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発達障害を生き抜くために 診断と治療

しんどい症状はきちんと医師に話して必要ならばちゃんと薬のお世話になることや、デイケアなどを利用して社会の中で自分の居場所をつくることも大切なんだと反省&改心し、先日、診察とデイケアの説明を受けました。
(ピンポンさん)

発達障害の診断は、ASD、ADHDなど、診断名ごとにそれぞれ国際的な診断基準があり、精神科医が相談者との面談や検査を行いながら、時間をかけて総合的に判断します。他の病気の診断と大きく違うのは、子どもの頃からの生育歴が重要ということです。発達障害の特性は子どもの頃から存在しているものなので、現在の症状や困難さが子どもの頃の特性とどのように結びついているかを見極める必要があります。子どもの頃の成長の記録や証言があれば、用意していくといいでしょう。
ただ残念ながら、現状では、大人の発達障害を診断できる精神科医はまだ多くありません。診察を希望する場合は、精神科のある病院やクリニックに「大人の発達障害について診断できるか」ということを問い合わせてみてください。地域によっては発達障害の診察をしている医療機関を、医師会や発達障害者支援センターなどが公表しているところもあります。

治療については、主に薬物療法と生活療法の二つがあります。
薬物療法では最近、ADHDの症状を緩和させる効果のある薬が成人にも適応されました。またうつ病など二次障害で陥りがちな症状への治療としても、よく行われています。
生活療法ではデイケアがあります。そこでは、障害について理解を深めることを目的とした心理教育や、コミュニケーションの向上を目的としたSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)などが行われています。しかし、発達障害に特化したプログラムを有しているデイケアは少ないのが現状です。

どちらの治療法にせよ、現在のところ発達障害を根本的に「治す」ことはできません。発達障害の特性とは、その人が生まれもった「ものの感じ方・考え方・行動の仕方」と深く結びついていて、それを根本的に変えることはできないからです。
従って「治療」のめざすところは、生活上の不適応を軽減し、「発達障害」を発達の「凸凹」の範囲に収められるような方策を見つけることになります。そのためには、なぜ不適応が生じているのか(発達障害の特性そのものか/二次的な要因によるものか/周囲の環境によるものか など)を検討し、どうすれば不適応を減らせるかを様々なアプローチ(症状を緩和させる/対処法を身につける/環境を変える/周囲の人にサポートを求める など)で探っていくことになります。その上で安定的な「居場所」と「役割(仕事)」を見つけることが目標となりますが、その際にはさまざまな支援機関を活用することも可能です。

コラム

発達障害専門外来の現場から

昭和大学付属烏山病院・神経研究所晴和病院
医師 加藤 進昌

(寄稿:2014年4月)

昭和大学附属烏山病院(世田谷区)と晴和病院(新宿区)で私たちは大人の発達障害に特化した外来を開いています。マスコミでもたびたび取り上げられたこともあって、これまでに3,200人にのぼる方が訪れています。外来はASDの人たちを主な対象にしており、ASDと診断された方は、デイケアでの対人スキルの訓練にお誘いしています。デイケア登録者も今では350人を数えます。最近はADHDの人たちも増えており、そういった方に合わせたプログラムも開発しつつあります。

この専門外来を訪れる人たちの中で、ASDと私たちが診断する方はおよそ3割です。ADHDが1割弱ですので、専門外来に発達障害ではないかと訪ねてこられる方々のおよそ6割には違う診断をお伝えしていることになります。グレーゾーンで確定できないけれど、デイケアで様子を見て判断しようという方も、3割の中には含まれます。実感では、確実にASDと私たちが診断する方はせいぜい2割くらいでしょうか。外来総数とデイケア登録者数の落差の大きさもそのためです。

では自分ではASDと思っても、そうではないと私たちがお伝えする方はどういう人たちなのでしょうか。まず強調したいのは、精神科を訪れる方の悩みの大部分が対人関係に関するものということです。発達障害が原因というのはそのうちの一部にすぎませんから、他にはあらゆる精神的な悩みが含まれることになります。中でも目立つのは私たちが社交不安障害と呼ぶものです。元来対人関係に敏感な人が、学校でいじめや学業の失敗などをきっかけに対人接触に不安をもってしまうといった経過が典型的です。ASDの人たちは逆に対人関係には鈍感で、いわば「いつでもどこでも誰にでも」「周りが見えていない」のです。それは幼い時から明らかですから、最初に違和感を覚えるのは通常お母さんです。他の子と興味を共有しないので、同じ年頃の子ども達と遊べませんし、また関心自体がありません。

私たちのデイケアでどんなことをしているかは、五十嵐さんのコラムをご覧下さい。大事なことは、同質の特性を持った人たちが集まって初めて有効であるということです。不安障害の人たちには違うアプローチが必要です。彼らにはしっかりした自己像があって、だからこそ不安になっているわけで、いわば心理的構造が違うのです。カウンセリングや精神療法が役に立ちます。一方で発達障害の人たちにはそういったアプローチは効を奏しないと思います。

何よりも正しい診断を受けることが出発点になります。そこで初めて、障害の特性に応じたアプローチを本人も周りの人たちも取ることができます。周囲の理解とサポートがあれば、本人も得意なことを活かして社会に貢献する良い循環に持っていけるのではないでしょうか。