強迫性障害からの回復
もくじ
(監修:千葉大学 子どものこころの発達研究センター長 清水栄司)
治療を取り巻く現状
適切な治療を行えば、回復が期待できます。
強迫性障害の治療をめぐる状況は、2000年代に入ってから大きく前進し、適切な治療を行えば回復が期待できるようになってきました。
現在、強迫性障害の治療法には、薬物療法と認知行動療法があります。2つを併用すると、より改善効果が上がるとされています。しかし、強迫性障害は症状の程度も現れ方も人によってさまざまなので、治療の効果も人によって違います。治療法は、本人の状態や、別のこころの病をあわせ持っているかいないかなどによっても異なります。いずれにしても、専門医の指導のもとで時間をかけて行います。
自己判断をせず、まずは精神科や心療内科などで、正しい診断を受けましょう。
薬物療法
脳の中の神経伝達物質の量を調節します。
強迫性障害の薬物療法で主に使われるのは、うつ病などの治療にも使われる抗うつ薬SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)です。脳の中の神経伝達物質の一つ「セロトニン」の量を調節します。
服用を始めると、早い人では2~3週間で症状が軽減するなどの反応が出てきます。しかし、もっと後になって反応が出る人もいます。効果の出る服用量も人によって違うので、様子を見ながら少しずつ調整していきます。自分の判断で勝手に服薬を中止したりせず、主治医の指示に従って服薬を続けることが大切です。
また、SSRIは比較的副作用が少ないといわれていますが、中には吐き気や口の渇き、便秘や下痢などの副作用が出る人もいます。体に変化があったら、必ず主治医に相談しましょう。
認知行動療法
患者の認知や行動を変えていくように働きかけます。
認知行動療法は、心理学を用いた治療法です。治療にあたるのは、研修を受けた精神科医や心理士などで、患者の認知や行動を変えていくようにはたらきかけます。
強迫性障害の治療で主に行われるのは、「曝露反応妨害(ばくろはんのうぼうがい)」という方法です。患者がこれまで恐れたり避けたりしていた状況にあえて自分をさらし(曝露)、その後、これまで不安や不快感を打ち消すために行っていた強迫行為をできるだけしない(反応妨害)ようにします。最初の段階では患者は強い不安を覚えますが、この状態をしばらく続けると不安は下がってきます。強迫行為をしなくても不安がなくなることを実感できれば、強迫行為をする必要はないとわかり、次第に強迫行為をしなくなる方向に向かいます。
薬物療法は全国どこでも受けられますが、認知行動療法を受けるには、強迫性障害を熟知した治療者がいることが前提になります。まだ新しい治療法なので、熟練した治療者は少ないのが現状です。認知行動療法を受けたい場合は、専門の医療機関に問い合わせたり、主治医に相談して紹介を受けたりすることが必要です。
強迫性障害と上手に向きあう
自分をよく知り、ストレスの少ない生活を心がけましょう。
症状の再発や悪化を予防するには、強迫性障害の悪循環のしくみにはまらないようにすることが大切です。
日々の生活の中で、不安やストレスを感じるときがあるのは当然です。しかし、それを打ち消そうとしたり、焦って解決したりしようとすると逆効果です。不安やストレスは、ゼロにはなくならなくても、時間が経てば必ず減っていきます。もし、強迫観念→強迫行為という悪循環にはまりそうになったら、ひと呼吸おいて立ち止まってみましょう。疲れを溜めないよう、意識して適度な休憩をとるようにすることも大切です。
また、強迫性障害になりやすい人は、もともとまじめで融通がききにくい人や、ひとつのことを徹底的に追求したがる人が多いようです。それは一つの個性であり、悪いことではありません。そのような自分の個性を知っておき、ストレスをうまくかわせるようにしたり、無理のない生活を送れるように心がけたりしておくと、ずいぶんと再発を起こりにくくすることができます。
症状が残っていても、社会生活を送ることは十分可能です。他人と自分を比べず、「今」の自分にできることに目を向けましょう。
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