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ろうを生きる 難聴を生きる「“聞こえにくい”を知って欲しい」※字幕スーパー

    自身も軽度の難聴である宮谷真紀子さん。6年ほど前、病院でのやりとりを難聴者の視点で再現した動画を制作。すると「このような聞こえ方だとは知らなかった」と反響を呼びました。そこで難聴者への理解をもっと深めたいと活動を始めた宮谷さん。当事者へのアドバイスだけでなく、孤立しがちな難聴者と社会をつなげたいと企業や学校などで聞こえに関する研修や講演なども行うようになりました。そんな宮谷さんの活動を紹介します。

    出演者ほか

    【語り】高山久美子

    番組ダイジェスト

    “聞こえにくい”を知ってほしい

    難聴の人たちの聞こえ方は、どのようなものなのか。
    その様子を再現した映像があります。

    「感音難聴の世界」

    加藤高明さん
    (△×しょうおね?)
    (おけんしょう??)

    photo

    子音が聞き取りづらい人は、保険証が「おけんしょう」に聞こえてしまいます。

    医師
    「ぁぉうさん かとうたかあきさん おぁいにください」

    photo

    加藤高明さん
    (ん?あとう?かとう??)
    (誰も立っていないし・・たかあきって聞こえたし)

    看護師
    「あとうさん」

    名前を呼ばれても、加藤なのか佐藤なのか分かりません。

    この動画を制作したのは、自身も難聴の宮谷真紀子さんです。

    宮谷真紀子さん
    「耳元で大きな声で話せばいいって みんな思ってたから、医療者が。私はその必要はないから。その対応が、みんながみんな欲しいわけではない。そこにやっぱり違和感を感じていたので。映像が頭の中に思い浮かんで、それをちょっと形にしてみようかなと思ったのがきっかけです。」

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    宮谷さんはこの動画を使い、研修や講演を行うなど、難聴者への理解を深めるために地道な活動を続けています。その様子を追いました。


    薬剤師として働きながら、難聴者の支援を行っている宮谷真紀子さん。
    数名の仲間と「クリアジャパン」という名前で活動しています。

    その1つが、難聴者のためのグッズ開発。

    宮谷真紀子さん
    「例えば、この3つをいっぺんに言うのって やっぱり大変だから。」

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    配慮が欲しいとき、このようなカードがあったら便利なのではと開発を始めました。

    そしてこちらは、難聴者に対して 周囲の人たちはどのように対応したらいいのか、その方法が描かれたカードです。

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    宮谷さんは、軽度・中等度の難聴者にも支援は必要だと考えています。

    「クリアジャパン」代表 宮谷真紀子さん
    「これですね。障害者手帳に該当しない軽度・中等度難聴者、さらに自覚が難しい人。自覚してない人が そこ(支援団体)に行くことは難しいですよね。」

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    「そこまで困らないっていうのがあるのかもしれないけど、そもそも難聴ってことが何なのか分からない人たちなので、みんな。気付きのきっかけを作るっていう感じですね。」


    全国の難聴者は、推計でおよそ1400万人以上いると言われています。(平成30年 ジャパントラック調べ)
    その中で、障害者手帳を持っている人はおよそ44万人。(平成30年 厚労省調べ)
    多くの軽度・中等度の難聴者は なかなか支援にたどりつけない現実があるのです。

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    宮谷さんも、そんな軽度の難聴者の一人です。

    宮谷さんが軽度の難聴と診断されたのは3歳の時。しかし、日常生活には支障はなく、補聴器の必要もありませんでした。

    宮谷真紀子さん
    「全く問題なく、『私 軽い難聴って診断されてるけど、何が違うんだろう』という。一個だけ苦手なのは電話でしたね。その電話も、難聴って分かってるから聞こえづらいのも分かるんですけど、出る相手がどんな声なんて想像つかないので、知らない人だと。」

    宮谷さんが自身の難聴と向き合うようになったのは、大学卒業後、薬剤師として病院で働き始めてからでした。
    病院ではマスク着用が基本です。しかし、マスクを通した声は聞き取りづらく、宮谷さんの場合、男性の低い声はほとんどわかりませんでした。「マスクを取って話してほしい」と伝えましたが、なかなか対応してもらえませんでした。

    宮谷真紀子さん
    「普通に話してるので、医師とか看護師も含め、みんな私が耳悪いって やっぱり認識しにくいし、最初に難聴だからと言っても『私も 私も』って、『私も よく聞き間違えるから』って言われて。相手に理解が得られないとか協力が得られないのは、そもそも自分の説明のしかたが違うんじゃないかって。私は 相手が理解できるような説明ができてるのかなって思って。」

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    他の当事者たちはどうしているのか。
    宮谷さんは病院で難聴者の話を聞いたり、いろいろな場でアンケートを取ったりしながら、数百もの声を集めました。

    すると、難聴には
    低い声が聞き取りづらい、「さ」が「あ」に聞こえるなど、さまざまな聞こえ方があることが分かったのです。

    しかし、ほとんどの人たちは難聴の自覚がなく、自分の聞こえ方を理解していませんでした。

    そこで宮谷さんは、難聴者の聞こえ方を映像でわかりやすく伝えようと考えました。
    そして完成したのが、この映像。


    「感音難聴の世界」

    まず、低い音が聞き取りづらいケースです。

    心の声
    (あっマスクしてる・・)

    受付
    「#けんしょ*おぇが△?」
    「おけんしょぅぉぇがいします」

    (おけんしょう?)

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    (あっ保険証ね。この人の声は高いから、なんとか聞き取れる。)

    そして、子音が聞き取りづらいケース。

    医師
    「ぁぉうさん かとうたかあきさん おぁいにください」

    (ん?あとう?かとう??)
    (誰も立っていないし・・たかあきって聞こえたし)

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    看護師
    「あとうさん」
    「かおうたかあきさんですか?」

    (あっ、やっぱり加藤だ。)

    呼び出されているのは佐藤さんですが、加藤さんには「あとう」と聞こえてしまいます。

    診察室に入っても

    医師
    「ぁとうたかあきさんですね?」

    (あー体調悪い・・)

    医師
    「#っからうあぃがわるいですか?」

    (先生の声 小さいなぁ)

    医師
    「いつからぅぁぃがわるぃですか?」

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    (あーいつからか聞かれたのか)

    医師
    「はきけゃぇりなど ひょうじょうはあいませんか?」

    (吐き気はないから)

    医師
    「おのあとえつえきけんかしますね。」

    (えつえきけん?って何だ?)

    看護師
    「ぁとうさん けんたいっぇぉぁんなぃ#ます」

    (あー看護師さんについていけばいいのか。)

    症状などの大切な情報があいまいなまま、診察は進んでしまいました。

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    この映像を見て、自身の難聴に気付いた人がいます。
    都内の会社で働いている 山川道子さんです。

    山川道子さん
    「もう衝撃でした。『私と同じだ!』と思いましたね。今まで言語化できなかった聞こえづらさを、すごくわかりやすく表現してくださっていて。」

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    山川さんは、聞こえにくさを自覚したことはありませんでした。
    しかし、社会人として働き始めると、今まで経験したことのない困難に直面します。

    山川道子さん
    「入社1年目はよく口頭で指示をもらって、その指示をメモに書いて、そのメモをまた人に伝えるという仕事がすごく多いんですけども、まず言ってもらうことが分からないわけですよね。しかし、そこで『いや 聞き取りづらいんですよね』って、『何を言ってるかわからないんですよ』とは、とても言えないわけです。」

    指示が分からず落ち込む毎日。心療内科にも通いました。

    そんなとき、友人に勧められて見たのが宮谷さんの映像でした。

    山川道子さん
    「世界がファッと開けた感じがしました。『これだ!』と思ったんですよね。ただ聞こえづらい、聞こえないってことではなくて、仕事の中で『こういうふうに聞こえたのだけども なにか違う気がする。もう1回お願いします』ということが堂々と言えるようになったんです。だって聞こえないのはしようがないですからね。」


    難聴者にとって、どのような対応がありがたいのか。
    宮谷さんは、それも映像にまとめました。

    提案しているのは「耳にやさしい『かきくけこ』」

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    「か」 書く

    「か」 確認する

    「き」 希望を聞く

    「く」 口元を見せる
    ※感染症等でマスクが必要な場合は指差しや筆談などで対応する

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    「け」 掲示する(視覚的な情報を増やす)

    「け」 掲示する(例:呼び出し番号表示)

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    「こ」 困っていないか確認

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    この映像に、宮谷さんと同じ職場だった医師も驚いたと言います。

    同じ職場で働いていた医師 角田さん
    「それまでに私がとっていた、声を大きくしたりというだけでは対応できない。その大きさの問題ではなくて、音そのものが変わって聞こえるようなタイプの難聴の方がおられるということは、具体的にそのように違って聞こえるということは知らなかったので、改めて対応を考えさせられました。」

    映像はネットでも公開され、話題となりました。反応は大きく、宮谷さんは研修や講演などにも呼ばれるようになりました。

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    2年前からは、大学の薬学部で学生たちに 聞こえ方に関する授業も行っています。

    学生
    「完全に聞こえないっていうんじゃなくて、音階が聞き取れないみたいな感じで、断片的に聞こえないっていうのを聞いて、思っていたのと違うんだなっていうのは感じました。」

    「母音しか聞き取れないみたいなのがほとんどで、自分は経験できないけど、実際に難聴の方はこういうふうに聞こえてるんだっていう理解が1つ深まりました。」

    宮谷さんは 近年、学校への訪問にも力を入れています。

    難聴を自覚していない児童もいることを、先生たちにも知ってほしいと考えているのです。

    宮谷真紀子さん
    「おはようございます。本日はよろしくお願いいたします。」

    佐久間陽子先生
    1年ほど前に宮谷さんの話を聞きました。学校全体で難聴児童への理解を深める必要性を感じたと言います。

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    教諭 佐久間陽子さん
    「難聴生徒への周りの理解をどう深めるかっていうことで、こんなふうにすると周りに分かってもらえるっていうのがあったら。」

    宮谷真紀子さん
    「やっぱり難聴者だけのためにやってしまうと、どうしても自分ごととしても捉えられないので、まず興味を持ってもらう。いつも目に触れる場所にポスターとかポストカードですね。そういったものを貼るだけでも意識づけにはなると思うんですよね。」

    宮谷さんは、小さな気遣いがとても大切だと感じています。

    宮谷真紀子さん
    「こういう所とかに(ポスターを)もし貼らせていただける場所があれば。貼っておくと たぶん来る人でも聞こえにくい人がいるかもしれないので、『そういう配慮をしてますよ』っていうことが分かるかもしれない。」

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    毎日何気なくポスターを目にすることで、難聴者の存在に気付いてくれたら。
    みんなのちょっとした配慮で 生活しやすくなるのです。

    宮谷真紀子さん
    「私の中の支援って、難聴者に直接何かをすることだけが支援と思っていないので、難聴者の周りの方に伝えることで、コミュニケーションしやすい環境を作っていくことも一つの支援だと思う。だからコロナの前・後にかかわらず、同じ取り組みを続けるという感じですね、私は。」

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