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地域の“福祉”を守りたい ~社会福祉協議会職員・ギタリスト 川崎昭仁さん~【つなぎびと】

記事公開日:2023年11月17日

あなたの世界とわたしをつなぐ「つなぎびと」。今回の「つなぎびと」は、川崎昭仁さん。社会福祉協議会の職員であり、プロのギタリストです。誰もが自由に生きられる優しい社会を目指したい―。そんな川崎さんの思いに迫ります。

金髪に真っ赤な車いすがトレードマークの川崎昭仁さんは、長野県の社会福祉協議会の職員として働きながら、ギタリストとしても活動しています。

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川崎昭仁さん

2021年に行われた東京2020パラリンピックの開会式では、ギタリストの布袋寅泰さんと共演。今でも職場のデスクに布袋さんのサイン入りCDを置き、仕事のモチベーションを上げています。

画像(布袋さんのサイン入りCD)

そんな川崎さんの社協での仕事は、福祉の担い手となる若い人材の育成です。

これまでもさまざまな福祉教育の授業やイベントを企画。学校などで自ら講演したり、パラアスリートを招いてパラスポーツの体験イベントを開いたりしています。

画像(川崎さんの活動)

各市町村にある社協のサポートも、県の社協で働く川崎さんの仕事です。

この日は、須坂市社協からイベントの相談があり、福祉の考え方について学んでもらうためのゲームをいくつか提案しました。
その中のひとつが、「輪ゴム外し」。

川崎さん:手を使わないで、口でかんだりとかしないで、(腕に巻いた)輪ゴムを外してください。

須坂市社協の職員は机の角に輪ゴムを引っ掛けるなど、試行錯誤しますがうまくいきません。

画像(机の角で輪ゴムを外そうとする職員)

川崎さん:隣の人に「取って」と言えばいいだけなんですよ。自分でやろうとするのも大事だけど、できないことは「お願い」って隣の人に言えば、1分もかからず取れちゃう。できないことを「できない」と伝えるのは意外と恥ずかしくてプライドとかがじゃまして言えない。でも、できないことは隣の人と協力してやれば、もっと簡単にできるんだよということを伝えるゲームなんです。

人生に必要な「遊」と「学」

幼い頃、高熱が続いた影響で手足に麻痺が残った川崎さん。車いす生活となりました。

画像(幼少期の川崎さん)

ギターに魅了されたのは高校生のとき。ロックが好きでバンドをやりたいと憧れがあったものの、障害があるので無理だと諦めていましたが、両腕のない人が足を使ってギターを弾いているのをテレビで見て意識が変わります。

さっそくギターを買い、猛練習。次第に独自の弾き方を編み出していきました。

画像(高校生の頃の川崎さん)

卒業後はミュージシャンとして活動するようになります。
生活が一変したのは、19歳のとき。最愛の母親が病気で亡くなってしまったのです。

川崎さん:家族が母一人、子一人だったので・・・。母がいなくなると生活が成り立たない。母が亡くなった悲しさよりも、明日からどうやって生きていけばいいんだろう、誰が飯を作ってくれるんだろう、誰が風呂に入れてくれるんだろうという不安が先にきましたね。

生活するためには毎日の介助が必要な川崎さん。当時は介助サービスが確立されていなかったため、ヘルパーを利用できるのは週3日が限度で、施設に入るしかありませんでした。

しかし、施設で暮らすと、部屋では音を自由に出せず、音楽活動の時間も制限されてしまいます。

そんな時、川崎さんに手を差し伸べてくれたのが、社協や施設の人たちでした。

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施設職員と川崎さん

川崎さん:「川崎だったら地域で一人暮らししていけると思う」と言ってくれた。ボランティアを30人集めて、月に1回だけお手伝いするのであれば、そんなに負担にはならない。当時はまだ今みたいに制度もなかったから、ヘルパーも週に3日、1日2時間が利用限度だったんです。それを市の社協の方たちや施設の職員が頑張ってくれて、(介助ボランティアが)毎朝来てくれるようになったので、一人で生活ができるようになりました。

そしてその時、職員の人にかけられた言葉を社協の職員となったいまでも大切にしていると言います。

川崎さん:衣食住を保障して、安心して生活していけるためのものを支えていくのが僕ら社協の務め。だけどそれだけだと人生を楽しむことにはならない。足りない。「遊」と「学」が必要で、「遊」は趣味とか余暇とか遊び、「学」は教育とか学びで、これらがあって豊かな人生を送れると言ってくれた。だから自分も社協の務めとして、衣食住を保障していくだけではなくて、「遊」と「学」の部分もあわせてもっと広げて人生を豊かにできるようサポートしていければいいなと思います。

「車いすのギタリスト」と呼ばれて・・・

周囲の協力で自由に音楽活動を続けることができた川崎さん。さまざまなメディアに取り上げられるようになり、うれしかった反面、葛藤もありました。

画像(バンド活動する川崎さん)

川崎さん:(マスコミに)取り上げられるときは必ず「障害者が頑張ってる」と。いつも見出しが「車いすのギタリスト」とか「車いすのロッカー」と書かれて、それがすごく嫌だったんです。

しかし、あるコンテストへの出場がきっかけで意識が変わります。

力試しのつもりで出たコンテストでファイナルまで残り、優勝こそ逃したものの「ベストギタリスト賞」を受賞。素直に喜べなかった川崎さんは、審査員に思いをぶつけました。

川崎さん:障害のある人が頑張ってる珍しさとか、絵的な部分で取り上げられたと思ってしまったので、ベストギタリスト賞も素直に喜べなかった。で、審査員の一人に聞いたんです。「そういうことで僕にこの賞をくれたんですか?」と。そうしたら、「そんなことをしたら、出場したほかのギタリストに失礼でしょ。君がいちばんいいと思ったからこの賞をあげたんだ」と言ってくれました。そのとき初めて、賞をもらえたことが素直に喜べました。見てくれている人は見てくれてる。「車いすのギタリスト」と言われるけど、それをいちばん気にしてるのは自分なんだなと。障害と関係なく、僕をいちギタリストとして見てくれる人がいると気付かされました。

その後、ギタリストとして活躍の場を広げた川崎さん。2021年には東京パラリンピックの開会式に出演するという夢を叶えました。

残念ながら当日は無観客でしたが、世界中からフィールドに集まったパラアスリートたちを前にギターを演奏します。

川崎さん:あのとき、あの場所には、僕のように車いすに乗った人のほかにも、目の見えない人、耳の聞こえない人、片腕とか片足のない人、考えることが苦手な人、メンタルの弱い人、いろいろな人がいたんです。みんなそれぞれ役割を持って、ひとつの大きなショーができたんですよね。これって、世界のあり方の理想の形なんじゃないかなと。いま思うと、そういうところに参加できたのが感慨深いし、よかったなと思います。

「福祉」を伝え続ける意味

川崎さんは毎年、県内の学校で福祉教育の一環として授業を行っています。今回、参加したのは、長野県上田千曲高等学校の生活福祉課の2年生。看護師や保育士を目指す福祉の担い手たちです。

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授業を行う川崎さん

川崎さん:自分だけじゃなくて、人に優しくしてほしい。人を楽しませたり、喜ばせたり、感動させたりできる人になってほしい。人に優しくした分は、必ず自分に帰ってくると思う。僕もいろんな人の優しさをもらってここまできた。僕はギターを弾いて、話をするしか返すことができないけど、皆さんが何かをするきっかけになってくれればいいなと思います。皆さんで障害者だけじゃなく、人に優しい社会を作ってもらえるように頑張ってほしいなと思います。

まず提案したのは、「ふくし」がつく言葉をあげていくゲーム。「楽しく学ぶ」ことが川崎さんのモットーです。

川崎さん:「ふくし」のつく言葉を答えてください。ヨーイ、スタート!

生徒:社会福祉。

生徒:介護福祉。

生徒:福祉施設。

川崎さん:このほかにいろいろあります。僕みたいな障害者福祉とか、高齢者福祉、児童福祉、地域福祉。いっぱいあるでしょ「福祉」って。結構身近なものだよね。

そして次に、川崎さんが大切にしている「福祉」についての基本的な考え方を教えてくれました。

だんの
らしの
あわせ

画像(黒板に書かれた川崎さんの言葉)

川崎さん:福祉というのは「ふだんの暮らしの幸せ」です。頭を縦読みしてください。「ふくし」ってなるでしょ。すべての人たちの「ふだんの暮らしの幸せ」を守る。これが「福祉」だと思ってもらえばいいかな。

地域に支えられて生きてきた川崎さんだからこそ、若い世代にも地域のつながりを大切にしてほしいと話します。

画像(授業を行う川崎さん)

川崎さん:若いうちに好きなことを好きなだけやって、そういうなかで生まれ育った故郷だったり、いま自分が住んでいる町だったりを愛してほしいですね。そして、「守っていきたい」という気持ちが歳とともに出てくれればいい。そのとき、僕が話をしたことを思い出してもらえればいいかな。そうして、いい地域を作っていけば、いい地域がたくさんできて、平和な国になるんじゃないのかなと。社協の僕らはそういうお手伝いをできればと思っています。

※この記事はハートネットTV 2023年6月12日放送「フクチッチ 社会福祉協議会 後編」を基に作成しました。

『つなぎびと』とは・・・?
マイノリティーの当事者同士を「つなぐ」、マイノリティーへの理解促進などのために社会とマイノリティーを「つなぐ」など、ご本人が当事者であるかどうかに関わらず、あるマイノリティーを別の世界に「つなぐ」役割をしている人たちのことを、ハートネットTV・フクチッチでは「つなぎびと」としてご紹介しています。

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