生命操作 -復刻版-

ケーススタディ30例

19 「保険にはいれない」

遺伝子診断で未来のカルテがわかるようになると、保険会社がそれを利用しようと考えはじめる。

アメリカ、テキサス州に住むスーザンさんは30才を過ぎてからというもの毎日、ハンチントン病の不安と闘っている。父親が13年前、ハンチントン病のために47才で亡くなっているからである。将来の健康に大きな不安を抱いた彼女は、保険に加入する手続きをとったが、保険会社はスーザンさんの父親がハンチントン病であることを理由に加入を断った。その内容は「加入を拒否する。しかし、遺伝子検査を受けるなら、再度考慮してもよい」というものだった。スーザンさんは、「遺伝子検査は受けたくありません。知りたくないのです。死ぬことが分かってしまったら、もう普通の生活は送れません。私は今はどこも悪いところはないのに、保険を拒否されたことは本当に腹が立ちます。」という。

ニューハンプシャー州に住むジェイミー・スティーブンソンさんは、1991年、家族6人全員の健康保険を突然打ち切られてしまった。息子のデービッドが精神発達遅滞をおこす遺伝病であることが、保険の支払い請求の際に、保険会社に知られたからである。夫婦と4人の子ども全員が保険にはいれなくなり、医療費が全額自己負担になってしまった。母親のジェイミーは、デービッドの精神発達遅滞は治療法がないが、健康の面では何も問題はなく、病気とはいえない。ふつうに生活をおくっているのに、保険をキャンセルされたことは納得できなかったという。彼女はその後、遺伝病をもつ人たちとともにサポートグループをつくり、州政府に対して運動をつづけた。その結果、1995年、遺伝病を理由とした保険の差別を禁止する州法が制定された。

2008年には、米国で遺伝情報差別禁止法(Genetic Information Nondiscrimination Act = GINA)が、連邦議会上院・下院でともに可決され、2008年5月21日、ブッシュ大統領の署名で成立した。遺伝情報差別に関する法案が提出されたのは1995年の11月であり、13年間におよぶ議論の末にようやくこれが成立したことになる。この遺伝子情報差別禁止法によって、健康保険、雇用保険で、遺伝情報にもとつく差別的扱いや、本人や家族に対して遺伝時検査を受けるよう要求すること、遺伝情報の提供を要求することや遺伝情報を購入することなどが禁止されることになった。

ページトップへ