自殺について語ろう

生きづらく、息苦しい社会を
変えることはできるはず。(後編)

2008年7月4日、NPO法人ライフリンクを中心とした「自殺実態解析プロジェクトチーム」は、「自殺実態白書2008」を発表しました。この白書の作成に尽力した、ライフリンクの代表・清水康之さんにお話をうかがいます。
(2008年度掲載)

清水康之さん(しみず・やすゆき)
1972年、東京生まれ。97~04年までNHKディレクター。番組制作の過程で自死遺児の人々と出会い、自殺対策の活動に取り組みはじめる。2004年、NHKを退職し、ライフリンクを設立。以来、代表をつとめている。

自殺対策の推進を後押しするために
「自殺実態白書2008」をまとめて政府に提出

2008年7月4日、ライフリンクが中心となって作る民間有志のプロジェクトチーム「自殺実態解析プロジェクトチーム」は、「自殺実態白書2008」を自殺対策担当の岸田文雄内閣府特命相に提出しました。
2008年7月4日、NPO法人ライフリンクが中心となって作る民間有志のプロジェクトチームが、自殺の実態をはじめて詳細にまとめた「自殺実態白書2008」〈注1〉を発表、政府に提出しました。
2006年に「自殺対策基本法」ができたことで、官民が連携して、社会全体で自殺対策に取り組む枠組みはできました。ただ、これまで自殺の実態がよく分からなかったがために、その枠組みの中でどのような対策を実践すればよいのかということが見えていませんでした。
各地域で足踏み状態に陥ってしまっている自殺対策を、より実効性の高い形で推進していく一助になればと、今回まとめたのが「自殺実態白書2008」です。

「自殺実態白書2008」には、大きく2つの柱があります。
ひとつは、「自殺の地域特性」の解明です。これは、これまで一切公表されることのなかった警察署単位のデータ(警察庁の自殺統計原票をもとにしたデータ)を用いて、プロジェクトチームのメンバーである東京大学経済学部の澤田康幸准教授(厚労省が管轄する研究所の客員研究者)が中心になって行いました。はじめて、全国の市区町村単位で「自殺の実態」を明らかにすることができた、その意義は非常に大きいと思います。
もうひとつは、「自殺の危機経路」の解明です。ライフリンクが昨年より行っている「自殺実態1000人調査」をもとに、遺族の方たちと協力しながら、自殺で亡くなられた方305人分の実態分析を行いました。その中で、「自殺の背景には平均して四つの危機要因があること」や「自殺に至るまでには3つの進行段階があること」、「自殺で亡くなった7割以上の人が、亡くなる前に医療機関などに相談に行っていたこと」などがはじめて分かってきました。
これまで漠然としか分からなかった日本の自殺の実態が、両者の解析結果を重ね合わせることで、はじめて立体的に見えてくるようになったのです。

過酷な現実と向き合ったその先には
かすかではあってもきっと「光」が見えてくる

白書を大臣に提出した後の記者会見の様子。左から、東大・澤田康幸准教授、ライフリンク・清水さん、議員有志の会会長・尾辻秀久議員、議員有志の会事務局長・柳澤光美議員。
これまで私たちの社会は「死を直視する」ことを避けてきたように思います。
そのため「死から学ぶ」こともできずに、必要な対策が何かを理解することもできずに、「同じような形で人が自殺へと追い込まれていく現実」を見過ごす結果となってきました。自殺の実態と向き合おうとせず、対策の必要性だけを叫んできたことのツケが、「10年連続年間自殺者3万人」という過酷な現実なのだと私は思っています。
ですから、もういい加減に、私たちはこの現実と正面切って向き合うべきです。
例えそれが目を背けたくなるようなものであったとしても、それと向き合うことからしか、私たちはその先に進んでいくことはできません。
自殺は、様々な社会問題が最も深刻化した末に起きています。社会問題の縮図が「自殺」なのです。私たちが抱える生きづらさや息苦しさを考える上でも、「自殺」というフィルターを通してこの社会のあり方を見つめていくこと。「死から学ぶ」という謙虚な姿勢を、社会が、私たち一人ひとりが、まず持つことです。
その上で、自殺で亡くなっていった人たちから学んだことを、つまり「なぜ自殺せざるを得なかったのか」「どういった支援策があれば死ではなく生きる道を選ぶことができたのか」を、確実に対策の実践につなげていくことが重要です。
そうやって自殺対策という「生きる支援」を社会全体で行っていけば、必ずや「生き心地の良い社会」を作っていくことができるはずと、私は思っています。

〈注1〉「自殺実態白書2008」
自殺に追い込まれる人を一人でも減らすことを目的に、自殺の「地域特性」「危機経路」など、日本の自殺の実態に関するはじめての大規模調査をまとめたもの。

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