須川まきこさんスペシャルインタビュー
ドキッとするような詩の世界観をファンタジーに

障害のある人がつづった詩と、その詩に込められた思いを表現したアート作品を展示する「ハート展」。アート作品を手がけた著名人・アーティストの方々に、詩から受けたイメージや作品のポイント、詩からアートへバトンをつなぐ「ハート展」の取り組みについての印象などをうかがいました。

Qハート展のイメージは?

ハート展では以前、選考委員もさせていただいていましたが、想像を膨らませて書かれた詩がアーティストにバトンタッチされてパワーを増す、素敵なプロジェクトだと思います。さまざまな障害をお持ちの方の詩を読むなかで、リアルな感情がふくよかな言葉に込められていることに驚かされますし、日常の喜びやもどかしさがダイレクトに伝わる強いエネルギーを感じています。

Q詩を読んで絵を描くという作業。普段の創作活動との違いはありますか

詩がベースになりますから、作者の方の思いに沿えるよう想像を膨らませました。そういった意味では普段の創作活動とはプロセスが違っています。
今回、私が絵を担当したのは66年前に事故で右脚を失った90歳の印南房吉さんが書かれた詩。「白い骨が一本 黒い靴を履いて ユラリと揺れている海底」という詩の冒頭部分を読んだとき、ドキッとしました。

Q詩を書かれた印南さんは90歳の男性。性別も年代も全く違いますが、共感した点はありましたか

私自身も義足なので、印南さんの気持ちが詩を通してスッと入ってきました。どのような経緯で脚を失くされたのかは分かりませんが、60年もの間、お互いを想い合っていて、逢う日を楽しみにしているという部分にポジティブな印象を受けました。「もうすぐだね」という一文は、ご年齢を思うととても深い言葉ですね。

Q詩から受けたイメージは?

印南さんの詩を絵で表現するために、どんなファンタジー性を持たせようかと考えたとき、「逢う日が楽しみでね」という部分がヒントになりました。印南さんはきっと、日常のあらゆる場面で相方だった脚を想って生きてきたのだろうなという想像から、イラストのイメージを膨らませています。

Q印南さんの詩をどのように絵にしていかれましたか

イラストでは印南さんの詩の世界観にファンタジー性を持たせ、希望を感じていただけるようにビジュアル化しています。海の中ではアイドル的な存在の人魚が、脚を抱いて印南さんの代わりに大切に想っている。まるで贈り物のように脚にはリボンも添えられています。そんな様子を太陽の光がさんさんと差し込む色彩で、彩度が明るめの絵の具で配色することで明るい印象に仕上げました。

Q作品のここを見て欲しいというポイントは?

「白い骨が一本 黒い靴を履いて」という一文から連想されるのは、男性のイメージです。それをファッション的に表現するために、レースアップのブーツに仕立ててリボンを添えました。リボンを描いたのは、再会できた脚に贈り物のようなイメージや、大切な思いを重ねたかったから。そういった点を感じながら見ていただけたら嬉しいです。

Q以前務められた選考委員のご経験はどのようなものでしたか

選考委員を務めた際には、さまざまな障害をお持ちの方の作品をたくさん読ませていただきました。どの作品も短いセンテンスのなかに、ふくよかな言葉でリアルな感情がつづられていました。日常のもどかしさや喜びの感情が伝わってきて、長い時間お話をするよりも伝わるものがダイレクトな気がしました。

Q 12年前(第12回)にも作画者を務められておられます。その際の印象は?

12年前は、目の見えない女の子の詩を担当させていただきました。彼女は目が見えない分、私たちよりも見えているもの、感じていることがたくさんあることを知りました。日常的に感じる喜びやもどかしさ、悔しさやあたたかさ、家族とのふれあいなど、ストレートな感情表現から、より人間らしさやエネルギーを感じることができました。私たちはついつい理性的に感情を抑えることが多いけれど、彼女の表現から日常の幸せを改めて痛感しましたし、教えられました。

Qハート展からどんな影響を受けましたか

詩のパワーはもちろんですが、作画に関しても詩に寄り添う思いやりの気持ちが込められているので、相乗効果でいい作業時間が生まれているのではないでしょうか。私自身、詩に込められた希望を無意識に受け取っていて、それが作品に反映されているように思います。こうした経験を重ねることで、私自身の制作活動も今後より深まるような気がしています。