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ろうを生きる 難聴を生きる「知ってほしい!コーダを育てる親の悩み」※字幕

    今年3月、保育者や教育者に向けて、あるパンフレットが作られました。聞こえない親のもとで育つ、聞こえる子ども=コーダ(CODA:Children Of Deaf Adults)についての理解を促すものです。手話と音声、ろう者の文化と聴者の文化を行き来しながら成長していくコーダを“一緒に見守ってほしい”という願いが込められていました。悩みながらコーダの子を育てる、聞こえないママたちを見つめます。

    出演者ほか

    【語り】高山久美子

    番組ダイジェスト

    知ってほしい! コーダを育てる親の悩み

    「これ何?」

    「これは“ベンケンチ”」

    「パンケーキ?」

    「“ベンケンチ”」

    聞こえないママと聞こえる子どもの、何気ないおしゃべり。

    「これは“ベンケチ”だよ!」

    「分かんない」

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    「“ベンケッチ”だって!!」

    「“バンケツ”が何か分からない!」

    「“ベンケチ”」

    時には、話がかみ合わないことも。

    聞こえない親のもとで育つ、聞こえる子ども。英語の頭文字をとって「コーダ」と呼ばれます。

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    聞こえる世界と、聞こえない世界を行き来しながら成長します。
    その一方で、聞こえない親たちは、コーダの子育てならではの悩みを抱えがちです。

    コーダを育てる母親
    「でも(子育ては)おもしろい。そのおもしろい経験を、母親として、その機会を失いたくない。今しかない。今日のこの子には、もう会えない。」

    コーダを育てる、聞こえない親たちの奮闘を見つめます。


    聴覚障害者の支援に取り組む会社に勤める、ろう者の湯山洋子さん。
    “コーダ”と、その家族が抱える悩みを伝えようと、パンフレットを作りました。今年(2021年)3月にホームページで公開して以来、大きな反響を呼んでいます。

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    湯山さん自身、3人のコーダの子育て経験者。12年前の、湯山さんの子どもたちです。聞こえない両親と同じように、手を動かして会話しています。
    相手に気付いてほしい時、自分の方に顔を向けさせるのは、ろうの親と暮らして身についた習慣です。

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    しかし、家族以外の人に同じことをすると、驚かれたり、迷惑がられたりすることがあるといいます。

    湯山洋子さん
    「コーダの特徴を知らないと、『なんかこの子、落ち着きがないわね』みたいに見られてしまうことがある。『なんでそんなに手を動かしているの?』と手を押さえられてしまったなど、ちょっと誤解されるということがあります。」

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    パンフレットには、コーダについての知識だけでなく、コーダによく見られる行動や、知ってほしい気持ちを、盛り込みました。

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    “肩をたたいたり 机をたたいたりするのも ろう者の習慣で 悪気はないこと”

    “「お母さんが聞こえなくて大変だ」などと 決めつける言い方はやめてほしい”

    コーダへの理解を促す内容です。

    湯山洋子さん
    「心ない言葉を受けることが、よくあります。でも、それを親には、言わないんですよね。自分は『イヤだな』という、思いを抱えたまま、親には、なかなか言えない。親に言ったら親は、もっと悲しむだろうと、子どもながらに思ってしまうので、あえて親には言わず、ずっと我慢している子どものコーダはよく見られます。周りの大人のご理解、ご協力をいただきたいと知ってもらいたくて、説明をしています。」

    コーダ自身だけでなく、その家族も悩みを抱えています。湯山さんが主催した子育てサロンには、100人以上の聞こえない親たちが、集まりました。

    アンケートを取ると、学校などとのやりとりに苦労していることが分かりました。

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    “音読の宿題 母は確認できないため 代わりの方法があればありがたい”

    “電話ができないので メールやFAXなど 別の連絡手段を検討していただきたい”

    “聴覚障害者は 口の動きを見るのが重要
    ちょっとした会話の時は マスクを外してほしい”


    このサロンに欠かさず参加してきたママがいます。
    淺野利来彩(あさのりきさ)さんです。

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    淺野さんは、音声のみで聞き取れるのは、2割程度。聞こえる夫と子どもとは、手話または音声で、会話しています。最近、保育園とのやりとりで失敗があったといいます。

    淺野利来彩(あさのりきさ)さん
    「この前、水遊びが始まったんです。先生から言われたのは、『バスタオルを用意して』というふうに言われました。『ああ、分かった、分かった、去年と同じでいい』と思い込んじゃったんです。用意したんですが、あとから先生から言われたのは『すみません、バスタオルじゃなくて、ゴム式のケープみたいなバスタオルを用意してほしいんです』。あ~そういう意味だったのか。どうだった?(自分だけタオルが違って)どうだった?ショックだった?イヤだった?」

    穂鷹くん
    「イヤだった。」

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    淺野利来彩さん
    「本当?イヤだった?ごめんね。」

    こうした行き違いを避けるため、コーダについてのパンフレットに、自分で作った資料を添えて、保育園に相談しました。
    音声だけでは、正確に聞き取れないことがあることを、イラストで説明したのです。

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    保育園では、淺野さんの困りごとに気づいていなかったといいます。

    墨田区きんし保育園 桃井藍さん
    「音が聞こえるのが2割と書いてあって、あとは口の動きで見ていると。今、コロナなので、マスクをしている中で、2割しか聞こえていないことに、まず驚いて。それで、今までやり取りしていたんだ、というふうに思いました。」

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    バスタオルの一件をきっかけに、保育園から、淺野さん専用の連絡帳を交換しようと、提案がありました。

    墨田区きんし保育園 桃井藍さん
    「私たちから、『何か困ってますか?』って聞くのは、なかなか難しいと思うんです。なので(淺野さんが)そうやって言ってくれて、新たにこういうノートが始められたのが、良かったかなと思います。多分、この先も役に立つことがあると思うので。」

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    淺野利来彩さん
    「ちゃんと親として、子どものことをしっかり把握して、先生とのコミュニケーションもしっかり取るようにする。そういう準備をしていくことも、必要だと思いました。」


    子どもとの向き合い方に、悩む親もいます。
    聞こえる百椛(ももか)ちゃんを育てる、ろう者の渡邊翠(みどり)さんと、夫の竣平(しゅんぺい)さんです。渡邊さんは、百椛ちゃんの成長に戸惑いを感じているといいます。

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    渡邊翠(みどり)さん
    「アパートの隣の方も、1つ年下のお子さんがいるんですね。お迎えの時に、時々一緒になるんです。そういう時に百椛が、私ではなく、お隣のお母さんに話しかけることがあり、『何をしゃべっているのかなあ』っていう、ちょっと寂しい気持ちを、覚えることもあります。分かりやすくいうと、『ママはどっち?』って感じですよね。寂しいというよりは、嫉妬という感じですかね。私が聞こえるママだったらと、思ってしまって。」

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    「あっ!いたっ!ほら、だんごむし」

    百椛(ももか)ちゃん
    「だんごむし、いるよ。だんごむし。」

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    次々と新しいことに興味を示し、気づいたことを声で発する百椛ちゃん。しかし、母の渡邊さんには聞こえません。娘が遠ざかっていくように感じました。そこで、悩みを打ち明けようと、保育園にパンフレットを持っていきました。

    成瀬くりの家保育園 北上真理奈さん
    「初めてパンフレットを読んで、こういうことで困るんだと、具体的に分かりました。きっと、ここは不便だ、と感じていたりとか、こうしてほしい、という願いがきっとあるんじゃないか、というのが、自分で言えない気持ちを渡してきたのかなと思ったので。」

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    渡邊さんの気持ちを知った保育士は、親子が話すきっかけを作れないかと考えます。そして、保育園での様子を詳しく伝えることにしました。

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    成瀬くりの家保育園 北上真理奈さん
    「負担とは感じないです。これは百椛ちゃんのお母さんだからではなくて、一人ひとりに寄り添うという所で、特別とは考えてなくて、必要な方に必要な配慮をするというふうにしているので、負担に感じてはいないです。」

    「おかえりなさい。」

    この日は、日中、庭で遊んだことを伝えました。

    成瀬くりの家保育園 北上真理奈さん
    「虫さん。今日はだんごむし。」

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    「楽しかったね。」

    虫に興味を持ったことを知って、渡邊さんは、百椛ちゃんに話しかけます。

    渡邊翠(みどり)さん
    「虫がいるね。」

    百椛ちゃん
    「むしがいる。チクッとされちゃう。」

    渡邊翠(みどり)さん
    「小さいから大丈夫だよ。」

    百椛ちゃん
    「みて!」

    渡邊翠さん
    「小さいから大丈夫。」

    百椛ちゃん
    「くも、こわいね。」

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    会話のきっかけがつかめました。
    聞こえない親が抱えていた悩み。周りに知ってもらうことで、子育てに自信を取り戻すことができました。

    渡邊翠さん
    「今までは何を聞かれているのか、分からなくて、『そうだね』と(あいまいに)返事していました。そこは、自分自身の反省なんですけど、(連絡帳に)分かりやすく書いて下さっているので、『あっ、こういうことなのかな』と、ヒントを得られるようになりました。百椛に私自身から聞くこと、話しかけることが増えたので、百椛もいろいろと言ってくれるようになり、話すことが楽しくなってきました。」

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    百椛ちゃん
    「あら?ピーピーって、ほら。」

    渡邊翠さん
    「聞こえた?」

    百椛ちゃん
    「聞こえた。ほら、ピーしているよ。」

    渡邊翠さん
    「セミ?」

    百椛ちゃん
    「ちがうよ、ピーしてたよ。」

    渡邊翠さん
    「『ミーン』って?」

    百椛ちゃん
    「ほら!」

    渡邊翠さん
    「鳥?」

    百椛ちゃん
    「とりがピーしてる。ずっと。」

    渡邊翠さん
    「よく聞こえるね。」

    百椛ちゃん
    「あっ!またピヨピヨしてる。」

    渡邊翠さん
    「ピヨピヨ言ってた?」

    百椛ちゃん
    「ほら!」

    渡邊翠さん
    「どこだ?」

    渡邊翠さん
    「とりに、ピヨピヨピヨしてた。」

    渡邊翠さん
    「そうなんだ。」

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    親子の帰り道。明日はどんな会話が弾むのでしょうか。

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