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ろうを生きる 難聴を生きる「東日本大震災10年 命を守るための提言」※字幕

    「警報が聞こえず、津波で命を落とすところだった。」「避難をしても、避難所では情報が分からない。」10年前の東日本大震災で浮き彫りになった、聴覚障害者の災害時の課題。災害の情報を得て適切に避難したり、聞こえる人に囲まれる避難所でコミュニケーションを取るにはどうすれば良いのでしょうか?10年の蓄積から、災害時に命と生活を守るための方法を、専門家のゲストを交えて考えます。

    出演者ほか

    【出演】宮城教育大学准教授…松崎丈,後藤佑季,【語り】高山久美子

    番組ダイジェスト

    東日本大震災10年 命を守るための提言

    後藤佑季リポーター
    「東日本大震災から まもなく10年になろうとしています。NHKの調査では、被災地の自治体で聴覚障害者の死亡率は全住民の1.7倍でした。私も難聴者の1人です。人工内耳をしていますが、緊急地震速報に気付かなかったことが何度もあります。防災無線はなかなか聞き取ることができません。災害時にどう命を守ればよいのか、いつも不安があります。」

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    あの日、聴覚障害のある人たちはさまざまな困難に直面していました。

    宮城県名取市で被災した、ろう者の夫婦です。地元の消防団が避難を呼びかけましたが、気が付きませんでした。津波が到達する寸前、家族が車で駆けつけ、間一髪で逃げることができました。

    渡辺征二さん
    「もし兄が助けにきてくれなければ、私たちは死んでいたと思います。」

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    さらに 被災した後も、聴覚障害のある人たちの苦境は続きます。

    仙台市に住む難聴の男性です。当時、生後間もない子どものために、おむつやミルクを求めて避難所を回りました。ところが…

    村田哲彦さん
    「避難所を回ったときは貼り紙もさっぱりなくて、聴覚障害者に対して情報提供をするという意識、考え方、そういうものは全くなかった。」

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    後藤佑季リポーター
    「災害時、情報が入らないことで聴覚障害者の多くが命の危険にさらされました。今日に至るまでの10年、東日本大震災以外にも多くの災害が起きています。決して遠い出来事ではなく、私たちは常に災害と隣り合わせです。
    もし再び災害が起きたとき、聞こえない私たちは どのように身を守っていけばよいのでしょうか。きょうは聴覚障害者の防災に詳しい 宮城教育大学の准教授であり、ご自身もろう者である松﨑丈さんと一緒に考えます。よろしくお願いいたします。」

    宮城教育大学 准教授 松﨑丈さん
    「よろしくお願いします。私も仙台市で被災しました。そのときの経験からお話しさせていただきたいと思います。」

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    後藤佑季リポーター
    「まずは、今まさに災害が起きたら、どのように情報を入手すれば良いのかについて考えていきます。こちらにまとめました。」

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    ファックスやテレビ、携帯メール、災害時に自動で配信される防災メール、スマホやタブレット、また、直接「人づてに聞く」という方法もあります。

    後藤佑季リポーター
    「松﨑さんは10年前に被災されたとき、どういった状況だったのでしょうか?」

    宮城教育大学 准教授 松﨑丈さん
    「たくさん方法があります。しかし、10年前に震災が起きたときに実際に使えた方法は非常にわずかでした。例えば停電の時には、FAXやテレビは使えません。また、メールもたくさんの人が使って回線が混雑し、送受信に2時間ほどかかりました。防災メールがありますが、先ほどと同じように(一部は)メールが上手く通じないという状況でした。」

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    後藤佑季リポーター
    「『人づてに聞く』というのもありますが、私自身 一人暮らしのうえに近所づきあいがあまりないので、これはなかなか難しいと感じます。さらに私は人工内耳を付けているのですが、人工内耳の充電が切れてしまったら、さらにコミュニケーションのハードルが上がってしまうと感じます。」

    宮城教育大学 准教授 松﨑丈さん
    「私はろう者ですので、スマホ・タブレットの方法を使いました。TwitterなどのSNSを使って情報を収集することができました。」

    後藤佑季リポーター
    「そのスマートフォンを、さらに別の方法でうまく使って、災害発生直後 命を守った事例があります。取材しました。」


    2019年10月。台風19号が福島県を直撃し、複数の川が氾濫。死者38人に上る大きな被害となりました。

    「よろしくお願いします。」

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    郡山市に住む、ろう者の佐藤邦子さん。ろうの夫と2人暮らしです。
    川の水が家の中まで押し寄せ、水位は腰の高さにまでなったといいます。

    しかし、忍び寄る水の気配には全く気付かず、佐藤さん夫婦がようやく事態を把握したのは午前3時半頃のことでした。

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    佐藤邦子さん
    「トイレに行こうと起き上がったんです。そしたらベッドが船のようだった。前の震災の時の津波を思い出してしまったんです。」

    頼りのファックスは停電で使えなくなっていました。2人は2階で、夜が明けるのをじっと待ち続けました。
    しかし、朝8時になっても水位は下がりません。

    そこで2人が思い立ったのは、ビデオ通話。日頃使い慣れている「手話」でSOSを訴えることにしたのです。

    郡山市では、ビデオ通話を利用した遠隔手話サービスが始まっていました。通院時など外出先で手話通訳を遠隔で受けたり、電話の代理をお願いできるサービスです。

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    佐藤さん夫婦は、このサービスによって消防に通報することができました。平時の制度が思わぬ形で非常時に生かされたのです。

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    佐藤邦子さん
    「ふだんならメールのやり取りで伝わると思います。ただ緊急時になりますと、なかなかメールでは自分の気持ちを伝えることができません。手話でしたら思いを全て表すことができるので本当に安心できました。」

    後藤佑季リポーター
    「郡山市では遠隔手話サービスが災害時に役立ったことから、今後は通訳用のタブレット端末を担当者が持ち帰り、災害に備えて24時間連絡を受け付けられるようにするなど、体制を整えていくとのことです。松﨑さん、ご覧になっていかがでしたか?」

    宮城教育大学 准教授 松﨑丈さん
    「災害時には現地にいる手話通訳者も皆 被災し、活動が難しくなります。こうした遠隔手話通訳のサービスがあれば、宮城で被災したろう者が東京にいる手話通訳者に依頼することができる。そこで情報を得ることができるというメリットがあると思います。」

    後藤佑季リポーター
    「今回取材した郡山市では、聴覚障害者団体が主体となって手話で学べるスマホ教室を開いているそうなんです。高齢のろうの方でも、ビデオ通話を学びたいという声が多く聞かれるそうです。松﨑さんこうした取り組みいかがですか?」

    宮城教育大学 准教授 松﨑丈さん
    「とても良い取り組みだと思います。しかし、一部の地域だけの運動になるのではなく、また個人の努力だけで終わらないように、広めていくためにはスマホの販売業者が聴覚障害者の利用も想定して、使い方をサポートしていく必要があります。そのために行政が指導したり、聴覚障害者情報提供施設が販売事業者と連携しながら、ろう者・難聴者に対して使い方をサポートしていく方法もあります。」

    後藤佑季リポーター
    「そうですね。ここまでは災害発生直後について考えてきましたが、大きな災害が起きた場合は、避難生活が長引くこともあります。松﨑さん、避難した先では、どのような課題があるのでしょうか。」

    宮城教育大学 准教授 松﨑丈さん
    「東日本大震災の時に、聴覚障害者の中には避難所で大勢の聞こえる人たちと共に過ごすことになり、聞こえる人たちとどのようにつながればよいか分からない人がいました。また、自分の困っている状況を伝えられない、遠慮してしまうという人が多かったと思います。」

    後藤佑季リポーター
    「そうした中で今、聞こえる人と聞こえない人のコミュニケーションのサポートとして注目されているのが、こちらです。『指差しボード』。」

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    「こちらは、聴覚障害者が新型コロナウイルスに感染した場合に備えて作られたものです。希望するコミュニケーション方法や症状が、イラストや文字で描かれています。例えば、『筆談でコミュニケーションがしたいです。症状はのどが痛くて、とても辛いです。』というように指を差すだけでコミュニケーションがとれるようになっています。
    宮城県では、松﨑さんも関わりながら、災害時に備えて指さしボードを開発しています。どんな様子なのか取材しました。」


    宮城県仙台市にある「みみサポみやぎ」。

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    震災直後から被災した聴覚障害者を支援してきた、聴覚障害者情報提供施設です。

    この日、災害時専用の「指さしボード」を作ろうと、ろう者、難聴者、手話通訳者など さまざまな立場の人が集まりました。
    手話で会話する人も、文字と音声で会話をする人も、誰もが使えるものを目指します。

    災害時、体の不調を訴えたいとき、どのようなマークや文字があれば伝わりやすいか。議論が始まりました。

    難聴者
    「例えば、(程度を表すのに)大中小はどうでしょうか?『痛い』『苦しい』『気持ち悪い』という表示があるから、それが大中小。」

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    宮城教育大学 准教授 松﨑丈さん
    「『とても痛い』『まあまあ痛い』『痛い』という言葉(日本語)に変えるのはどうですか?」

    ろう者
    「『とても』というと(手話では)軽いイメージになります。」

    「とても」という言葉をひとつとっても、手話と日本語ではニュアンスが異なることが分かりました。

    ろう者、難聴者が共に意見を交わし合ったからこその気付きでした。

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    会議に参加した難聴の男性
    「それぞれの障害だったり、個性・特性に合わせた共通項を探り、これはこれで一つの成果があるかなと。」


    後藤佑季リポーター
    「実際に関わってみていかがでしたか?」

    宮城教育大学 准教授 松﨑丈さん
    「聞こえない人の中には、ろう者がいたり、難聴者がいたり、さまざまな方がいます。それぞれのニーズやコミュニケーション方法もまちまちです。議論の中で確認しながら、皆が使えるものが出来た。大変よかったと思います。」

    後藤佑季リポーター
    「VTRで制作されていたコミュニケーションボードは、みみサポみやぎのHPで公開されています。全国の自治体や支援団体でも作成が進んでいますので、ぜひ入手してみてください。」

    みみサポみやぎHP「緊急・災害用お願いカード」はこちら http://www.mimisuppo-miyagi.org/bousaiinfo.html

    後藤佑季リポーター
    「今日は聴覚障害者の防災について考えてきました。改めて、聴覚障害者が災害時に自分の身を守るために必要なことというのは、なんでしょうか?」

    宮城教育大学 准教授 松﨑丈さん
    「今はいろいろなツールがあります。ぜひそれを使ってほしいのですが、1番大切なことは災害が起きる前、平時からの備えです。聞こえる方、聞こえない方それぞれが、どうつながるかを考えてほしいと思います。例えば、駅の窓口で筆談をしてほしいとき、私の場合は手話で『耳が聞こえません』と伝えることがあります。そうすることで、聞こえる人は筆談の仕方を体験できます。そういう経験の積み重ねが大切です。」

    後藤佑季リポーター
    「私自身も聞き返すなど、積極的にコミュニケーションをとっていきたいと思います。松﨑さん、今日はどうもありがとうございました。」

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