生命操作 -復刻版-

ケーススタディ30例

05 「研究用の受精卵が欲しい」

1994年、アメリカ国立衛生研究所(NIH)は、「ヒトの胚・受精卵研究に関する委員会の報告書」を受け取った。この報告書は研究目的のために受精卵をつくることの是非について検討している。

委員会はまず原則として、ヒトの受精卵の研究は受精後14日までは認められるべきだとした。
ヒトの受精卵は通常、受精後14日頃に「原始線条」という細い溝が現れる。これは身体の中心、背骨になっていく溝である。「原始線条」が現れた時点で、細胞は分化して特定の類型の組織になり始め、さらに神経系が発達して、感覚及び喜びや痛みを経験する能力の土台を成す脳の発達につながる。これを理由に、委員会は、ヒトの受精卵の研究は「原始線条」の出現時期、即ち受精後14日を越えておこなってはならないとした。
イギリスでも、これより先、1991年施行の法律によって、同様の理由からヒトの受精卵の研究を受精後14日までと定めている。

報告書の中で最も大きな批判を浴びたのは、純粋に研究目的のために受精卵をつくることも許されるとした部分だった。つまり、委員会は不妊治療の結果余った受精卵だけを研究に利用するのではなく、初めから研究目的のためだけに、体外で卵子と精子を受精させることも認められるべきであると結論づけたのだ。報告書では、卵子や精子の提供者として、健康なボランテイ アや、病気で卵巣を摘出する女性(摘出した卵巣から未成熟の卵母細胞を採取する)などを想定している。
研究用に受精させる理由としては、例えば、受精卵では、卵子と精子の受精の瞬間からの観察ができないなど、研究目的によっては、凍結受精卵は利用できないとしている。

この報告書を受けてクリントン大統領は、研究目的でヒトの受精卵をつくることに連邦資金を用いることは認めないという声明を出した。 現在、NIHは、 (1) 研究用にヒトの受精卵をつくること、 (2) 受精後14日までであっても、ヒトの受精卵を破壊もしくは廃棄するか、または子宮内の胎児の研究で容認されている以上に損傷・死亡のリスクが高いと知りながら故意に大きな危険にさらすような研究、 この2つに対しては連邦助成金は授与されない。

日本では・・

どんな臓器にでも分化できるヒト胚性幹細胞(ES細胞)研究のために、体外受精のために凍結されている受精卵で不要になったものについて、提供者の承諾があれば研究に使えることになっている。

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