフェスティバル。
音のないオンガク会 題「はじまりについて」
振動 オンガクの誕生。
オンガク×電車。
移りゆく車窓の景色。
オンガク×雨。
関係性のない言葉をリズムにのせる。
(手話)
「ケンカ、ありがとう。でも。」
「ケンカ、ありがとう。でも、なんで。」
「ケンカ、ありがとう。でも、なんで、おもしろい。」
「まさに僕が思っていた、ろう者のリズムはこれだと思いました。」
「それぞれ私たちが固有に持ってるリズム。それは歌とは違うんだけど、歌という言葉にこだわるものではなく、そんなリズムもあると、見ていて感じました。」
「いままで音楽というものは、無縁のものだと思っていたんです。音が聞こえるかのようにすごく伝わってきて、心の琴線が震えました。」
ろう者のオンガク、聞こえましたか?