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ろうを生きる 難聴を生きる▽“手話×カフェ”誕生!~自分らしく働ける場※字幕

    6月、手話を共通言語とするカフェが誕生、スタッフ25人のうち、7割以上が聴覚障害者です。聞こえない人の社会進出が進むものの、聞こえる人の中でマイノリティーとして言葉の壁に悩む実態は深刻です。そうした問題に一石を投じる「手話×カフェ」の取り組みを取材。手話のコミュニケーションは、新人スタッフの成長や独自の連携方法を生み出していきます。「聞こえない人が自分らしく働くことができる場」のあり方を考えます。

    出演者ほか

    【語り】高山久美子

    番組ダイジェスト

    “手話×カフェ”誕生!~自分らしく働ける場

    6月、東京都内に ある画期的なお店がオープンしました。

    スタッフ
    「すみません、耳が聞こえないので指差しで注文をお願いします。」

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    働くスタッフのおよそ8割は聴覚に障害があります。大手コーヒーチェーンが始めた、手話で接客するカフェです。

    堀口一真さん
    「お互い障害を持っている人同士なので、みんなが理解しあい、チームワークもすぐに築けるんじゃないかと思います。」

    これまで接客の仕事を諦めていたスタッフも多くいます。皆で力を合わせ、理想のお店を目指します。
    しかしオープン前のトレーニング、失敗が続いていました。

    「大丈夫?」

    「(一度に)みんなが聞きに行くと、そこで集まって、お客様を放置してしまいます。」

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    果たして、手話が飛び交う“手話×カフェ”は成功するのか?との取り組みを見つめました。


    6月中旬、2週間後のオープンを前にスタッフが集まっていました。総勢25人です。

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    既に各店舗で働いていたスタッフに加え、今回 新たに採用された人も9人います。まずは、それぞれ自己紹介から。もちろんカフェの共通言語となる手話で行います。

    ろうのスタッフ 佐藤涼太郎さん
    「スターバックス歴は大学1年生からで、アルバイトとして入って、もう4年くらいになります。昨年、正社員になりました。」

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    聞こえるスタッフも手話で挨拶。

    聞こえるスタッフ 金田優季さん
    「頑張るから、みなさん助けてください。よろしくお願いします。」

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    今回、新たに採用されたスタッフの1人、福田愛実さんです。人と関わることが大好きだといいます。

    福田愛実さん
    「すごくワクワクしますし、新しい一歩というイメージです。そんな雰囲気なので、とてもうれしいです。」

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    この大手コーヒーチェーンでは、障害者雇用を積極的に進めてきました。現在、全国の店舗で働く聴覚障害者は65人にまで増えています。それに伴い、自分たちがもっと働きやすい環境を模索する話し合いが2年前にスタート。手話で働ける、言葉の壁がない職場を目指し、今回の店舗をオープンすることになったのです。こうした取り組みは、すでにマレーシアや中国などで始まっています。日本が5店舗目です。

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    店の中は、手話で接客する上でのさまざまな工夫がされています。

    佐藤涼太郎さん
    「(お客さんに)手話が見えやすくなるよう、カウンターを低めにしています。」

    手話ができないお客さんに向けては、指差し用のメニューを準備しています。

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    そして、スタッフには入念に研修を行います。新人の福田さんは、今回なみなみならぬ強い思いで臨んでいました。

    以前働いていたのは、聞こえるスタッフばかりの飲食店。しかし、言葉の壁によるトラブルに悩み、孤立してしまった経験がありました。

    福田愛実さん
    「店長から『これをやって欲しい』と言われたんですけど、私の後ろから言われていたので、気が付かないまま仕事をしていて、店長に『これをやってって言ったのに どうしてやってないの?』と言われてしまったことがあるんですね。私自身は言われたことが分からなかったので、コミュニケーションがうまく取れなくて悔しい思いをしました。」


    この日はオープンに向けた接客のシミュレーションです。重要なのは商品を待たせず、素早く提供すること。スタッフ同士のスムーズな連携がカギです。

    聞こえるスタッフの場合は声で連携。シロップの量や複雑なトッピングまで細かく伝えると、別のスタッフがすぐに作り始めます。今回スタッフたちが考えたのは、声に代わる方法です。接客するスタッフのレジの画面を、後方で別のスタッフがすばやく目で見て確認。注文内容を共有することにしました。

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    まずは、ベテランスタッフがお手本を見せます。注文と同時にすぐに画面をチェック。

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    お客さん役
    「シロップは少なめで。」

    佐藤涼太郎さん
    「甘さ控えめですね?かしこまりました。」

    スムーズな動きで作り始めます。

    追加のオーダーは、目を合わせ、素早く手話で伝えます。

    佐藤涼太郎さん
    「スコーンは2種類ありますが、どちらになさいますか?」

    お客さん役
    「チョコレートの方で。」

    佐藤涼太郎さん
    「温めますか?」

    お客さん役
    「お願いします。」

    佐藤涼太郎さん
    「チョコレートをひとつ温めてください。」

    スタッフ
    「はい。」

    佐藤涼太郎さん
    「いちごタルトひとつ追加ですね、かしこまりました。」

    佐藤涼太郎さん
    「店内でお召し上がりです。」

    スタッフ
    「はい。」

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    続いて福田さんの出番。先輩に混じって、初めてのシミュレーションに挑みます。

    「はじめ!」

    オープンまでに、全員がそれぞれの役割をきちんとこなせるようになっている必要があります。

    福田さんの業務は、レジの後ろでのサポート。持ち帰り用の袋の準備や、フロアでの接客が役目です。先輩たちのようにうまくできるのか?

    持ち帰り用の袋を用意する場面、先輩に先を越されてしまいました。

    「大丈夫?」

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    本来は、フロアで注文を待つ客にも気を配らなければなりませんが…なかなかうまく動けません。

    「何人で働いているかを覚えておくこと。(一度に)みんなが聞きに行くと、そこで集まって、お客様を放置してしまいます。」

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    福田愛実さん
    「前の職場では聞こえるお客様が多かったんです。お客様が並んで混んできたときに『こちらに並んでください』という案内は、すべて聞こえるスタッフに任せていました。今回は全部自分でやらなければいけないので、大変だなということが分かりました。」

    先輩スタッフ 佐藤涼太郎さん
    「入ったばかりなので、戸惑いもあって難しかったんじゃないかなと思います。その気持ちはすごく分かります。少しずつ慣れるよう、練習を重ねていけばいいと思います。一緒に頑張ります。」

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    6月下旬、ついに店舗がオープンしました。

    スタッフ
    「すみません、耳が聞こえないので指差しで注文をお願いします。」

    手話ができない客には指差しメニューで対応、順調です。

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    やってきたのは、最近 手話を勉強し始めたという小学生です。

    「ありがとう。」

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    小学生の女の子
    「なんかドキドキしました。」

    Q 今、手話は何ができるんですか?

    小学生の女の子
    「『おはよう』と『こんにちは』と『ありがとう』ができます。『さようなら』もできます。」

    地元のろう学校の生徒もやってきました。

    スタッフ
    「髪型オシャレだね、かわいいね。」

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    福田愛実さん
    「イチゴフラペチーノのホイップ多めです。」

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    福田さん、笑顔でスムーズな接客ができています。

    お客さん
    「いつも注文するとき、コミュニケーションがとれないので時間がかかるんですけど、ここはコミュニケーションがとれるのでスムーズに注文できて、すごくよかったです。」

    「店員さんがいろいろな話題を作って話しかけてくれて、うれしい気持ちになりました。」

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    オーダーの詳細は、レジの画面でさりげなくチェック。すぐにドリンクに取り掛かります。

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    手際よくサポート業務がこなせるようになっていました。

    実はトレーニング期間中…

    福田愛実さん
    「バッグのボタンがどこにあるかが分からないです。」

    先輩たちをつかまえ、分からないことを手話で細かく教わっていたのです。

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    仕事の合間は手話で雑談。何気ないやり取りがチームの連携を深めていました。

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    福田愛実さん
    「ろうの先輩もいますし、手話ができる聞こえるスタッフもいます。悩みや不安があれば、すぐに聞くことができるので、すごくいいと思います。」

    銀行から転職したろう者 堀口一真さん
    「お互いに障害を持っている人同士なので、みんなが理解しあい、チームワークをすぐに築けるんじゃないかと思います。これからも少しずつ成長していけたらと思います。」

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    この日、店舗を見学にやって来たのは岩山誠さん。全日本ろうあ連盟で労働問題に携わってきました。

    岩山誠さん
    「岩山と申します。」

    佐藤涼太郎さん
    「私は佐藤です。よろしくお願いします。」

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    職場での孤立や人間関係など、聞こえる人たちの中で働く人からの相談は 後を絶たないと言います。そこで今回、注目される このカフェを見学に来たのです。
    岩山さんが着目したのは、生き生きと働くスタッフの表情です。やりたい仕事ができているという充実感にあふれていました。

    全日本ろうあ連盟 福祉・労働委員会 岩山誠さん
    「今まで企業は、その障害者ができる仕事を与えてしまう傾向があったと思います。できる範囲というのは企業側の思い込みなんですね。もし環境をもっと整えれば、障害を持つ方たちも、もっと能力を発揮できるかもしれない。そういう意味では同じようなサービス業の企業としても、いいモデルになるのではと思っています。」

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    当事者が声を上げ、自分らしく働ける環境を実現したカフェ。この取り組みは、障害者雇用の未来を大きく変えていくかもしれません。

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