【語り】高山久美子
大阪を拠点に活動を続ける「手話エンターテイメント発信団oioi」
そのユニークなパフォーマンスは、手話のイメージを変えると評判です。
観客
「元気だった。(一般的な手話サークルは)歌はリズムに合わせて表現するけど、あんなに動き回ってしないから。」
「ほんまに楽しいなあって思えるようになりました。」
手話の魅力を発信し続けて15年。いま、聞こえる人たちに大きな影響を与え始めています。
世界的な活躍を見せるタップダンサーは、タップに手話を取り入れた新しいパフォーマンスに挑戦。
一方、手話が聞こえる人のコミュニケーションに役立つのではと活動を始めたグループも。
「(手話を)聴覚障害者の方だけのものにしておくの、私の中でもったいないっていう思いがあるので、みんなの手話にしたい。」
既成概念にとらわれない活動を続ける「oioi」。
今回は、そんな彼らの取り組みがもたらした手話の広がりを紹介します。
大阪市 東淀川区
「oioi」の稽古の様子です。稽古には見学者が頻繁に訪れます。
こちらの女性は、入団を検討しているそうです。
見学者の女性
「昔から興味があったので。何回か見学とか見て重ねて、ゆくゆくは(一緒に)出来たらなとは。」
母親とともに小学生も訪れていました。
映画や舞台の子役として活動している山川大遥君です。
聴覚障害児の役が決まり、初心者もすぐ手話を覚えられると評判の「oioi」を訪ねたそうです。
母親
「ここのサークルがとても楽しくて、手話の行き交いも激しいので、見てすぐにいろんな言葉を覚えられると聞いたので。」
稽古場に足を運んだのは、この日が3回目。休憩時間にメンバーから手話のレクチャーも受けてきました。
山川大遥君
「もうみんなすごく楽しそうで、分からないことがあっても優しく教えてくれたり。『大丈夫』とか『ありがとう』とか『楽しい』とか。」
教えてもらった手話がどう生かされるのか、ロケ現場にお邪魔してみました。
映画は、来年の夏公開予定の「ある家族」。手話も度々登場します。
親と暮らすことが出来なくなった子どもを、新しい家族が迎え入れる「ファミリーホーム」が舞台です。山川君は、親に捨てられた ろう児の役です。
手話の監修は、ろうの女優として活躍している忍足亜希子さんの夫で、俳優の三浦剛さん。
山川君の手話、どうですか?
三浦剛さん
「すごく練習されていたので、前もって動画を送って、どこまで把握できるかと思っていたら、すごく勉強されたということで、もう全然心配していないです。」
ロケの終盤、山川君が手話で心情を表現する最大の見せ場が訪れました。
「本当のママだって僕がいらなくて捨てたのに」
「僕を欲しがる人なんて誰もいるわけない」
山川君、「oioi」仕込みの手話で見事演じ切りました。
「oioi」のパフォーマンスに影響を受け、自分たちの表現に手話を取り入れようとしているアーティストもいます。
京都を拠点に活動している姉妹タップデュオ puspa(プシュパ)です。
6年前、ポルトガルで開催された「ダンスワールドカップ」において金メダルを獲得した実力派です。
2人は去年、大学生向けのワークショップで「oioi」と共演しました。既に手話を学んでいた2人ですが、「oioi」に出会うまで、自分たちのダンスに手話を取り入れようとは考えもしなかったと言います。
中西優華さん
「『oioi』さんのパフォーマンスがとても魅力的で、私もそういうパフォーマンスをしてみたいと純粋に思ったところが一番のキッカケかなと思います。やってみて、こういう表現の仕方もあるんだなという ひらめきみたいなものもありましたし。」
中西浄華さん
「手話っていう決まった形にとらわれない、ひとつの表現方法だったり、コミュニケーションをとる手段として幅広く考えていっていいんだなみたいな。すごく衝撃的に印象がガラッと変わったというのは、やっぱりoioiさんとの出会いは大きかったですね。」
2人は「oioi」の代表 岡﨑さんに、ダンスに手話を取り入れるための助言を依頼しました。
まずは、曲の歌詞をどのように手話で表現するか確認します。
タップダンスと手話、果たしてどんな感じになるのでしょう。
しかし、なかなかタップが出てきません。
中西優華さん
「『冒険』が、足が動くことによって手話の動きじゃなくなる。なんか怖い。」
中西浄華さん
「なんか心配な感じ。」
手話の動きを正確にやろうとすると、肝心のタップが邪魔になるというのです。
すると、岡﨑さんから あるアイディアが…
oioi代表 岡﨑伸彦さん
「音楽に合わせるんじゃなくて、歌声に合わせるのだったら?声に合わせてタップだったら、たぶん手話の動きとも足が合う、かな?」
音楽ではなく手話に合わせてタップをする。数々の手話パフォーマンスを作り上げてきた 岡﨑さんならではのアドバイスです。
およそ2週間後
「puspa」が初めて手話タップを披露する日がやってきました。場所は、子ども向けテーマパークに設けられたステージです。
中西浄華さん
「手話という目で見てわかる言葉も勉強しているんですよ。きょうのために、手話パフォーマンスを準備してきました。」
一体どんなパフォーマンスに仕上がったのでしょうか。
手話の出るタイミングで刻むタップ。
初挑戦の手話タップ。今後につながる第1歩です。
観客の女性
「ドドドドド、おもしろいなと思って。分かりました、ドラえもん(の手話)。体を使って意味のあることも多いので覚えやすい。印象に残るのが多いかなとは思います。」
中西浄華さん
「『少し』っていう言語的な情報だけじゃなくて、目を細めてみたりとか、動きをパッと見やすく止めたりとか、純粋にパフォーマンスのおもしろさとして、お客様に伝わったのかなっていう実感は感じています。」
中西優華さん
「自分たちが今までやってきたタップダンスとか、他のダンスとかもいろいろ経験を混ぜ合わせて、自分たちらしい手話パフォーマンスがいつか出来るように頑張りたいと思います。」
「oioi」の影響による、聞こえる人の手話の広がりは他にも。
新型コロナの影響でイベントが激減していた「oioi」。試験的にオンライン手話講座を行いました。
京都市在住の浅田綾乃さん。浅田さんは9月、この手話講座を受講し、大きな感銘を受けたといいます。
浅田綾乃さん
「皆さんすごくパワーがあって、明るくて気さくで、人間力みたいなものにひかれて、伝える力がすごくあって、その伝える力っていうのは自分自身が手話を勉強することで、日常のコミュニケーションにも生かせるだろうと思った。」
「oioi」の手話講座を通し、楽しい気分を味わった浅田さん。手話に大きな可能性を感じました。
そこで浅田さんは、地域のまちづくりについて話し合う異業種交流会を活用することにしました。手話がもっとあふれる街づくりが出来ないか、みんなに呼びかけます。
この日は「oioi」の手話講座を受け、初めての参加者との集いでした。
浅田綾乃さん
「今回、手話ってものに出会って、私たちが使わないのがもったいないと思っていて、当たり前を覆したいというか。」
参加者
「みんなが、ありがとうとか、こんにちはと(手話で)話しかけられると素敵ですよね。」
浅田さんの提言にみんなが賛同。手話が身近にある暮らしの実現に向け、話し合いを続けていくことになりました。
エンターテインメントを通して、楽しく手話を。
「oioi」メンバーたちの思いがますます広がります。
oioi代表 岡﨑伸彦さん
「やっぱり、やったことがないのに、手話に対するハードルが高いっていう状況はすごくもったいないと思うんですね。要はキッカケなんですね、きっと。そのキッカケをうまいこと作ってけたら、社会は一気に変わりそうだという気がする。」