生命操作 -復刻版-

ケーススタディ30例

09 「受精卵で遺伝子診断」

1989年、ロンドンのハマースミス病院は、ある遺伝病の発症を防ぐために、世界で初めて受精卵での遺伝子診断をおこなった。
受精卵は、受精後に細胞分裂を始め、2、4、8個と分かれていく。(ただし、ばらばらに分離するのではなく、8個はくっついている。)これは、DNAの正確なコピーが8つできたことを意味する。分裂した細胞のうちの一つのDNAが正常なら残りの細胞のDNAも正常である。そこで、体外受精でできた受精卵が8個の細胞に分かれたとき、1個か2個の細胞を分離して取り出し、DNAを調べ、DNAに異常があった受精卵は子宮には戻さないようにする。

世界初の受精卵の遺伝子診断を受けたイギリスの女性は、診断後、双子の女の子を出産した。彼女は、親戚が重い遺伝病で亡くなったことがきっかけで検査を受け、自分が遺伝病の保因者であることを知った。一度は子どもをもつことを諦めた夫妻は、女の子なら発病しないと聞いてハマースミス病院を訪ねた。受精卵の段階で、性別を決定する染色体上にある遺伝子を調べ、性別判断をおこない、発症の可能性のない女児の受精卵のみを子宮に戻したのである。彼女は、受精卵診断を受けたときの気持ちを次のように語った。
「もし普通に妊娠したら、性別が判る妊娠12週目まで待ち、その段階で病気の恐れのある子どもだと判ったら中絶を考えなければなりません。私はもともと中絶には反対なのです。受精卵診断は、受精直後に見極めるので、お腹で育っている赤ちゃんを中絶するのとは違い、気持ちの上で傷つくこともありません。私たちにとっては素晴らしい方法です。」
その後、性別判断だけではなく、ひとつの遺伝子の変異で病気が引き起こされる単一遺伝子疾患について、原因となる遺伝子を直接診断するようにもなった。受精卵が子宮に着床する前におこなわれることから「着床前診断」とよばれている。

受精卵の遺伝子を診断することについてどう思いますか。

日本では・・

 1998年に日本産科婦人科学会は、重篤な遺伝病に限って認めている。2014年末までに承認された着床前診断は370例。
 2014年12月、同学会は、体外受精をしても妊娠できなかたり、流産を繰り返したりする女性を対象に、受精卵のすべての染色体を特殊な検査法で調べ、異常がないものを選んで子宮に戻す「着床前スクリーニング」について、2015年度にも臨床研究として実施することを承認している。

こんなケースも・・

最近では、先に生まれた子に白血病などの病気があった場合、その子を救うために、骨髄移植のドナーとして適合する子どもを産もうと、受精卵を検査して、HLA型の一致する卵子だけを使って、体外受精を行うといった医療技術も登場している。(「救世主兄弟」ともよばれる。)フランスでは法律で認めている。

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