生命操作 -復刻版-

ケーススタディ30例

02 「父親を知りたい」

1989年、アメリカのサンタ・バーバラに住むジョンソン夫妻は、人工授精によってブリタニー・ジョンソンを授かった。精子バンクから紹介された提供者(ドナー)の精子とジョンソン氏の精子を混合して、ジョンソン夫人の卵子に受精させたのだ。夫妻は精子提供を受けたことを彼らの両親にも話さず、ブリタニーが生まれた後は夫婦間でもその話題は一切口にせず、ジョンソン氏はブリタニーが自分の子だと信じていた。
しかし、ブリタニーが遺伝性の腎臓病であることがわかったときに、ジョンソン氏は検査を受け、その結果、ブリタニーの遺伝上の父は精子ドナーであることがはっきりした。ブリタニーの病気の進行を予測するにはドナーの病歴を知ることが必要だった。そこでジョンソン夫妻は精子バンクに対し、ドナーに関する情報提供と損害賠償を求める訴訟を起こした。ロサンゼルス第一審裁判所は、「子どもの健康に関するニーズはドナーのプライバシーにまさる」と、ジョンソン側の言い分を認めたが、被告側のバンクは、中間上訴裁判所に上訴し、ドナーの機密保持は、裁判所が命令を下さない限り契約書によって保証されると主張した。このバンク側の申し立てが認められ、ドナーのプライバシー権、及び、医師と患者(この場合はドナ-)の機密事項が保護されるべきであるという判決となった。

オーストラリア・ビクトリア州では、1998年1月1日より「1995年不妊治療法」が施行された。この法律によって、人工授精によって生まれた子どもは成人年齢(18歳)に達したときに、自分の遺伝上の父親の住所氏名などの身元情報を知る権利を100 %保証された。つまり、ドナーは子どもが身元情報にアクセスすることを拒否することができなくなった。ただし、子どもが経済的支援や財産分与をドナーに求めることはできない。ビクトリア州では、「子どもが自分のルーツを知る権利」を保証するという考え方から、既に養子を対象にした同様の趣旨の法律が1984年につくられている。

今では・・

先進国を中心に「出自を知る権利」について法律で認める動きが広がっており、スウェーデン、オーストリア、スイス、イギリスやニュージーランド、ノルウェー、オランダ、フィンランド、米国ワシントン、オーストラリアの4州、米国ワシントン州では提供者の名前や住所など提供者を特定できる情報が生まれた人に開示されることが法の下、保障されている。また、スペインやギリシャなどでは、提供者の国籍や病歴、遺伝的情報などの提供者が特定されない情報に限って開示するとしており、ドイツのように法はないものの、ドナーの身元を含む情報を実質、開示することが可能な国もある。

日本では・・

提供精子による人工授精は1949年から行われているが、「出自を知る権利」を定めた法律やガイドラインない。2014年提供精子で生まれたことを知った男性(40歳)が、遺伝上の父親を知りたいと治療を行った病院に文書で情報開示を求めたが、「資料は一切残っていない」と文書で回答されている。
クローズアップ現代「家族とは?親子とは? 揺らぐ法制度」2013年9月30日

こんなケースも・・

夫が死亡したあとに凍結保存していた精子を人工授精して妻が出産するいわゆる「死後生殖」について、2006年最高裁判所は死亡した夫と生まれた子どもの間に法律上の親子関係を認めない判決を出した。日本産科婦人科学会では、精子の凍結保存は本人が生存している間に限るとする指針を設けている。一方で、生殖医療などを専門に行っている全国の医療機関の20%が、がん治療によるダメージを避けるため精子を凍結保存していた場合であれば問題ないと考えている。
あなたは死後生殖についてどう考えますか?

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