生命操作 -復刻版-

ケーススタディ30例

29 「人体実験に最適」

1988年2月、フランスのアミアン救急医療センターの麻酔科医アラン・ミヨー医師は、脳死になった青年に亜酸化窒素という猛毒ガスの吸入実験をおこなったということが明らかになった。患者に亜酸化窒素を吸入させるとどんな変化がおこるか確認したかったからだという。

この事件は、「人間モルモット」と報じられ、医師への非難が集中、当時のフランスのミッテラン大統領が「人間は道具ではないということを我々は忘れてはならない」と発言するなど、倫理的に大きな問題となった。しかし、大学病院の医師たちでつくる大学医師組合は「脳死は現代における死の状態であり、脳死体への研究の禁止は教会権力が数世紀にわたって死体解剖を禁止したのと同じだ」と抗議し、一人の医師の暴走行為でないことを示した。

アミアン予審裁判所判事はミヨー医師を傷害致死容疑で送検したが、89年11月免訴となった。実験前に本人や家族の同意をえなかったことも争点の一つだったが、ミヨー医師は、フランスでの臓器提供についての法律をひいて”生前の異議のない成人の臓器の摘出が可能”つまり、生前にNOといってないひとからの臓器提供が可能なら、実験についてもこの法律が適用できるはずと主張した。 この事件をうけて、フランスの国家倫理委員会は88年11月に「脳死体に関する医学/科学的実験に関する答申」を発表、「脳死状態のひとに実験をおこなうことはできない」としながらも、「生前に書面によって”科学あるいは科学的研究に自らの体を提供”したいと記されている場合はその限りとしない」と結論づけた。

ミヨー医師は、「脳死からの臓器提供と、脳死体を利用した実験には、倫理的にはなにも差はない」という。今までの医学研究は、動物実験のあと健康なひとの体でおこなっていたのを、脳死の状態でおこなったほうがよい、と考える。そして、臓器提供の意思表示カード(ドナーカード)と同様の、脳死での実験を認める「科学的遺言カード」の普及につとめたいと考えている。

脳死が死であるなら、本人が同意していればどんな実験も許されるのでしょうか。脳死での献体、解剖もありうるのでしょうか。
脳死体を血液製造器や、人工保育器として利用することも今後考えられるのでしょうか。

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