※この記事は2017年07月26日(火)放送の番組をもとに作成しました。
2016年7月に発生した障害者施設殺傷事件から1年。NHKには事件を悲しむメッセージが多く寄せられる一方で、「生産性のない障害者は守れない」「障害者は不幸」など、犯人に同調する声も届いています。19もの命を奪う事件はなぜ起きたのか。正論ですくい取れない“本音”にどう向き合うのか議論します。
2016年7月、相模原の障害者施設で19人もの命が、奪われる事件が発生しました。その後、1年の間にNHKハートネットTVへ寄せられたおよそ1,000件の声のなかには障害者を否定するようなものも少なくありませんでした。
40代の必殺仕事人さんからの声。
「障害者は私たちプロの社会人戦士から見たら、目障りかつ邪魔以外、何者でもありません。お願いですから、障害者はこの世からすべて消えてください。」
発達障害と身体障害があるという方からは、このような声が寄せられました。
「現在は障害就労で働いています。あの事件は職場でも話題になり、なかでも『殺されたのはかわいそうだけど、親兄弟はホッとしたべな。』と言っていた方がいました。自分も彼ら同様に、やっかいな存在であることをいやでも再認識しました。」(ナノーさん・30代)
こうした声をどう受け止めればいいのか。作家で、車いすユーザーの豆塚エリさんは、むしろこうした発言をするしかない人たちがかわいそうだと言います。
「こんなことをどうして言えるのかなという思いと、そんなことを言わなくちゃいけないなんて、この方がかわいそうだなと私は感じました。」(豆塚さん)
女装パフォーマーのブルボンヌさんは、こうした声が今も寄せられていることについて次のように感じています。
「私もある面では偏見や差別を受ける立場として生きているのですが、そうだからと言って、自分のなかに差別が何もないかというと全然そんなことはなくて。自分のなかを掘り下げていくと、そんなの偽善なんじゃないかみたいな気持ちとの葛藤があるんです。それって大人の分別で、みなさんも『ここは良い人でありたい。』として、思っているけど抑えている気持ちがたくさんあって。」(ブルボンヌさん)
障害者に対する、差別的な言葉は、番組だけでなく出演者にも届いていました。
2017年5月にハートネットTVに出演いただいた坂川亜由未さんとお母さんの智恵さん。重度の知的障害がある亜由未さんを介助する様子など、日常生活をディレクターであるお兄さんが撮影した様子を見て、応援してくれるような前向きな声が届いた一方、「目障り、不愉快です。」などといった辛い言葉も届いたと言います。
「最初はやっぱり、メール開いて『うわっ。』ってショックで…。あとは、コミュニティスペースを自宅でやっているので、住所や電話番号をオープンにしてるんです。向こうは匿名ですけど、こちらは全部さらけ出しているので、子どもに何かあったらというので、すごく怖かったです。」(智恵さん)
ただその一方で、地域との交流がなかなかなかった以前と比べると、今はそういうメールを受け取る辛さ以上のつながりを得られており、今後もコミュニティスペースを続けていきたいと考えています。
全国でライブ活動を行っているプロのロックバンド「サルサガムテープ」は、メンバーの半数以上に障害があります。今回の事件ではメンバーの友人が犠牲になりました。事件を受け、曲も作ったというかしわさんは、“障害者”という一般論や概念としてではなく個と個が出会っていくことが大切だと話しました。
「一人一人のAさん、Bさんが同じように生きてるだけなので、それを“障害者のみなさん”という概念のなかに押し込めてしまっているとこで、関係性がすべて絶たれてしまうわけですよね。」(かしわさん)
ブルボンヌさんもこの言葉に共感します。
「私たち性的少数者も“虹色、レインボー”っていう言葉をかかげていて、本当は区切りがないはずのことを便宜上、はっきり区切りがあるもののように言わなきゃいけないっていうのはあるんですよね。そういうところは共通した問題なのかなと思いました。」(ブルボンヌさん)
番組には、このようなカキコミも寄せられています。
「容疑者の意見には賛成です。正直、今の日本に障害者を保護する余裕はありません。普通の人でも生きるのが精いっぱいなのに、生産性のない障害者を守ることはできません。」(サバさん)
このコメントについて、ブルボンヌさんは次のように話しました。
「経済などが弱ってきたら、より弱者に対して、そういう目が向けられるという仕組みは分かるんです。例えば私たち(性的少数者)も普通に生きていたら子孫は残せないと。生産性がない人間かのように言われるんですが、でも、世の中って、そういう“物理的なもの”だけが循環してるわけじゃなくて、愛情や生きがい、悪い意味では人を嫌う心とか、そういうものも循環していて。単純なものではないから、『この子のために頑張ろう。』とか、『自分はこういうことが人より劣っているから、逆にここでは文化を発信しよう。』とか、複雑に絡み合っているものなのに、ただお金とか、産むか産まないかっていうことだけで“生産性がない”と断罪しちゃうのは、ちょっと違うと思うんです。」(ブルボンヌさん)
“生産性がない”などと断罪する風潮について、かしわさんは次のように語ります。
「“生産性”というのは、内的な生産性というのもあるわけですよ。例えば一緒にいてホッとするとか、これもすごい生産性なわけです。むしろ、生産性のないところで、本当の友情は生まれてくるわけじゃないですか。“守る”とか“救う”ということ自体が、かなり上から目線で、そういうことじゃないですよね。じゃあ何かというと、一緒にいるだけで良い、そばにいるだけで良いわけで。」(かしわさん)
では、「障害者は不幸を作ることしかできない」といった言葉などを言う人にどう声を届けていけばよいのでしょうか。
「不幸だと生きていってはいけないんですかね?不幸だっていいじゃんね? 不幸なときだってあるし、幸せなときだってある。誰だってそうなのに。」(智恵さん)
かしわさんは、障害のある人たちが「人の幸せ、不幸というのは、他人が決めることじゃない」と声をあげていくことが大切だと言います。
「『私たちは、あなたが言うほど不幸じゃないですよ。』って。『こんなに楽しく、地域のなかで生きてますよ。』って。『人の幸せ、不幸というのは、人が決めることじゃないんですよ』ってみんなで声をあげていかないと。」(かしわさん)
サルサガムテープのみなさんが相模原の事件のあとに作った曲「ワンダフル世界」の歌詞にはこんな一節があります。
「傷つき倒れかけたら肩を並べ2人で叫ぶ
それでもビューティフルいつまでもワンダフル世界
しあわせになるため生まれてきたんだ
生きていることが大好きなのさ」
事件から1年の間に番組へ寄せられた数多くの声から見えてきたのは、障害者に対する偏見が拭い去れないという現状でした。声を届け、どうすれば、障害や病気があっても暮らしやすい社会になるのか、番組ではこれからも一緒に考え続けていきます。
※この記事は2017年07月26日(火)放送のハートネットTV「シリーズ 障害者施設殺傷事件から1年 第3回 障害者は“不幸”?」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。