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ろうを生きる 難聴を生きる「気持ちを言葉に~聴覚障害者への心理支援~」※字幕

    聴覚障害者への心のケアの仕組みが日本ではなかなか整わないなか、注目されている人がいます。産業カウンセラーの資格をもつ那須かおりさん。去年立ち上げた「みみここカフェ」は、「みみ」と「こころ」をテーマに、思いを伝え合うイベントです。「私、実は性別に違和感があって…」など、ふだんなかなか言葉にできない気持ちが、ぽろりとこぼれる不思議な場。気持ちを言葉にすることで、一歩を踏み出していく人たちを見つめます。

    出演者ほか

    【出演】那須かおり,【語り】高山久美子

    番組ダイジェスト

    気持ちを言葉に ~聴覚障害者への心理応援~

    今日の主人公は、ろう者の那須かおりさん。40歳。
    人工内耳をつけています。那須さんの専門は、聴覚障害がある人のメンタルヘルスです。

    那須かおりさん
    「ちゃんと自分の気持ちを言葉にして言えたって、強く思える人って、たぶん少ないんじゃないのかなっていう気がするんですよね。」

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    今年(2021年)、産業カウンセラーの資格を取得。当事者ならではの視点で、心の支援を模索しています。

    難聴の女性
    「周りに自分の病気のことを知ってほしいとか、自分のことを理解してほしい、わかってほしいっていう、そういう気持ちがすごく強くて。」

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    聞こえない人向けの心療内科などは、ほとんどありません。一方で、微妙なコミュニケーションのずれから、つらい気持ちをため込む人は少なくないのです。
    心の声をはきだせる場を作りたい。那須さんの活動を見つめます。


    那須さんは、聴覚障害がある人の心の負担を軽くするため、様々な活動をしています。
    この日は、地元の大学やNPOと共同で、スーパーを調査しました。学生はヘッドホンで周囲の音を遮断。聞こえない人の心理状態を疑似体験します。

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    店のポイントカードを作ってみます。名前を記入するよう、店員が指差しをしながら説明を始めました。

    「ご署名欄に、カタカナで、こちらにご署名をお願いいたします。」

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    しかし「カタカナで」という情報は、視覚的には入ってきません。学生は説明がよく分からないまま、漢字で署名してしまいました。

    那須かおりさん
    「どうして、わかったふり、しちゃいますか?」

    「ん-、まあ相手を待たせたくないっていうか。」

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    ささやかな我慢や諦め。ためこんでしまうことで、自己肯定感まで低くなるといいます。「心の低温やけど」とも呼ばれます。

    那須かおりさん
    「もっとこういうことやりたいな、と思っていたのが言いだせないっていうのが積み重なっていくと、結局は夢まで諦めてしまうっていうことにつながっていくと思います。」


    なぜ、心の支援を始めたのか。そこには那須さんの人生が深く関わっています。

    「お名前は」

    那須かおりさん
    「アンバーです。」

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    好きなものに囲まれ、自分らしく毎日を過ごす那須さん。

    那須さん
    「(これ)自分で作ったんですよ。これは、実は釣りの道具です。」

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    「でも、すごい、カッコいいですね。」

    那須かおりさん
    「そうですよ。意外といいんです、これが。」

    しかし、かつては生活を彩る余裕もないほど、心の調子を崩していました。
    小中学校では聞こえる子どもたちと一緒に学び、微妙なコミュニケーションのずれから、いじめに遭います。高校はろう学校に通いますが、今度は、口話で話すために手話の生徒たちの間で孤立してしまいました。

    那須かおりさん
    「聞こえない世界にも入れないし、聞こえる人の世界にも入れてないし。自分はどこにいるんだろう。このモヤモヤっとしたその感情をどう…、なんていう言葉に当てはめたらいいのかも、わからなかったです。」

    相談できる場所もなく、言葉にできないモヤモヤばかりが、たまっていきました。
    大学院のとき、うつ病に。そこに人間関係のトラブルが続き、ますます心を閉ざしていきました。

    那須かおりさん
    「もうほとんど泣くこともやめたし、怒ることもやめたしみたいな感じで、感情がたぶん、どんどん死んでいってたんだと思うんですけど。」

    そして30代となった、ある日。

    那須かおりさん
    「人間関係をもう1回、見直していくっていう感じになって、引っ越しもして、もう環境、変えたんです。環境、変えたはいいんだけど、どうやってそこから生きていけばいいかが、わからなかったっていうか。そこで『あ、じゃあなんか意味ないかな』みたいな感じで死んでもいいのかな、みたいに思っちゃって、包丁、首に当てて、こうやってボーッと立ってたんですけど。なんか、ふっと下見たらアンバーがいるし、まあいっかってやめたんですね。」

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    そんなとき那須さんは、ある精神医学の本に出会います。書いてあったのは、悩みを抱えて生き続ける自分を肯定してくれる言葉でした。

    答えを早く出すことだけが、重要ではない。解決しない状態で踏ん張っていられることも大切な能力だ―

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    長年の心のしこりが溶けていくのを感じました。
    言葉によって人生を取り戻せた那須さん。自分の経験を活かしたいと、カウンセリングの道に入りました。


    那須かおりさん
    「おはようございます。」

    那須さんがいま、最も力を入れる活動が、「耳」と「心」をテーマに語り合う「みみここカフェ」です。参加者は聴覚障害のある人や、手話に関心がある人など。ふだん心にためこみがちな気持ちを遠慮せず言葉にできる場所です。

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    那須かおりさん
    「いちばん大事なのは、やっぱり答えを出そうとしないとか、まとめない。あと、モヤモヤしたままでもOKですってことですね。」

    去年(2020年)始めて、今回で5回目。今では障害がある・ないを越え、様々な人が集います。
    手を挙げたのは、片耳難聴の木村遊さんです。物心ついた頃から性別に違和感を覚え、長くうつ病を患っていました。

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    木村遊さん
    「私、高校のとき、演劇部に入っていたんですよね。27歳の女性を演じるっていうのを先輩から役として与えられて、やったんですけど、どう…、あのときどうすればよかったのかなと思って。」

    周囲が求める“女性らしさ”に抵抗があり、途中で役を降りてしまった遊さん。ずっと心の奥底にしまいこんでいた記憶でした。
    参加者から次々に声があがります。

    「そこでもし無理にやっていたら、自分と、自分が思っている気持ちとがすごいアンバランスになって、すごくつらかったと思います。」

    「遊さん自身がまず、その役を『やろう』っていうところに、いちばん引っかかったのかなって。」

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    木村遊さん
    「その、あの、二役やらなきゃいけなくて、ひとつの役は高校生の不良の女の子の役だったんですよ。それはやりたかったんですけど、それとセットで27歳の女性の役をやらなきゃいけなかった。それをやりたくなかったんですよ。だからやりたくなかったんですよね、まったく。」

    語り合いを通して、ようやく思いを言葉にすることができました。

    木村遊さん
    「あのとき私が役を降りたのは、正解だったってことですよね。」

    「うん!」

    木村遊さん
    「ありがとうございます。よかった、なんかほっとした。」

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    那須かおりさん
    「『腹、割って話しましょう』で話せることではないじゃないですか。その空気感に当てられて、自分の感情がついつい出ちゃったとか、自分の深い部分がついつい出ちゃったとか、そういう場にしたかったんですよね。」


    「みみここカフェ」への参加をきっかけに、人生が変わったという人がいます。
    岩浪由美さん、64歳です。地域の書道教室の先生です。

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    「これ、どういう気持ちで書いたんですか?」

    岩浪由美さん
    「ふふふ。耳の聞こえない人としても生きていこうっていう気持ち。」

    40代で難聴の診断を受けた岩浪さん。聞こえづらいということを、周囲には曖昧にしていました。

    岩浪由美さん
    「みんなで2階で会食、よくしていました。でもその会話のときも、その話に入れないのね。だから、台所のほうに立って、皆さんをふかんするような感じで。聞いてるふりするだけだから、だんだんしんどくなって、そういう(輪の)中に入らない。」

    去年、那須さんの記事を目にしたのをきっかけに、みみここカフェに参加。そこでは字幕や手話通訳などが充実し、聞こえづらさがハンデになることはありませんでした。周囲が何を話しているのかが、はっきりとわかり、岩浪さんは初めて、安心して自分の気持ちを言葉にすることができました。

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    岩浪由美さん
    「聞こえない人としても生きていけるんだなって思ったんですよね、そのとき。」

    「はい、いらっしゃーい。」

    以来、岩浪さんは友人たちに、聞こえづらいとはっきり伝えるようになりました。

    酒井充代さん
    「いま畑でとってきた。」

    岩浪由美さん
    「え?」

    酒井充代さん
    「いま、畑でとってきた。」

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    岩浪由美さん
    「あ、そうなの?え、じゃあとりたて?」

    酒井充代さん
    「そうそう。」

    岩浪由美さん
    「すご。うふふ。」

    自分を正直にさらけ出したことで、さらに変化が起きます。
    友人が岩浪さんと、より楽しく話したいと、手話を学び始めたのです。

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    岩浪由美さん
    「私と手話で話すのが夢とか言ってね。涙が出るほどね、うれしかった。ものすごくうれしかった。」

    酒井充代さん
    「本当に?本当?」

    岩浪由美さん
    「もう、みっちゃんに対する私の思いがぜんぜん違う。いっぱいハートって感じ。」


    那須かおりさん
    「本当は思ったことを、もっともっと言ってもいいはずなんですよ。『ありがとう』とか『すごいうれしかった』とか、その感情の言葉っていうんですかね。そういういい循環を、ひとつひとつ、一人ひとりが生み出せれば、そこからつながっていく人がたくさんいるので。」

    那須さんには、いま新しい夢があります。
    いつでも立ち寄れて、気持ちを話せるカフェバーを作る事です。ろう者の自分が先頭に立つことで、より開かれた場にできると考えています。

    「なんだろう、コースターとかが光ったらきれいだよね、きっと。」

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    何でも伝え合える仲間とともに。

    那須かおりさん
    「今はもう、ひたすらにワクワクしています。この先、どんな世界が待っているのかわからないけど、いろんな人と一緒に手を取りあっていけば、遠いところに行けるんじゃないかなと思っていて。」

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    あなたには、言葉にしたい気持ち、ありますか?

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