双極性障害とは 基礎情報・支援情報

もくじ

躁」と「うつ」を繰り返す

「最高」から「最低」へと気分が激変します。

双極性障害の「双極」というのは、「2つの極がある」という意味です。著しく気分が高揚する「躁(そう)」状態と、意欲が低下し憂うつになる「うつ」状態という正反対の状態を繰り返すこころの病です。かつては「躁うつ病」と呼ばれていました。

うつ病と混同されやすいのですが、うつ病は「うつ」状態だけが現れます。それに対し、双極性障害は「躁」状態と「うつ」状態を繰り返すもので、両者は異なる病気です。双極性障害のうち、社会生活に支障があるほどの躁とうつを繰り返すタイプをI型、軽い躁(軽躁)とうつを繰り返すタイプをII型といいます。そのほか、軽い躁と軽いうつを繰り返したり、躁とうつが同時に現れたり、必ずしも診断基準にぴったりと当てはまらないなど、さまざまなタイプがあります。

原因は今のところわかっていませんが、脳内の情報伝達の乱れによるものではないかと考えられています。発症の背景には、ストレスや生活環境の変化、生活リズムの乱れなどがあることが多いようですが、きっかけがはっきりしない場合もあります。

双極性障害になる人の割合については調査によってばらつきがありますが、I型では約1%、II型では約5%とする報告もあり、決して珍しい病気ではありません。若い時期に発症することが多く、特にI型では10代後半~20代前半が発症のピークとなっています。しかし、見逃されやすい病気であることから、適切な診断・治療に結びつくまでに長い時間がかかることが多く、正確な診断を受けるまでに10年以上かかったケースが患者の3分の1を占めるという報告もあります。早期発見のためにも、本人や家族が病気の正しい知識を持っておくことが必要です。

 

「躁」状態とは

気分が高揚し、万能感に満ちあふれます。

異常なほどの気分の高揚が持続し、「自分はえらい」「自分はすごい」という気持ち(万能感)が強くなります。体中がエネルギーに満ち溢れたように感じて、あまり眠らなくても平気になったり、上機嫌でおしゃべりになったり、さまざまな考えが次々に湧いて、じっとしていられなくなったりします。

しかし、単に陽気でエネルギッシュな状態というものではなく、同時にさまざまな問題も引き起こします。例えば、他人に対して高圧的な態度に出たり、到底できそうにない無謀な計画を実行に移そうとしたりして、周囲の人とトラブルを起こすこともしばしばです。後先を考えず快楽的な行動に熱中し、異常な浪費や性的逸脱行為などが見られることも少なくありません。また、アイデアを続々と思いついているようでも、実際には複数の考えが頭の中で競い合っているような状態になり、注意力散漫でものごとに集中できなかったりします。

周囲から見ると「異常である」ことは明らかですが、本人に自覚はなく、自分の思考や行動を正当であると思い込んでいる場合がほとんどです。病気であるという意識がないため、自分から病院へ行こうとすることはまずありません。

 

「うつ」状態とは

意欲が低下し、何ごともおっくうになります。

気分がひどく落ち込み、憂うつな状態(抑うつ気分)が、二週間以上続きます。感情が振れなくなり、好きだったものに興味や意欲が持てなくなったり、何をしても「楽しい」と感じられなくなったり、おっくうで何も手につかなくなったりします。身体の面でも、眠れない、食欲がない、疲れやすいなどの症状が現れます。

誰にも会いたくなくなって部屋にひきこもる、食事や入浴といった基本的な生活行動への意欲も湧かなくなって一日中布団の中から出られない…というような場合もあります。さらに、ものごとを悲観的に考えがちになり、将来に絶望したり、自分自身を責めたり、自殺を考えたりすることもあります。

「うつ」状態の本質は、単なる気分の落ち込みではなく「心のエネルギーの枯渇」です。あらゆることが辛くなり、無理に何かをやってみても、かえって疲れてしまい、悪化するばかりです。

 

社会的損失が大きい

仕事や家庭を失うなど、人生が大きく損なわれることがあります。

双極性障害の特徴は、本人の社会生活に大きな影響を及ぼす点にあります。
特に、「躁」状態のときが深刻です。常軌を逸した行動によって、周囲の人とトラブルを起こすことが多いからです。例えば、相手の都合などおかまいなしに夜中に電話をかけて話しまくったり、相手をバカにしたような態度をとったりしているうちに、信頼を失い、友人が離れていってしまいます。職場では、取引先にできもしない約束を交わしたり、非現実的なプロジェクトを実行に移そうとしたりして、法的な後始末が必要になるような問題を生じさせ、解雇など深刻な事態に陥るケースもあります。 家族が振り回されることもしばしばです。本人の自分勝手な言動に翻弄されて疲れきってしまったり、多額の借金を背負わされたりして、別居や離婚にいたることもあります。

一方、「うつ」状態の時には希死念慮(死にたいと思う気持ち)が強くなる傾向にあり、自殺率が高いことが指摘されています。このように、双極性障害は自然に治ると思って放置しておくと、人生そのものが大きく損なわれ、すべてを失いかねない病気です。早期の受診・治療につながることが何よりも重要です。

 

病気であると気づきにくい

本人が自覚しにくい病気です。

前項で説明したように人生に大きな支障を及ぼす病気であるにも関わらず、双極性障害は見逃されやすい傾向にあります。その原因は、「うつ病」と間違われやすいことにあります。

双極性障害が「躁」状態から始まるか「うつ」状態から始まるかは人によりますが、多くの研究では約3分の2の人が「うつ」状態から始まるとされています。双極性障害の「うつ」状態は、うつ病の症状とほぼ同じです。そのため、明らかな「躁」状態が出てくるまでは、「うつ病」と診断されてもやむをえない面があるのです。

さらに、病気の経過をたどる中で、「躁」状態の期間と「うつ」状態の期間は同程度現れるのではなく、「うつ」状態の期間のほうがはるかに長いのです。本人が苦しいのは「うつ」状態のときであり、「躁」状態や「軽躁」状態のときは病気であるとは思いません。むしろ、「うつ」が治った好ましい時期と認識します。そのため、受診をするのはどうしても「うつ」状態のときとなり、本人が「躁」状態や「軽躁」状態のことを医師に話さなければ、やはり「うつ病」と診断されてしまうことが多いのです。

双極性障害を見逃さないためには、受診時の状態だけではなく、それまでの行動も振り返った丁寧な問診が必要になります。その際、これまでの人生で「躁」状態や「軽躁」状態にあてはまりそうなことがなかったかどうかの情報が不可欠です。本人のセルフチェックも大切ですが、自分ではなかなか分かりづらい状態のため、普段と変わったようすがなかったかどうか、家族や周囲の人の気付きも大切になります。

 

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