生命操作 -復刻版-

ケーススタディ30例

14 「胎児細胞を集めろ」

1998年の時点で、アメリカの人体組織マーケットは少なくとも3兆円規模と言われていたが、既に胎児細胞もマーケットに出回り始めていた。
アメリカ臓器移植ネットワーク(UNOS)を通す臓器とは違って、胎児組織の調達・分配方法は確立されていない。さらに胎児組織を使った実験や組織の保存などについての規制もほとんどない。
ヒトの細胞を分離・培養する高度な生物学的な技術を商品として扱っている、アメリカのセルシステムズ社は、6箇所の病院と契約を結び、その病院内の手術などで切り取られた皮膚や臓器を入手し、そこから細胞を取り出し、研究材料として売っていた。出荷先は、アメリカ国内の大学や製薬メーカーなど3000ケ所以上、輸出先は世界30カ国にのぼる。なかでも胎児の細胞は多様な需要がある。血友病や糖尿病の遺伝子治療の研究に使われたり、肝臓細胞は失われた肝機能の再生の研究などに使われる。
セルシステムズ社の胎児の繊維芽細胞は、当時1単位250 ドルで売られていた。

胎児細胞の利用目的は病気の治療だけではない。
「人工皮膚」の製造は、歯茎の肉片についた口腔粘膜の粘膜細胞を一つ一つバラバラにするところから始まる。バラバラにした細胞を培養液に入れると、増殖して皮膚になるのだ。
この研究の最終目的は、細胞から人工肝臓や膵臓をつくることである。肝臓や膵臓をつくるには、成人の細胞では限界があり、成長過程にあって分裂能力を十分に保持している幹細胞を数多く持っている胎児細胞が必要となってくる。
軟骨の欠損などが原因の関節障害に対しては、金属製の人工関節を埋め込む手術が実施されているが、金属製の関節は、素材が磨耗するなどの欠点がある。大阪大学医学部は軟骨細胞を関節に移植する技術を開発したが、ここでも成人の軟骨細胞の増殖力が問題で、胎児の軟骨細胞を使えれば、技術的には実用可能な段階にきている。

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