大人の発達障害とのつきあい方

もくじ  

(監修:昭和大学附属烏山病院 病院長 加藤進昌)※所属は監修時

「苦手なこと」を理解する




発達障害のある人が日々の生きづらさを軽減していくためには、どうすれば生活上の不適応を減らせるかがポイントになります。そのためには、まず、ありのままの自分を受け止め、「どのような場面でつまずきやすいのか」を分析し、理解することが大切になってきます。

自分の苦手なことが整理できると、具体的に何に気をつけたらよいかがわかり、今後の方策を立てるために役立ちます。苦手なことを完璧に克服することは難しいかもしれませんが、意識を変えたり、生活を工夫することによって、「障害」を「凸凹」の範囲に収めることができる可能性は十分にあります。

では、当事者のみなさんは、実際にどんな工夫をしているのでしょうか?
次節では、職場での場面を中心に、いくつかのケースを見ていきたいと思います。

職場での知恵と工夫




発達障害のある人のうち、ASDの人は、耳からの情報処理が苦手なことがあり、指示が聞き取りにくかったり、聞き間違えたり、長い説明が途中で分からなくなったりする場合があります。また、ADHDの人は、同時に複数の情報が入ってくると、どれに注意を向けていいのか混乱することがあります。

こうしたことに対する工夫・改善のポイントとしては、

・口頭ではなく、メモやメールなどの「文書」でひとつずつ伝えてもらうようにする
・些細なことでも必ずメモを取る
・できるだけ一対一、できれば窓口となる人を限定して、対面で指示をしてもらう
・図やイメージ、フローチャートなどを使った自分流のマニュアルを作る/作ってもらう

などが挙げられます。

︎⚫︎段取りがうまくいかない
ADHDの人は衝動性が強く、目に付いたところから次々と手をつけて、やるべきことを忘れてしまったりすることがあります。また、仕事を先延ばしする傾向もあり、中長期の仕事をうまく管理するのが難しいことがあります。一方、ASDの人は、全体を客観的に見て仕事の段取りを組み立てたり、優先順位を決めたりすることが難しい傾向があります。

こうしたことに対する工夫・改善のポイントとしては、
・仕事をパターン化する/記憶に頼らない
・やるべき仕事をすべて書き出し、順番をつけ、見えるところに貼る(ノートや付箋などを利用)
・終わった仕事からどんどん消していく/付箋を捨てていく
・優先順位がつけられないときは、上司や周囲の人に優先順位を決めてもらう
などが挙げられます。

⚫︎︎片付けられない、物をなくす
注意・集中力の問題もありますが、人によってはこだわりや視覚認知・空間認知の問題で片付けがうまくできない場合もあります。
こうしたことに対する工夫・改善のポイントとしては、
・しまう場所を決めておく
・保管場所を一覧表にし、目の届くところに貼る
・物を増やさないよう、定期的に整理する時間を取る
・書類やメモはデータ化して保管する
などが挙げられます。

︎⚫︎報告・連絡・相談が苦手
発達障害のある人がよく起こす失敗のひとつに、仕事で適切な報告や相談をすることができず、トラブルになるということがあります。
工夫・改善のポイントとしては、以下のようなものが挙げられます。

(1)タイミングが分からない場合
・メモにして相手の机に置いておく
・「今よろしいでしょうか?」と尋ねる
・上司と相談して、定期的に報告するタイミングを決めておく(毎日○時にする、3日ごとにする、など)
・上司と相談して、業務のフローを明確化し、どの時点で報告すればいいのかルールを決めておく

(2)「何を報告すべきか」が分からない場合
・何をどのように報告するかのポイントを、あらかじめ例を出して具体的に教えてもらう
・報告する前に、伝える内容を整理して紙に書いてまとめる
・口頭だけでなく、文書やメールでの報告でも良しとする

(3)誰に相談していいのか分からない場合
・業務によって、それぞれ相談相手を決めておく(例:コピー故障→○○課長)

などが挙げられます。

このように、自分の特性や「苦手なこと」が分かれば、さまざまな工夫によって、生活上のつまずきを減らしていくことは可能です。しかし、苦手なことばかりに目を向け、その改善や克服だけを考えていても、なかなかうまくいきません。苦手なことへの対処と同じくらい、「得意なこと」や「自分の強み」を活かす方法を考えていくことも大切です。

例えば、ASDの人の中には、非常に集中力が高く、他の人が苦手なルーティンワークや緻密性を必要とする作業が得意な人もいます。自分の関心のある分野であれば、データや文献を調べることに高い能力を発揮する人もいます。また、ADHDの人の中には、高いエネルギーと行動力があって、気おくれせずに誰とでも話をすることができたり、発想力が豊かでいろいろなアイデアを出せるというような人もいます。

「得意なこと」や「自分の強み」が活かされるということは、職場にとって「必要な人材」になるということです。そうすれば、周囲の人も「まあ、お互い様だな」という気持ちで受け入れやすくなり、苦手な部分もフォローしてもらいやすくなります。

苦手なことへの対処と同時に、こうした「得意なこと」や「自分の強み」を活かすことも考えてみてはいかがでしょうか。そして、企業にも、ぜひこのような「本人のいいところの活かし方」を検討していただければと思います。

支援や制度を利用して働く



「大人の発達障害」の存在が知られるようになるにつれ、障害者に対するさまざまな就労支援制度や福祉サービスが、発達障害のある人たちにも適用されるようになってきました。一般就労が困難な場合は、こうした制度を利用して働くこともできます。まだまだ発展途上の分野ですが、こうした働き方を選ぶ人も増えてきています。

⚫︎障害者の就労支援制度を利用して働く
「障害者雇用促進法」によって、従業員45.5人以上の民間企業は2.2%以上の障害者を雇用することが義務づけられています。また、就労のためのトレーニングを受けたり、3ヶ月程度試しに働いてみる「トライアル雇用」といった制度や、「ジョブコーチ」という働きやすい職場環境を整えるための支援の仕組みもあります。

発達障害のある人も、行政機関で「障害がある」と認定されれば、こうした制度を利用することができます。(※「障害」の認定の仕組みについては、自治体によって違いもありますので、市町村の障害福祉課か、お近くの「発達障害者支援センター」におたずねください。)

⚫︎︎障害者福祉のサービスを利用して働く
障害者福祉サービスの中にも、就労を支援するための制度があります。利用にあたっては、行政による「障害」の認定が必要なものもあります。
主なサービスは以下の2種類です。

【就労移行支援事業】
一般企業等での就労を希望する人に、一定期間(おおむね2年)、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練や支援を行います。

【就労継続支援事業】
一般企業等での就労が困難な人に、働く場を提供するとともに、知識及び能力の向上のために必要な訓練や支援を行います。

多くの事業所がありますが、作業の内容、給料(工賃)の水準、勤務時間などは事業所によって大きく違います。発達障害のある人を受け入れた実績があるか、雰囲気が合うか、実際に見学したり、試行通所をしたりすることが必要です。地域にどんな事業所があるかは、お住まいの市町村の障害福祉課にお問い合わせください。

 

相談窓口/支援団体/サービスなど

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