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インクルーシブ教育とは何か?(1) 障害のある子どもと共に学ぶ取り組み

記事公開日:2023年08月21日

すべての子どもたちが共に学ぶ「インクルーシブ教育」で大切なことは何か。50年程前からインクルーシブ教育を実践する学校の取り組みを紹介し、多様な子どもたちが共に育つための課題や必要な支援を専門家と共に考えます。

地域の学校への通学を阻むもの

2022年、国連は日本に対して、障害のある子どもとない子どもを分離する教育をやめるように勧告し、すべての子どもが共に学ぶ「インクルーシブ教育」を進める必要があると指摘しました。

インクルーシブ教育とは、多様な子どもたちが地域の学校に通うことを保障するために、教育を改革するプロセスであると定義しています。
国籍や人種、宗教、性差、経済状況、障害のあるなしにかかわらず、全ての子どもたちが対象です。

現在の日本では、障害のある子どもが籍を置く学びの場は3種類あります。

・通常の学級
・特別支援学級(1クラス8人まで)
・特別支援学校(1クラス6人まで)

国連から指摘されたのは、通常の学級に通いたい子どもが特別支援学級や特別支援学校に通わざるを得ず、ほかの子どもたちと分離されてしまう現状があることです。

文部科学省の有識者会議委員で、インクルージョン研究者の野口晃菜(のぐち・あきな)さんは、障害のある子どもが通常の学級に通えないのには構造的な問題があると指摘します。

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インクルージョン研究者 野口晃菜さん

「これまで日本は障害のある子どもと障害のない子どもを別々に教育する、分離教育を進めてきました。その結果、通常の教育は障害のない子どもを中心にデザインされています。たとえば看護師の配置や、介助員の配置、建物の作りなども含めて、障害のある子どもが通うことが前提の学校になっていません。障害のある子どもが就学するにあたって、(国は)『本人や保護者の意向を最大限に尊重する』とあるのですが、最終的に教育委員会が決める権限を持っています。そこが、国連も指摘している課題と思います」(野口さん)

配慮なき教室の苦しさ

一方で、希望通りに通常の学級へ通い、苦しむことになった当事者がいます。

山村さんの子どものアオイさんには発達障害があります。アオイさんは長時間集中することや、文字の書き取りなどが苦手です。そうした特性を学校に伝えたうえで、通常の学級に入学しました。

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山村さん

「幸い(1年時の)担任の先生がとてもサポートしてくださる先生で、宿題を半分の量にするなど、本人が無理なくやれるようにしていただきました。なので、学習はすごく楽しんでやっていた」(山村さん)

しかし、学年が上がるにつれ、学校の対応が変わったといいます。

「周りと変わらない教育(になりました)。漢字の書き順や、『とめ』『はね』『はらい』みたいな細かい書き方など、本人にとってはとても苦手な部分だったので、そこを細かく指導を受けるのがだいぶストレスになっていたようです」(山村さん)

山村さんは本人の特性にあった配慮をしてほしいと学校に伝えましたが、対応してもらえませんでした。

そして、ある日の授業中、事態が大きく変わる出来事が。アオイさんが机に顔を伏せていたときのことでした。

「(クラスメイトが先生に)『授業中なのになんで寝てるの?』と聞いた際に、先生がクラスのみんなに、子どもの特性について『こうなんだよ。だからそっとしておいてあげて』みたいな感じで伝えたらしいんです。聞いていた本人はつらかったと思って・・・。自分にどういう特性があるのか、準備もしていないときに、急に突きつけられた。たぶん、幼いながらも傷つく部分はあったと思います」(山村さん)

この出来事をきっかけに、アオイさんは大きく崩れていきました。鉛筆を噛みちぎり、ノートなどを切り刻むだけでなく、自分の髪の毛もはさみで切り、壁に頭を打ち付けます。

次第に些細なことでも落ち着きを無くし、毎日のように教室を飛び出すようになりました。

そして、ついに山村さんは限界を感じてしまいます。

「学校から『窓ガラスを割って、けがされて保健室にいます。お迎えに来てください』と電話がきて・・・。迎えに行ったときは、(本人は)ぼろ泣きという感じで、たぶん、本人がいちばんびっくりして、ショックも受けた。先生もしんどくなってしまっていて、そういう状態だったので、もういいのかなと」(山村さん)

親子はほかの学校の特別支援学級への転校を決めました。少人数のクラスで自分のペースで学べるようになったといいます。

「笑顔も自然と出るようになった。本来の子どもに戻った感じです。みんなが一緒に同じ教育、同じ場所でという、ただそれだけではなく、そこに目配りできる大人のサポート、学校全体の細かな配慮があると、もう少し違う道筋があったと思います」(山村さん)

通常の学級に通って苦しんだアオイさん親子。野口さんは、学校側の対応に問題があったと考えます。

「アオイさんに必要な、『合理的配慮』が提供されない状態だったと思います。合理的配慮とは、本人や保護者と一緒にどういう支援が必要なのかを決めて、その支援を実行していくことです。(アオイさんは)本人の意思がまったく考慮されていない、とてもつらい出来事だったと思います」(野口さん)

モデルで俳優の栗原類さんは、8歳のときに発達障害の診断を受けました。小学校低学年の頃はアメリカで学び、日本に帰って来たときに学校でサポートを得られなかったと振り返ります。

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栗原類さん

「(日本の学校でサポートは)まったく得られませんでした。分からない単語は、アメリカでは電子辞書を使いながら学ぶことが許されていたんですけど、日本の学校では先生から『それはダメだよ。ほかの人と平等じゃないから』と言われました」(栗原さん)

通常の学級で支援を得ることが難しいなか、特別支援学校や特別支援学級のほうが安心できるという声が寄せられています。

娘が小学校入学の際、特別支援級への入学を強く希望しました。娘は自閉スペクトラム症であり、少人数での支援が必要であると考えたためです。実際入学してみると、担任の先生はもとより、複数の支援員の方がいらっしゃいました。できるだけ本人のペースに合わせていただけるので、のびのびと学習できています。インクルーシブ教育を推進するのであれば、普通級の体制を特別支援級レベルに“引き上げる”ことが前提でなければなりません。
(もじゃもさん・保護者)

野口さんも、真のインクルーシブ教育を実現するためには、通常の教育から改革すべきだと主張します。

「これまでは、障害のない人たちを中心に作られてきた教育でした。その教育のまま、ただ教室で一緒にいるだけではインクルーシブ教育ではない。障害のある人がいることを前提に、通常の教育そのものをアップデートしていかなければ、インクルーシブ教育にはなれないと思います」(野口さん)

インクルーシブ教育を実現する小学校の取り組み

インクルーシブ教育を実現するために、長年試行錯誤してきた学校があります。大阪の豊中市立南桜塚小学校は全校生徒824人のうち、障害のある子どもが47人在籍しています。

4年生の津田愛士(つだ・あいと)さんは全盲です。津田さんは支援学級に在籍していますが、学校のさまざまな配慮によって、すべての時間を通常の学級で過ごしています。

使っている点字教科書の内容は、同級生の教科書と同じです。板書は先生が読み上げ、ノートを取るときに使う点字用のタイプライターは学校が用意して貸し出しています。

大きなタイプライターと分厚い教科書が欠かせない津田さんには、机がふたつ用意されています。

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津田さんの授業の様子

さらに、障害のある子どもをサポートする「支援担」と呼ばれる教員が一緒に通常の学級に入り、支援学級に在籍する子どもの授業を手助けします。

画像(支援担によるサポート)

支援担は9人。1人1台、インカムをつけて情報共有を欠かさず、子どもの突発的な行動や体調の変化に臨機応変に対応できるようにしています。

津田さんの学年では、ドッジボールをするときにユニークなルールがあります。それは、津田さんに当てるときはボールを転がし、津田さんが投げるときはみんなが止まるというものです。

ルールを決めたときのやり取りについて、担任の長尾佳苗さんが振り返ります。

画像(ドッジボールの様子)

「『津田さんはどうする?』という話に子どもたちからなりました。津田さんだけが楽しめるのはダメだし、みんなだけが楽しめるのもダメで、全員が楽しめるにはどうしたらいいかと(子どもたちだけで考えた)」(長尾さん)

津田さんは友人たちに囲まれながら、充実した学校生活を送っています。

「見える子たちばっかりだから、最初はどう扱ってもらえるのか心配があったんですが、いまはそういうのがない。見えている、見えていない関係なしに、仲よくなっているから嬉しい」(津田さん)

この日、放課後にクラスメイトが点字の文章を書いていました。誕生日を迎えた津田さんにメッセージを贈るためです。津田さんの同級生は全員、点字の書き方や読み方が書かれた一覧表を持っています。

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各自が持つ点字一覧表

「津田さんの宿題をみんなが(一覧表を)見ながら一生懸命点訳する。点字があるのが当たり前なので、『(なんで)点字がここにあるの?』という考えにはならない」(長尾さん)

この学校では、医療的なケアが必要な子どもも通常の学級で学んでいます。

3年生の前川椿さんは、「ウエスト症候群」と呼ばれる難病です。脳に障害があり、自力で立つことができない椿さんは、背骨が曲がらないように、毎日1時間ほど立って授業を受けています。

教室の前でみんなのほうを向いて授業を受けるのは、クラスメイトとの関わりやふれあいを増やしてほしいという家族の希望でした。

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授業を受ける前川椿さん

椿さんは水分補給をするときに胃ろうが必要ですが、学校には3人の介助員のほか、地域の病院から看護師が派遣されています。さらに、クラスメイトも自然と椿さんをサポートしてきました。

南桜塚小学校がインクルーシブ教育を実践できるのは、学校を含めた地域全体の取り組みの成果だと校長の橋本直樹さんが語ります。

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南桜塚小学校 校長 橋本直樹さん

「南桜塚小学校だけではなく、豊中市として(インクルーシブ教育を)実践をしてきました。1970年ごろまでは、豊中では障害の種別ごとに越境通学をしていました。そうしたなか、保護者から『なぜ近くにある学校に行けないのか』という声が上がってきた。そこに教職員が結びついて、ひとつの運動になりました」(橋本さん)

ここで、野口さんと栗原さんが学校の取り組みについて質問します。

野口さん:新しく赴任された先生方は、どのようにしてインクルーシブ教育の考え方を学ばれているのでしょうか。

橋本さん:例えば、赴任時に、点字盤が配られます。点字一覧があり、これを見ながら自分の名前を打って、プレートに貼ります。そうすると、全盲の津田愛士さんが私の名前を覚えてくれました。『この学校ではこうなんだ』と新たな意欲が湧いて、しっかりと勤めることができるようになりました。

栗原さん:南桜塚小学校にとってのインクルーシブ教育とはどのようなものでしょうか。

橋本さん:「すべての子どもたちが安心して地域で学べる」学校だと思っています。「安心して学べる」というのは、効率を求めるのではない。子どもたちがしっかり話し合い、共同作業をするなかで、「信頼」というキーワードで結ばれていきます。そうすると、授業中でも分からないことを安心して聞ける人間関係ができる。ですからインクルーシブ教育は、学習面でもすごく良い影響があると考えています。

インクルーシブ教育とは何か?
(1)障害のある子どもと共に学ぶ取り組み ←今回の記事
(2)国際色豊かな小学校から見る実践例

※この記事はハートネットTV 2023年5月9日放送「“インクルーシブ教育”を考える 障害のある子どもと共に」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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