【出演】江副悟史,【ゲスト】弁護士…田門浩,宮城教育大学准教授…松﨑丈,看護師…皆川愛
新型コロナウイルスの影響により、外出自粛、休校延長など、私たちの社会生活には今、大きな影響が出ています。
番組で、ろう者・難聴者を中心にアンケートを実施したところ、400件を超える回答が届きました。
「コロナウイルスの感染拡大でろう者が困ることはマスクのことだと思います。コンビニの店員さんなどがみんなマスクをしているため、口話をされても分からないと言っていました。」
「もし病院に行くとしたら、おばあちゃんもおじいちゃんも、ろう者なので、筆談で正しく通じるかが分かりません。手話通訳を連れて行っていいのかが分かりません。」
不安、孤立感、それでも前向きに乗り切ろうというメッセージ。それらをもとに、番組をお届けします。
「みなさんも、家にいる時間を大事に楽しんでいきましょう!」
日本ろう者劇団 代表 江副悟史
「司会をつとめる、ろうの江副悟史です。新型コロナウイルスによる影響が大きくなっている今、全国のろう者・難聴者は、どのような状況におかれているのでしょうか。先週に引き続き、みなさんから届いた声をお伝えするとともに、これからに向けて、私たちは何ができるのかを考えます。ろう者・難聴者が『聞こえる人とは違う事情で困っていること』についてアンケートをとったところ、このような悩みが浮かび上がってきました。」
「1位 コミュニケーションの不安、2位 情報が入手できない、3位 オンライン(会議・講義など)になって内容がつかめない。みなさんからのお悩みを、今週も、このお三方と一緒に考えていきます。まず、弁護士の田門浩さん(左)。次に、聴覚障害者のコミュニケーション問題に詳しい、宮城教育大学准教授の松﨑丈さん(右)。そしてアメリカからのご参加もあります。看護師でもあり、ギャローデット大学院に日本財団の奨学を得て留学中の、皆川愛さんです。みなさん、やはりコミュニケーションに悩んでいらっしゃいますよね。」
60代 緑の屋根さん
“手話で話せる場がなくなった。周りは聞こえる人ばかりで、聞こえない自分は透明人間のような気持ち。機械的に生きている感じ。”
江副悟史
「対面で会えない、手話を使えないことによる孤独を解消するための工夫はあるのでしょうか。看護師の皆川さん、いかがですか。」
看護師 ギャローデット大学・大学院 皆川愛さん
「LINEのようなビデオ通話で、ろう者と手話で話して、つながりを持つ方法があります。以前とは全く異なる状況ですので、ストレスを感じたり、不安になったりするのは当たり前のことです。もし生活ができないような状況、例えば眠れないとか、食欲がないといったときには、地域の情報提供施設のろうあ者相談員にビデオ通話で話をしたり、FAXで相談したりすることができます。また、市役所の障害福祉課や、地域の精神保健福祉センターに相談するなど、いろいろな場所を活用することができます。」
江副悟史
「特に若い世代から寄せられているのが、こちら。会議や講義がオンラインで、内容がつかめないという悩みです。」
20代 きみちゃんさん
“大学のオンライン講義の情報保障が固まっておらず、文字起こし資料はあるが、かなりまとめられている上に、今どこをしゃべっているのかが分かりづらい。友人は、大学から「情報保障をつけられない」とはっきり言われている。”
江副悟史
「松﨑さん、どう感じますか?」
宮城教育大学 准教授 松﨑丈さん
「今、大学もオンライン体制を整え始めたばかりで、どうすればいいのか分からないという状況があります。教員の場合、教室と比べると、ろうの学生の状況がオンラインでは見えないので、相手がどのように困っているのか分からないという状況があります。ですから、ろうの学生から『情報をとらえにくいんだ』ということをはっきりと伝えていく必要があると思います。そのようなところを、相談しながら進めていくことが必要だと思います。」
江副悟史
「伝える力も必要ですね。オンラインについて、就活のお悩みも寄せられています。」
20代 リョウさん
“軽中度の難聴の場合、テレビ会議では聞き取りづらく、就活では、面接官の質問にうまく対応できない。応募企業に配慮を求めることで、採用評価に影響があるのではないかとの懸念から求めにくい。”
江副悟史
「法律面からは、田門さん、いかがでしょうか?」
弁護士 田門浩さん
「日本には『障害者雇用促進法』というものがあります。『募集や採用の際には合理的配慮をしなければならない。それが法的義務である』というふうに書かれています。ですので、例えば難聴者の場合は、テレビ会議で、音声が聞こえないときには、テレビ会議に加えて、携帯電話で別ラインをつなぐという形で要望を出していくとよいと思います。また、手話通訳が必要だという場合には、会社に要望しづらいときには、市町村の窓口に手話通訳派遣を依頼して、手話通訳に同席してもらった上で、テレビ会議などに参加するという方法もあると思います。」
江副悟史
「3人も現在オンラインを利用していると思いますが、情報保障はどうしていますか?まず、田門さん。」
田門浩さん
「私の場合、雇用している手話通訳者がいます。現在は手話通訳者も私も自宅で仕事をしている状況です。もし電話がかかってきたときには、手話通訳者の携帯に電話がかかって、その後、私と通訳者がビデオ通話でつないで、手話でやりとりができるというような体制です。」
皆川愛さん
「ギャローデット大学の公用語は、アメリカ手話なんです。ですから、みんな手話で話します。ビデオ通話のときには、たくさん画面が並ぶので、手話が小さくて見えにくいんですけど、手話で話せて幸せだと思います。」
松﨑丈さん
「私は大学の中で学生指導に当たっているんですが、聴者の学生の場合、手話が分からない人がいるんですね。その場合、私が手話で話をして、読み取り通訳が音声にしたものを録画して、それを動画で配信するという形をとっています。」
江副悟史
「なるほど。みなさん、ありがとうございました。今回、番組宛に動画でメッセージをくださる人も多くいました。休校の子どもたちへのビデオレターです。」
<坂戸ろう学校の先生たち>
「坂戸ろう学園のみなさん、元気ですか?」
「学校には来ないけど、生活リズムはしっかりとね?」
「もちろん、トレーニングも大事です!筋骨隆々!」
「手洗い・うがい、しっかりやってね!」
「ババンババンバンバン♪お風呂にも入ってるかな?」
「宿題やっていますか?提出される日が楽しみです!もし忘れた場合は、放課後…」
「放課後…のマンツーマンは嫌ですよね?」
「だからみなさん、分かっていますね?宿題出してね、また元気で会おう!」
<立川ろう学校の先生たち>
「君はひとりじゃない。今は離ればなれでも、心はつながっているよ。」
「だからみんなで一緒に頑張ろう!」
「笑顔になる魔法の手話を使おう!頑張って!」
「頑張って!」
江副悟史
「ろう学校でも在宅勤務が進んでいますが、子どもたちの不安を少しでも和らげたいと、必要なときに学校に来た先生たちがメッセージをくれました。ありがとうございます。
この春から熊本県の特別支援学校の教員になった橋本紗貴さんからのメッセージです。橋本さんは弱視で難聴です。」
特別支援学校 教諭 橋本紗貴さん
「みなさん、こんにちは。私の名前は、橋本紗貴といいます。私はこの春から特別支援学校教諭として働いています。当たり前だった日常が、当たり前でなくなる。私は10年前に病気を発症し、視覚・聴覚・両手足、その他さまざまな機能に障害が残り、車いす生活になりました。車いす生活になって、今年で10年目です。車いす生活になった私が大切にしていることが3つあります。1つ目、当たり前のことを当たり前と思わずに感謝すること。2つ目、悔いのないように毎日を生きること。3つ目、挑戦し続けること。私は、『障害があってもなくても、ともに学べる学校にしたい』『公平に学べる環境を整えたい』という思いで教師を目指しました。みなさんとたくさんコミュニケーションをとり、楽しく授業や学校生活を送りたいと思っています。学校再開後、みなさんとお会いできるのを楽しみにしています。これから、よろしくお願いします。」
江副悟史
「最後に、感染拡大を防止するために、今私たちができることを改めてお伝えします。
新型コロナウイルスは、せきやくしゃみなどで飛まつが飛んだり、その飛まつがついた手で、みんなが使う場所を触ることで感染するとされています。それを防ぐのが『せきエチケット』。まず効果的なのはマスクの着用です。マスクをつけていない場合は、手のひらではなく腕で口や鼻を覆います。もし手のひらで覆って、せきやくしゃみをした場合、他の物を触る前に、すぐに手を洗いましょう。」
林田理沙アナウンサー
「せきエチケットを守って、感染を広げないようにしましょう。」
江副悟史
「今日は434人の声をもとに番組をお届けしました。」
NHKのWebサイトでは、新型コロナウイルスの感染防止のポイントや、相談窓口の情報をまとめた、字幕と手話付きのショート動画を公開しています。外出自粛中で運動不足の皆さんへ、家の中で手軽にできる体操や筋トレなどの動画もあります。ぜひご覧ください。