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ろうを生きる 難聴を生きる「聞こえない患者に安心を!」<字幕スーパー>

    ろう者で乳がん患者の川淵一江さん。医療関係者とともに、手話表現の勉強会などを開催。聞こえない患者への支援をしています。きっかけは、自身の闘病体験。手術室では通訳者のいない不安で号泣、さらに抗がん剤治療中は吐き気で手話さえ辛かったといいます。そんな川淵さん、今年から聞こえない患者が自身の病状を楽に伝えられるアイテムを制作中。誰もが安心して医療を受けられるために奮闘する、川淵さんに迫ります。

    出演者ほか

    【語り】高山久美子

    番組ダイジェスト

    聞こえない患者に安心を!

    あなたは、がんなどの重い病気になったとき、安心して医療を受けられますか?

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    この日、6年前に乳がんの告知を受けた川淵一江さんは、手話通訳と一緒に病院にやってきました。

    看護師
    「川淵さーん。」

    手話通訳
    「呼んでますよ。」

    現在、川淵さんは経過観察中で、定期的な通院には手話通訳を伴っています。

    医師
    「これね、この前撮影したCT検査ですけど、(結果も)全く異常なかったですからね。」

    川淵一江さん
    「やったー。」

    こうした診察の際、手話通訳がつく体制は十分に整っていません。手話が使えないため、筆談などでやり取りしています。難しい用語を十分に理解できず、不安を抱えたまま医療を受けることも多いのです。
    川淵さんは、そんな現状を変えようと、患者としての経験をいかして、病院関係者とともに活動をしています。

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    川淵一江さん
    「粉薬は手話だと、どうすればいいかな?破いて飲む、細かい動き、いいですね。」

    聞こえない患者が安心して医療を受けられるように―川淵さんの取り組みを追いました。

    川淵さんが、がんの治療を受けた、市立伊丹病院です。

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    ろうや難聴の患者に手厚いサポートが行われています。
    まず受付に置かれているのが…「耳マークカード」。その人が望むコミュニケーションの方法を自ら示すことができるようにしています。

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    窓口には簡単な手話ができる職員もいます。さらに常勤の手話通訳者もいて、患者と医師との(スムーズな)やり取りを支えています。

    医師
    「前から飲んでるお薬と、いまのお薬を付け加えるとよくなる感じですかね。分かりました。」

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    患者
    「ひとつはまあ足がおかしいなと感じることがあるんですが、力が入らないような感じが…。」

    病院全体で聞こえない人への理解を深め、手厚いサポートを行っている背景には、あるグループの活動があります。

    川淵一江さん
    「いくよー(6時半から手話の)勉強ですよ。」

    手話サークルたんぽぽ。週に一度、病院の関係者が食堂に集まり、患者に伝わりやすい手話表現を勉強しています。川淵さんは、このサークルの中心メンバーです。

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    この日は、いろいろな薬をどう伝えればよいか検討しています。日本語に対応する手話があっても、ろう者にとってわかりづらく、うまく伝わらないことがあるためです。

    川淵一江さん
    「シロップは手話だとどうすればいいかな?」

    「(ふたを)あけて注いで飲む。」

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    川淵一江さん
    「粉薬は手話だと、どうすればいいかな?
    破いて飲む。細かい動き、いいですね。」

    さらに、薬の処方で使われる言葉。

    江木洋子さん
    「間っていうのは、私たちの日本語ですよね。『食間』って、それを手話で、かーんっていって表したら…。」

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    川淵さんの手話通訳をしているこの病院の元看護師、江木洋子さんが伝え方をレクチャーします。

    江木洋子さん
    「その人の食生活に合わせて説明するとイメージが分かりますよね。朝ごはん、時間何時に食べるの―。」

    薬局事務員
    「ろう者の方がよく利用されています。それで心細いんじゃないかと思って。ろう者の方が顔なじみになると、一番は笑顔で対応できるので、それがすごく救われます。」

    医療事務職員
    「(手話は必要だと考えが)すごい変わりました。最初はそれこそ筆談とかでいいんじゃないかとか、具体的にやっぱり説明しないと、誤解が生じたりとかというのもあるし。」

    この日、川淵さんは、父・幸夫さんとともに、ある人のお墓参りに出かけました。

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    川淵さんのいまの活動に大きな影響を与えた人です。20年前に亡くなった川淵さんの母・佐代子さんです。

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    佐代子さんもろう者で(川淵さんと)同じく乳がんを患っていました。佐代子さんの入院中の周囲との接し方は、ふだんの控えめな母親とは大きく違っていたといいます。

    父 幸夫さん
    「(母さんは入院して)変わったよね!」

    川淵一江さん
    「無口でおとなしい母親でしたが、入院して『コミュニケーションがとれない』と苦しむのではなく、我慢せずに、母親は看護師さんや患者さんにも手話を教えてコミュニケーションしていました。そのうれしそうな姿を見ていたので、私も同じようになりたいと思いました。」

    そして佐代子さんが亡くなった14年後、川淵さん自身も乳がんにかかりました。母の闘病をそばで見てきた川淵さんは、コミュニケーションをとる上で様々な工夫をしていきます。これは周りの人たちに自分が聴覚障害者であることを知らせるために自ら作ったカードです。

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    川淵一江さん
    「お医者さんや看護師さんは私がきこえないことをしてくれていますが、お掃除などのスタッフの方は知らなかったりするので、一人一人に説明すると大変だし、これを置くことで、きこえない私がいることを理解してもらう、そんなアピールをしました。」

    さらに、看護師に自身の体調の変化を的確に伝えられるようにチェックシートを作成。毎日書き込んで、いつでも見せられるようにしていました。

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    川淵さん親子を看護師として支えたのが、江木さんです。

    江木洋子さん
    「いいもの見せてあげるわ。」

    両親がろう者で手話ができた江木さんは、佐代子さんの来院をきっかけに手話通訳を始めたのです。

    江木洋子さん
    「お母さんの表情が明るくなってうれしそうにされていたのでよかったなと私自身も思ったし、医療の立場の人たちもよかったと言ってもらえた。それ(通訳すること)はどちらにとっても通訳する事が大事なことなんだと思いましたね。」

    聞こえない患者の努力だけでなく、病院側も支える体制を整える必要があると痛感した江木さん。25年前、手話サークルたんぽぽを設立し、病院関係者への啓発を進めてきました。そして川淵さんの入院中も、闘病をそばで支えることになります。川淵さんは退院後、江木さんの活動に加わりました。患者としての経験から本当に必要な手話を楽しく学べるようユニークなアイデアグッズを作り、メンバーと一緒に勉強しています。

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    メンバー
    「『心臓』『肺』『胃』を手話でやって。」

    メンバー
    「『心臓』『肺』『胃』。」

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    川淵さんは入院中、江木さんの丁寧なサポートを受けてはいましたが、がんの闘病は甘いものではなかったといいます。手術を受けたときには、思わぬ事態にパニックにおちいりました。

    川淵一江さん
    「手術室に通訳者の方と一緒に行って安心していたら、突然通訳者の方が立ち止まって、『ここから(病院の決まりで)私は入れないからね』って言われたときに、すごいびっくりしました。頼る通訳者はいないっていうことで、心はもう落ち着かなくなって、涙がどんどんどんどん止まらなくなりました。」

    さらに手術後の抗がん剤治療中は、痛みや吐き気で手話をすることすらつらかったといいます。自分が経験したような不安やストレスをできるだけ取り除くにはどうしたらいいのか?川淵さんはメンバーで話し合い、様々なグッズの開発を進めています。
    今、製作しているのは手話ができない状態でも具体的に痛みや症状を伝えられる指差しカード。表示する文言やデザインについて検討を重ねています。どんな項目があれば、患者が最初の訴えをスムーズに行えるか?適切な治療に素早くつなげることができるものを目指しています。

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    さらに自分の痛みの度合いを数値で示せるカードも考えました。

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    川淵一江さん
    「ろう者は痛みをうまく表せないので、『このあたりです』と数字で表しやすいといいかなと思って。」

    江木洋子さん
    「手話付きの(入院案内)映像を作りたいと思っています。」

    患者を支える側の江木さんから提案されたのは、入院手続きを手話付きで説明する映像の制作です。病院内の細かいルールなども事前に分かっていれば、入院生活もトラブルなく送ることができます。

    「私も入院した時に知らなくて、ガラスのコップは持ってきてはダメと言われた。」

    「なんで?」

    「地震の時に落ちたら割れるから。」

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    川淵一江さん
    「ろう者が安心して何の気兼ねもなく病院に来れることを目指しています。ろう者への理解と簡単な手話でいいので、手話を使ってほしいなと思います。」

    聞こえない人が聞こえる人と同じように治療を受け、健康で楽しい生活を取り戻せるように。川淵さんはみんなで知恵をあわせ、よりよい環境を作っていきたいと考えています。

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