【出演】手話パフォーマー…HANDSIGN,足立梨花,早瀬憲太郎,【語り】高山久美子
今、ろう者と聞こえる人の恋愛を歌った曲が、大きな話題を呼んでいます。
♪僕が君の耳になる 君のひとつになる そんな夢を今 叶(かな)えたい
手話を交えて歌う「僕が君の耳になる」。実話を元に制作。“聞こえる、聞こえない”をこえ、互いを理解しあう大切さが歌われています。ミュージックビデオで、ろう者を演じた俳優の足立梨花さんも、この曲のとりこになった1人です。
俳優 足立梨花さん
「実際にあったお話を、ちょっと手を加えて作ったのが、あのミュージックビデオなので、リアル感…、そういうのが伝わったお陰でいろんな人が見ても、ちゃんと気持ちが伝わるものになったのかな。自分を支えてくれる…、そういう人、私にもほしいなと思ったり。」
誕生から4年。評判は徐々に口コミで広がり、動画の再生回数は1,000万回をこえました。曲との出会いをきっかけに、人生が変わったという人もいます。
難聴者
「人と関わりたい。好きなこと、楽しかったことを話せるようになりたいと思いました。」
聞こえる人
「“人に寄り添う”というのは、たぶんこういうことなんだろうな。」
音楽に背中を押され、新たな一歩を踏み出した人々の物語をひも解きます。
ろうの女性と聞こえる男性。異なる人生を歩んできた2人が、戸惑いながらもひかれ合っていく物語が描かれています。
♪君が見ている景色 僕も見えるといいな 手と手 重なり合って 君に夢中になった 聞こえないことで僕らは 聞こえないことで二人を もっと知りたい 言葉にして
互いを認め合い、わかり合う喜びがストレートな言葉で綴られています。
手がけたのは、ダンスに手話を取り入れた、独自の表現で歌う「HANDSIGN」。結成は15年前。ろう学校を訪問する活動などを通じ、新たなコミュニケーションの可能性を模索してきました。“聞こえる、聞こえない”2つの世界をつなぐことが2人の夢です。
SHINGOさん
「伝えたいけど言葉が見つからない体験は、すごくたくさんしてきたし、ろうの方たちもたくさんあると思うので、そういったところがつながったらいいな。」
曲の中には、TATSUさんの実体験も描かれています。
TATSUさん
「僕も昔、聞こえない人のことを好きになった経験もあるし、ミュージックビデオの中で『音楽の楽しさを教えてよ』というシーンがあって、あれは僕の実話なんです。」
「私に 音楽の楽しさ教えてよ」
TATSUさん
「聞こえない女の子に『ドレミの音階を教えてもらいたい』と言われて、ピアノを使って教えたんですよね。『聞こえない人=音楽やピアノは関係ない』と思っていたから、ドってやって、こうやると『あっ、なんか、ちょっとわかるかも』って言い始めて、レは?『あっ、わかるかも』。そんな世界は今までになかったので、発見というか、うれしい。」
わかり合おうとすることで、初めて見えてくる世界がある。そのメッセージに共感するろう者も多くいます。
ミュージックビデオに出演 早瀬憲太郎さん
「ろう者から『とても良かった。感動した』という声をたくさん聞きます。それはなぜかと考えたときに、ろう者と会って、生き方やこれまでの人生、気持ちの中まで理解して深い付き合いをする中で作った歌。ろう者をきちんと見て“伝えようとする気持ち”が伝わってきます。」
そして今、国や立場をこえ、共感の輪が広がっています。
この曲に、勇気をもらったという人がいます。難聴のハルさん。19歳です。
曲に出会ったのは3年前。高校1年生のとき、インターネットでミュージックビデオを見つけたことがきっかけでした。
ハルさん
「自分だけじゃないんだな、と思いました。自分しか近くにいる人で、聞こえない人はいなかったので、あっ!聞こえない人がいるんだ。安心感みたいなのはありました。」
小さいころから補聴器を付けて学校に通っていたハルさん。自分は周りの人と違うと、ずっと悩んできました。
ハルさん
「補聴器を隠したい。見えると『お前は障害者だ』と言われたり、自分の気づかないうちに隠されたり、遊ばれたりとかがあったので、怖くて、できるだけ隠して過ごそうと思って、髪の毛を切って隠して、結ばないようにしていました。」
そんなハルさんが、背中を押されたという歌詞があります。
♪君が見ている景色 僕も見えるといいな 手と手重なり合って 君に夢中になった
聞こえないことで僕らは 聞こえないことで二人を もっと知りたい 言葉にして
ハルさん
「『君が見ている景色 僕も見えるといいな』という歌詞が好きで、自分も難聴だけど、聞こえる人たちも、聞こえない人のことを知りたいんだな。もっと一緒に人と関わりたい。好きなことや楽しかったことを、話せるようになりたいと思いました。」
そして、ハルさんは行動にうつします。思い切って自分から話しかけ、友達を作るようにしたのです。高校時代に出来た親友、ヒロミさんです。
心許せる友ができたことで、ハルさんの生活は180度かわりました。
ハルさん
授業と授業の間とか、結構時間があるのに誰とも話さない状況だったので、そういうときに、ほんの少しの時間でも話せるのが嬉しかったし、楽しかった。」
一方、ヒロミさんは、ハルさんと付き合う中でたくさんの気づきがあったといいます。
ヒロミさん
「普段は普通に会話ができているのでわからないけど、ちょっとしたことで何かしらの支障がでてるんだな。」
見た目にはわからなかった、聞こえないことの悩み。授業や大勢での会話が聞き取りにくいと知り、ヒロミさんは手話を覚えてハルさんをサポートするように。
ヒロミさん
「聞こえないことで難しい、過ごしにくい部分を改めて知ることで世界が広がった。夢を見つけられてのは、ハルと出会ってからで。ハルと出会って、ハルの(聞こえない悩み)をいろいろ聞いていく中で、手話を使った心理カウンセラーになりたいという夢を、ハルと出会ってから見つけたから、ハルに打ち明けてくれてありがとうと言いたい。」
ハルさん
「ビックリしています。ええ~…。ちょっとまだ『えぇ!』って出るくらいビックリしています。」
ハルさんにとっては、人と関わる勇気をもらい、ヒロミさんにとっては、新しい世界を知るきっかけとなった曲。
♪君が見ている景色 僕も見えるといいな もっと知りたい 言葉にして
「君が見ている景色 僕も見えるといいな」それが2人をつなぐ言葉です。
この曲は“聞こえる、聞こえない”をこえ、新たな意味を持ち始めています。
夫婦でライブに通う、服部茂治さんと亜紀子さんです。2人とも耳が聞こえます。
曲をきっかけに、夫婦関係を見つめ直すことができたといいます。
亜紀子さん
「夫が大好きな私のカレーです。」
料理が好きで、元気に家事をこなす亜紀子さんですが、3年前までは違いました。
亜紀子さん
「できたよ。」
不妊治療を8年続けるも、かなわず、そこに追い打ちをかけるかのように大きな病気が発覚。塞ぎ込む日々を送っていたといいます。
亜紀子さん
「持病で病院にずっと通っていて、結局、夫が大好きな子どもも授かることもできず、それから今度は大きな病気にかかって、もう本当に、このままで大丈夫なのかな、もうダメかな。」
やがて夫婦から会話が消え、笑うこともなくなりました。
亜紀子さん
「どうしても自分の思うようにいかないので、夫に当たってしまう。夫といること自体がつらいかな、というときもありました。もう迷惑をかけたくない。」
「Q:それは旦那さんへの申し訳なさ?」
亜紀子さん
「それがいちばんです。」
どうすることも出来ぬまま10年が過ぎたころ、曲と出会います。
♪僕は君の耳になる 君のひとつになる
亜紀子さん
「ムクって起き上がりましたね。あれ?って感じで。」
♪くだらないことで僕らは くだらないことで二人を 傷つけ合って 本当ごめんね
まるで、自分たち夫婦の関係を歌っているように聞こえたと、亜紀子さんはいいます。
夫の茂治さんは、この曲に繰り返し出てくる、ある言葉が心に刺さったといいます。
♪僕は君の耳になる 君のひとつになる
服部茂治さん
「『君“と”ひとつになる』ではなくて、『君“の”ひとつになる』。『僕は君の中のひとつになる』というように、『君』が主体になっている。勘違いして『自分が寄り添ってやってるんだぜ』と思い込んでいる人が多い。僕もそうだったけど、そうではなくて“人に寄り添う”というのは、こういうことなんだろうなと思って、自分が今まで考えていた小さな物差しが、なんてちっぽけだったんだろうな。そこから、ずいぶん変わってきたんじゃないかな。」
亜紀子さん
「夫婦として、2人で協力して心が通じ合っていけたらな、と思っています。」
大切な人を思う気持ちがつながりあって、すてきな物語が生まれていきます。
♪声は聞こえなくても 愛が響いている そんな君をずっと愛している